オンライン旅行会社(OTA)とは実店舗を持たず、ネット上で宿泊や航空券の予約を受け付けて完了させる事業者のことです。日本でもOTAが提供するサービスへの需要は大きく、リクルートホールディングスが手掛ける「じゃらん」や楽天グループの「楽天トラベル」などのブランドがよく知られています。
また、インバウンドの隆盛とともに外資系のOTAも存在感を高めています。外国人旅行者が日本での宿泊先を予約するサイトは日本語でもみられますし、その流れで海外での宿泊予約にも活用できるのです。また、「じゃらん」などの国内系OTAが旅館やホテルなどを中心に掲載する半面、外資系のOTAは貸別荘などの民泊関連が充実しており、使い分けも可能です。
世界の旅行業界は新型コロナウイルス流行を受けて凍りつきましたが、行動制限の緩和とともに徐々に回復し、コロナ前の業績を上回るOTAも増えています。今回は米国市場に上場する大手のOTAをご紹介します。
エクスペディア・グループ、オンライン旅行予約の先駆者
エクスペディア・グループ(EXPE)はオンライン旅行予約サービスの先駆者の一角で、1996年にウェブサイトを立ち上げて事業を始めました。マイクロソフト(MSFT)の全額出資子会社でしたが、1999年にナスダック市場への上場を果たしています。
ホテルやフライト、ツアーなどのオンライン予約プラットフォーム「エクスペディア・ドットコム」を軸にホテル・宿泊施設に特化した「ホテルズ・ドットコム」や民泊仲介の「バーボ」などを展開し、取り扱う宿泊施設はグループ全体で350万件を超えています(2024年12月末時点)。
特に「バケーションレンタル」を提唱してヴィラ、コテージ、ロッジ、アパートなどの民泊を仲介する「バーボ」が250万件超の物件を取り扱っています。そのほかのブランドの取扱件数はホテルなどを含め、100万件を超えています。
傘下のブランドにはホテルやフライト、レンタカーなどの予約プラットフォームの「オービッツ」や「トラベロシティ」、オーストラリア拠点のオンライン旅行予約サービス「ウォティフ・グループ」、ディスカウント価格で宿泊や航空券を予約できる「チープチケッツ」と「ホットワイヤー・ドットコム」、レンタカー仲介の「カーレンタル・ドットコム」などがあります。
エクスペディア・グループはこうしたブランドを買収で傘下に収めました。2001年に「ホテルズ・ドットコム」、2014年に「ウォティフ・グループ」、2015年に「バーボ」「オービッツ」「トラベロシティ」を買収し、業容を拡大しています。一方、ホテルの比較サイト「トリバゴ」を運営するトリバゴ(TRVG)には2013年に出資し、発行済み株式の61.6%を取得しました。2024年末時点の出資比率は59.5%です。
2024年は夏の旅行需要の回復が順調だったようで、エクスペディア・グループの2024年12月期決算は売上高が前年同期比6.6%増の136億9100万ドル、純利益が54.8%増の12億3400万ドルとなり、コロナ前の業績を大きく上回りました。
主な収益手段はマーチャントモデル、エージェンシーモデル、広告モデルの3種類です。マーチャントモデルは、エクスペディア・グループが宿泊施設や航空チケットなどを仕入れ、利益を乗せて販売する形態のビジネスです。サプライヤーとの契約に基づき在庫を抱えるリスクは負いませんが、エクスペディア・グループが利用者から代金を受け取り、サプライヤーに仕入れ代金を支払うモデルです。主に宿泊予約で取り入れています。
エージェンシーモデルは文字通り代理業務で、宿泊や航空チケット予約をオンラインで仲介し、サプライヤーや利用者から手数料を受け取るビジネスモデルです。主に航空チケットで取り入れています。
広告モデルでは、グループが持つプラットフォームなどに広告掲載を受け付け、広告収入を得ます。また、ホテル比較サイトの「トリバゴ」から他社のサイトに入る際に生じるリファラル収入も広告収入にカウントされています。
2024年12月期決算の売上高に占める割合はマーチャントモデルが68.9%、エージェンシーモデルが23.1%、広告モデルが7.9%でした。取扱商品別では宿泊が80.0%を占め、航空チケットは3.1%にとどまっています。
トリップアドバイザー、旅行の口コミサイトで世界最大級
トリップアドバイザー(TRIP)は、ホテルや航空券の価格比較プラットフォーム「トリップアドバイザー」を展開しています。40を超える国・地域で展開し、プラットフォームで使う言語は20以上。旅行の口コミサイトとしても世界最大級です。このほかにツアーやアクティビティのオンライン予約プラットフォーム「ビアター」や欧州11カ国を対象とするレストランの予約プラットフォーム「ザフォーク」を運営しています。
「トリップアドバイザー」は集客力を武器に広告で収益を得るビジネスモデルで、オンライン旅行会社やホテルが主要顧客です。価格比較プラットフォームにオンライン旅行会社やホテルのサイトのリンクを掲載し、リンクをクリックするごとに広告料金が発生するクリック課金型が中心です。また、実際に予約が成立した場合に適用する顧客獲得単価(CPA)型広告も取り入れています。
広告が1000回表示されるごとに広告費用が発生するインプレッション単価(CPM)という仕組みを使ったディスプレー広告でも収入を得ています。ホテルや航空会社、クルーズの運航会社などが主な広告主です。
一方、「ビアター」と「ザフォーク」というプラットフォームでは予約成立で生じる手数料が主な収益源です。「ビアター」は2024年末時点で40万を超えるツアーやアクティビティーを取り扱い、「ザフォーク」は5万5000件のレストランを対象に予約サービスを提供しています。
業績は堅調で、2024年12月期決算の売上高は前年同期比2.6%増の18億3500万ドルと小幅に伸びましたが、純利益は500万ドルに半減しました。プラットフォーム別の売上高では「ビアター」が14.0%増の8億4000万ドルに伸び、「トリップアドバイザー」(9.3%減の8億1400万ドル)を逆転しました。「ザフォーク」は17.5%増の1億8100万ドルでした。