NISA口座で損売りも? 売りも視野に

2024年から改正予定の新しいNISA(少額投資非課税制度)の素案が、与党の令和5年度税制改正大綱で示されました。NISAの恒久化や非課税枠の拡大などが注目されますが、現在「一般NISA」を利用している人には、重要な問題が浮上したと思っています。


それは、現行のNISAの保有分が、2024年以降の新しいNISA(名称未定のため、「新しいNISA」と呼びます)にロールオーバーできないことになっている点です。ロールオーバーができないなら、含み損の銘柄を処分する選択肢も念頭においておかなければなりません。


正式決定ではないものの……


2023年1月23日から通常国会が始まりました。2023年度の予算審議などが行なわれます。2024年からの新しいNISAが話題になっていますが、昨年12月に与党が作成し、閣議決定された「令和5年度税制改正の大綱」を基に、国会で議決された後、改正法で新しいNISAの内容が決まる段取りになっています。


本稿(2023年1月執筆)では、「令和5年度税制改正大綱」の記述、または金融庁HP内の「新しいNISA」及び、金融庁作成の資料「令和5(2023)年度税制改正について -税制改正大綱における金融庁関係の主要項目-(2022年12月)」の内容に基づいて説明します。


「新NISA」と呼ばれ、2024年から施行予定だった「一般NISA」の改正内容は、白紙に戻されました。「新しいNISA」は、決定すれば2024年1月1日から適用予定です。


現行NISAは「新しいNISA」にロールオーバーできない


「新しいNISA」がスタートしても、現在の「一般NISA」「つみたてNISA」で保有している株式や株式投資信託などは、それぞれの非課税期間満了まで、そのNISA口座内で保有できます。非課税期間の終了後、翌年から課税口座に移管(払い出し)されます。


ただし、「新しいNISA」に移管する「ロールオーバー」はできません。


「ロールオーバー」とは、現行の「一般NISA」で行える手続きです。「一般NISA」で保有している銘柄は、5年の非課税期間の終了後、課税口座に払い出されますが、非課税期間を5年間延長することもできます。これを「ロールオーバー」といいます。


ロールオーバーに関する詳しい説明は、下記をご覧ください。

NISAのロールオーバー(上)

NISAのロールオーバー(下)


新しいNISAでロールオーバーができなくなると、現在「一般NISA」内で保有している銘柄は、非課税期間中に売るか、非課税期間満了の翌年から課税口座での保有になります。


これまで、NISA口座で保有する銘柄については、なかなか売る決断ができなかったという人は多いのではないでしょうか。値上がりしていれば「もっと上がるかも」と思い、値下がりしていれば「せっかく非課税なのだから損切はもったいない」と思いがちです。「新しいNISA」にロールオーバーできなくなると、考えを改める必要が出てきます。


売却か、課税での保有継続か。各銘柄の運用状況や値動き、ご自身の投資方針などを踏まえて、その都度、判断すると良いでしょう。非課税期間終了の時期は、銘柄ごとに、「一般NISA」で購入した年によります(【図】)。



2024年から「新しいNISA」が始まると、2019年の非課税勘定で購入した分は、銘柄ごとに、2023年のうちに売却するか、2024年から課税口座で保有するかの選択になります。今年中に売るなら、年末ぎりぎりに決断せず、1年を通してタイミングを見計らうと良いでしょう。


課税口座で持ち続ける場合の注意点


課税口座に払い出される際、気をつける点があります。将来、課税口座で売却する時の税金の計算です。損益計算について、理解しておきましょう。


課税口座に移管された時点で、取得価額つまり「買い値」はリセットされます。「一般NISA」で買った時の買い値ではなくなり、課税口座に移された時点の時価が、帳簿上の取得価額になります。具体的には、NISA最終年の年末の終値です。


すると、売る時にはどうなるでしょう。


本来の買い値より帳簿上の取得価額が低い場合、課税口座内の値上がり幅は、本来の値上がり幅よりも大きくなります。余分な税金を納めることになります。


本来の買い値より帳簿上の取得価額が高い場合、「一般NISA」で値上がりした部分については非課税で、課税口座の取得価額から売り値までの差に20.315%が課税されます。


課税口座は、その投資家が選択している「特定口座」か「一般口座」のどちらかです。課税口座についての詳しい解説は、下記をご覧ください。


証券税制の基本「一般口座」と「特定口座」


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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