米国とイスラエルによるイラン攻撃を受け、「中東リスク」が一段と高まっています。原油価格の上昇と有事のドル買いが同時進行し、為替・株式・金利市場に複雑な影響を及ぼしています。マーケット参加者は、エネルギー価格の行方と各国中銀の対応を軸に、次の展開を見極める局面にあります。
有事のドルと原油急騰-為替市場の揺らぎ
米軍とイスラエル軍が先週末にイランを攻撃し、最高指導者のハメネイ師が死亡したことで、中東情勢は一気に緊迫しました。イランは報復を宣言し、ホルムズ海峡封鎖への懸念も浮上しています。
この局面でまず鮮明になったのが「有事のドル買い」です。地政学リスクが高まる局面では、基軸通貨であるドルに資金が集まりやすくなります。実際、攻撃後の為替市場ではドルが急伸し、リスクに敏感な通貨は下落しました。
ドル円は週明けの156円近辺から急伸。3月3日には直近の上値の節目だった2月9日高値157.76円を上抜け、一時157.97円まで上昇しました。1月23日以来となる158円回復目前まで水準を切り上げています(図表参照)。

同時に原油価格も上昇しました。ホルムズ海峡は世界の原油輸送量の約2割が通過する要衝です。仮に封鎖が長期化すれば、原油は1バレル80ドル台、場合によっては100ドル超へ上昇する可能性も指摘されています。原油高はインフレ再燃への警戒を強め、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待を後退させる要因となります。
もっとも、為替の動きは単純ではありません。原油高は日本にとって輸入コスト増となり円安要因ですが、世界的な株安が強まればリスク回避の円買いが進む可能性もあります。「ドル高・円安」と「リスク回避の円高」という相反する力がせめぎ合う構図です。
こうした状況のなか、トランプ米大統領は米現地3月3日、「米国は世界へのエネルギーの自由な流れを確保する」「米海軍は必要であればホルムズ海峡でタンカーを護衛する」と発言し、エネルギー供給の混乱抑制に努める姿勢を示しました。しかし、市場では依然として原油の供給リスクが意識されています。
株・金利・日銀-連鎖する政策シナリオ
原油高は株式市場にとっても重しとなります。エネルギー価格の上昇は企業コストを押し上げ、景気減速懸念を強めるためです。とりわけ欧州は天然ガス価格の影響を受けやすく、景気への下押し圧力が意識されています。
米国では、原油高がインフレ期待を押し上げれば「悪い金利上昇」を招き、株安につながるシナリオも想定されます。一方で、リスク回避が強まれば安全資産として米国債が買われ、長期金利が低下する局面もあり得ます。株・原油・金利の相関関係は流動的です。
日本では、植田日銀総裁が「中東情勢の緊迫化が日本経済に大きな影響を与える可能性がある」と言及しました。原油高と円安が同時に進行すれば、物価押し上げ圧力が強まります。ただし、世界経済の不透明感が高まれば、日銀は政策変更に一段と慎重な姿勢を強める可能性もあります。
「中東リスク」は単なる地域紛争にとどまらず、原油価格を通じてインフレ、金融政策、為替へと波及します。マーケット参加者にとっては、ホルムズ海峡の動向、原油価格の水準、そして米金利と円相場の反応が重要な観測点となります。事態が短期で収束するのか、それとも長期化するのか。その見極めが、今後の市場トレンドを左右することになりそうです。



