インフレ時代の資産形成、年金積立金の運用を参考に

年金積立金を管理・運用している「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が、2025年度上半期の運用状況を公表しました。GPIFでは、運用状況を四半期ごとに公開しています。年金運用は長期的な視点で行なうもので、短期的な結果に一喜一憂するものではありませんが、運用の現状を知っておくことは大切です。


年金積立金は277兆円で、日本の公募投資信託と同規模


日本の年金制度では、現役世代の納める保険料が、その時々の年金給付に充てられる「賦課方式」が採用されています。ですが、将来の年金支払いに備えた予備資金のようなものも、安全かつ効率的に運用する仕組みも取り入れられています。この予備資金のようなものを「年金積立金」といい、財政計画に基づいて将来世代の年金給付を補うために運用されています。


年金積立金の役割は、保険料と国庫負担(税金投入分)を合わせても年金給付額に足りない場合の補てんです。将来の人口構成比を考えると、将来の現役世代が納める保険料の負担が重くなると予測されるため、GPIFでは、年金積立金を運用して備えているのです。


年金積立金は、国内外の株式や債券などで運用しています。残高は、2025年9月末時点で277兆6,147億円です。その規模の大きさから「市場のクジラ」と呼ばれることもあります。国内販売の公募投資信託の純資産総額が2025年9月末時点で276 兆8,189 億円ですから、年金積立金は日本の投信全ての残高とほぼ同額というほどの巨大な資金です。


この年金積立金の2025年7~9月期の収益額は、プラス14兆4,477億円、期間収益率は5.52%(運用手数料等控除前の時間加重収益率)となりました。2025年4~9月の上半期では、プラス24兆6,532億円、上半期の期間収益率は9.83%です。


2001年度に市場運用を始めてからの累積収益額は、180兆1,843億円。収益率は、年率換算でプラス4.51%です。年率4.51%という水準は、短期的な上下を受けながらも、長期運用で安定した成果を積み上げてきたことを示しています。


現在の年金積立金は「4つの資産に均等に投資」


年金積立金は、5年ごとに財政検証を行い、賃金上昇率との差や資産配分を見直して中期目標を定めています。年金の給付額は長期的には賃金に連動するしくみのため、公的年金の長期的な運用目標の目安には、名目賃金上昇率を使っています。


ただし、名目賃金上昇率をそのまま使うのではなく、最低限のリスクとして1.9%を上乗せしたものを「積立金の長期的な運用利回りの目標」としています。この上乗せ分は、2015年度から2024年度までは+1.7%でしたが、2025年度から引き上げられました。


年金積立金の資産配分は、このような目標の下で、市場動向やリスクなどを考慮して計算されています。現在の資産配分は国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の各資産を、4分の1ずつ均等に保有する方針です。


【グラフ】は、2025年9月末時点における4つの資産額の配分と、各資産の2025年度の四半期ごとの運用状況です。



個人投資家もGPIFの運用目標を目安にしてみては


よく「自分に合った運用で資産形成をしましょう」といわれます。けれど、最初から自分に合う運用が分かっている人などいません。そこで、自分に合う運用が見つかるまでの間は、GPIFの年金積立金のポートフォリオを真似てみるのはいかがでしょうか。


インフレが定着しつつある今、物価に負けない資産管理が必要になります。賃金上昇率は、完全に一致しないものの、物価上昇に連動する傾向です。年金積立金の運用目標をご自身の運用目標の一つの目安とし、四半期ごとの運用状況もご自身の資産形成の成果がうまくいっているかどうかの判断材料にすると良いと思います。


個人投資家のみなさんが投資環境を考慮しながら運用目標やポートフォリオを見直すには、ある程度の知識や経験が必要です。ですが、公表されているGPIFの運用目標を参考にしたり真似をしたりするのは、それほど難しいことではないでしょう。


このように、実践を通して経験を積み上げることが資産形成の学びになります。GPIFをお手本にしながら資産形成を続けることで、ご自分なりの運用方針が少しずつ確立できるのではないでしょうか。


【出典】

年金積立金管理運用独立行政法人「2025年度第2四半期運用状況(速報)

年金積立金管理運用独立行政法人「2025年度第1四半期運用状況(速報)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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