米・イラン間で電撃的に結ばれた2週間の停戦合意は、緊迫していた中東情勢に一時の静寂をもたらしました。原油の輸送大動脈であるホルムズ海峡の開放期待が先行し、マーケットでは「有事のドル買い」の巻き戻しが急速に進む展開となっています。しかし、この安堵感が恒久的なものか、あるいは嵐の前の静けさに過ぎないのか、マーケット参加者の視線はすでに次のシナリオへと向いています。
期待と不安が交錯、ホルムズ海峡の安全とドル需給
今回の停戦合意において、多くのマーケット参加者が最も注目したのは、世界の原油供給網の心臓部ともいえるホルムズ海峡の動向です。イランによる海峡封鎖の懸念がひとまず和らいだことで、一時1バレル=117ドルまで高騰していた原油価格は、91ドル台へと急失速しました。原油価格の下落はインフレ懸念を後退させるだけでなく、為替市場における「原油決済通貨」としてのドルのパワーバランスをも大きく変化させます。
世界中の原油取引の多くはドル建てで行われるため、原油価格が高騰し供給が不安定になると、代金支払いのためのドル需要が急増し、結果としてドルの価値が押し上げられます。これが「原油決済通貨」特有のドル買い圧力です。
今回の合意により海峡航行の安全への期待が高まったことで、ドル相場のひっ迫感は一気に後退しました。これまで積み上がっていた「有事のドル買い」ポジションは利益確定の売りに押され、ドル円は7日には一時160円を回復していたところから、停戦報道を受けて8日東京タイム朝方に158円付近へ急落しています(図表参照)。
「猶予2週間」の先に控える不透明感
しかし、足元の円高・ドル安の動きを手放しで歓迎できるわけではありません。マーケット参加者の間では、今回の合意がわずか「2週間」という極めて限定的な期間であることへの警戒感が根強く残っています。過去の中東情勢を振り返っても、一時的な休戦が報じられた直後に再び戦火が拡大し、ミサイルが飛び交う事態に逆戻りしたケースは枚挙にいとまがありません。
現状は、最悪の事態が回避されたことによる「初期反応」のドル売りが一巡し、マーケットは様子見ムードに包まれています。もし2週間後の対面協議で恒久的な和平への道筋が見えなければ、再び「原油決済通貨」としてのドル需要が爆発的に高まるリスクを孕んでいます。さらに、イラン側が主張する海峡の管理権と、米国が求める「完全開放」という条件の隔たりも、依然として火種としてくすぶったままです。
このように、地政学リスクの後退を全面的に信頼して取引を進めるには、まだ不透明要素が多すぎると言わざるを得ません。一時的な安心感と、再燃しかねない一触即発の事態への警戒。その狭間で、「原油決済通貨」としてのドルの価値は、今後もホルムズ海峡を通過するタンカーの航跡とともに、激しく上下することになりそうです。





