先日、ムーディーズというアメリカの格付業者が、米国の信用格付について、見通しを引き下げました。信用格付は「Aaa」に据え置いたものの、先の見通しについては、「安定的」としていたものを「ネガティブ」に変更しました。
債券の格付は、債券価格や利回りに大きな影響を及ぼします。今回は、債券の格付について説明します。
債券投資は、資金を「貸す」投資
格付の前に、債券投資について簡単に説明しておきましょう。
債券投資は、株式投資と違って、資金提供の期間があらかじめ決められています。期限満了(満期)時には、出資した資金を投資家に返す約束になっています。国・地方公共団体や会社の事業資金を提供する点では株式投資と同じですが、資金の償還があるところが大きな違いです。
そこで債券投資は、「満期になったら約束通り資金が償還されるかどうか」が重要になってきます。投資家としては、資金を確実に返してくれるところに出資したいもの。満期時に投資家に資金を償還できるかどうかは、債券を発行した国・地方公共団体や会社(つまり借り手)の財務状況などで判断します。
資金が確実に償還される可能性
また、債券を満期まで保有している間、投資家は利子を受け取ることができます。債券の発行体の財務状況が非常に悪い状態になると、利子や前述した償還金(通常は債券の額面金額)は支払われなくなってしまいます。
利子や償還金を投資家に支払えるかどうかを「信用」といいます。会社や国などの信用度チェックするには、会計の知識が必要です。とはいえ、専門知識を持たない投資家にとって、会計の帳簿を見て財務状況をチェックし、判断を下すのはなかなか難しいものです。そこでそのハードルを下げるため、調査・分析を専門に行う機関が情報収集をし、債券の利子や償還金の支払い能力を判定して公表しています。
この専門機関を「格付業者」といい、「格付機関」「格付会社」とも呼ばれています。
現在、日本で格付業者として金融庁に登録しているのは、日本格付研究所、ムーディーズ・ジャパン、ムーディーズSFジャパン、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン、格付投資情報センター、S&PグローバルSFジャパンの7業者です。
格付は、アルファベットや数字などの記号で表示
格付は、格付業者が独自に判断し、記号で表示しています。格付業者によって表現の方法は異なり、アルファベットや数字、+(プラス)や-(マイナス)などの記号が用いられています。
例えば、「格付投資情報センター(R&I)」の発行体格付の定義は、【表】のようになっています。
将来の見通しも公表される
投資をするからには、投資対象の現在の状況だけでなく、将来にわたって安心して債券を持ち続けていられるかどうかも非常に大切です。
そこで、格付業者は、債券の発行体について少し先の将来の見通しも分析し、公表しています。業者によって表現が若干異なりますが、「格付の方向性」「格付の見通し」「アウトルック」がこれにあたります。
「格付投資情報センター(R&I)」の場合は「格付の方向性」として、「ポジティブ」、「ネガティブ」、「安定的」および「方向性未定」があります。中期的な方向性を示すものではあるものの、必ずしも将来この通りになることを約束するものではありません。
格付は絶対的なものではない
格付は、利子や償還金の支払い能力の目安にはなりますが、格付業者ごとに見方に差があります。一般に、国内の格付業者は日本国債や国内企業の社債に付ける格付には甘く、海外の格付業者からは厳しい評価を受ける傾向です。
また、一度下した判断が絶対ではありません。市場や経済の環境変化によって発行体の経営状態が変われば、格付や見通し(方向性、アウトルック)が変更されます。見通しが変更されないまま、いきなり格付が変更されることもあります。
場合によっては、格付の見通しが変更されただけでも市場にインパクトを与えることがあります。格付や見通しが変更された直後には相場が荒れたり急騰したりと不安定になるケースもあります。
なお、サブプライムローン問題が起こった要因の一つに、格付が十分に機能していなかった点が指摘されました。格付は、公正で判断の根拠が透明でなければなりません。
投資家としては、複数の格付業者の判断を確認することや、自分なりに投資対象の状況を見て考えることも大切です。