深セン証券取引所の主要銘柄(後編):アリババ創業者が「最も尊敬する人物」とは?

前回までは深セン証券取引所の主要銘柄を前編と中編の2回に分け、メインボードの時価総額上位銘柄を紹介してきました。特徴のある民営企業が数多く上場している深セン市場。今回は残りの3銘柄について紹介していきたいと思います。



時価総額8位は中堅銀行の平安銀行



時価総額8位は深センを拠点とする中堅銀行の平安銀行(000001)です。「株式制商業銀行」と呼ばれるカテゴリーの銀行で、日本で言えば「都市銀行」のような位置づけです。


上海市場で時価総額10位の中国平安保険(02318/601318)傘下の銀行です。2021年末時点の総資産は4兆9200億元(約98兆4000億円)で13位となっています。中国では中堅銀行でも、日本で総資産5位のりそなホールディングス(78兆1600億円)を上回る規模を誇ります。中国の銀行大手はほとんどが上海証券取引所に上場しているため、中堅の立ち位置ですが、深セン市場に上場する銀行銘柄としては最大です。


中国の銀行としては珍しく、積極的なM&A(合併・買収)によって規模を拡大してきた銀行です。銘柄コードが「000001」なのは、中国で最も早く上場した株式制商業銀行である深セン発展銀行を2012年に合併で取り込んだからです。



時価総額9位は中国宅配最大手の順豊控股

 


時価総額9位は中国宅配最大手の順豊控股(002352)です。現会長の王衛氏が22歳の時に父親から借りた資金を元手に立ち上げた会社で、一代で中国最大の物流帝国を築き上げました。ライバル会社の多くが加盟店方式を採用するのに対し、同社は直営方式を採用。内部管理を徹底してサービスの水準を保つとともに、大胆な改革で配送スピードの向上に取り組んできました。物流事業の経営の難しさをよく知るアリババ集団創業者のジャック・マー氏は「彼(王衛氏)は私が最も尊敬する人物だ」と語っています。


社名は創業の地である広東省仏山市順徳区に由来し、「順風満帆」に事業が成長するようにとの想いも込めたようです(中国語の「順豊」と「順風」は発音が同じ)。いまでは世界84カ国・地域にサービスを提供し、日本法人も2011年に設立。2022年7月には今後の事業拡大を見越して湖北省に巨大な貨物ハブ空港まで建設してしまいました。2021年の宅配件数は105億5000万件。日本の最大手であるヤマト運輸の5倍近くに上ります。近年はネット出前や無人配送など新たな取り組みも始めています。


創業から30年近くが経ち、最新の2022年版フォーブス世界長者番付で王衛氏は56位。中国人では6位にランクされ、王衛氏はまさにチャイナドリームを実現した実業家の一人となりました。ただ、王衛氏はあまりメディアに露出しないことで知られており、寡黙な性格で口数も少ないことから、「神秘の億万長者」とも呼ばれています。中国の上場企業の経営者としては珍しいタイプです。


時価総額10位はEMS大手の立訊精密工業


(出所:立訊精密工業のホームページ


時価総額10位は中国の中国の電子機器受託製造サービス(EMS)大手の立訊精密工業(ラックスシェア:002475)です。接続ケーブル、コネクター、RFアンテナ、音響部品、無線充電部品、モーター、ブルートゥース部品などの各種電子機器を製造し、アップルの「iPhone」や「AirPods」などを受託製造しています。


2022年2月には、中国自動車大手の奇瑞汽車の傘下企業と組んで電気自動車(EV)の製造事業に参入することを発表しました。EV製造は自社ブランドではなく、ODM(相手先ブランドによる設計・製造)に専念するようです。


立訊精密工業は2004年に女性経営者の王来春氏が立ち上げた会社です。どんなやり手の経営者なのかと思いきや、意外にも王来春氏はもともとEMS世界最大手である台湾の鴻海(ホンハイ)傘下の工場で働いていたライン労働者でした。いわゆる「農民工」です。


貧しい農村の出身で、中学卒業の学歴しかなく、仕送りのため深センに出稼ぎに出ていたのです。劣悪で過酷な労働環境だったものの、工場での真剣な働きぶりが評価されて課長にまで昇進。独立して会社を立ち上げた際も、鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)会長が支援を惜しまなかったと言います。周囲から大きな信頼を得ていたようです。


最新の2022年版フォーブス世界長者番付で王来春氏は206位。いまでは支援してくれた郭台銘氏(世界長者番付350位)を上回る資産を築き、「農民工」から億万長者というチャイナドリームを実現しました。どんな境遇からでも頑張れば夢が叶うということを教えてくれます。



▼参考

深セン証券取引所の主要銘柄(前編):時価総額1位の会社は意外なギネス記録も

深セン証券取引所の主要銘柄(中編):「美的」と言ったら美容雑誌?・・・ではありません

中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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