解説!つみたてNISAとiDeCo

NISAのロールオーバー(下)

少額投資非課税制度(NISA)のうちの一般NISAは、非課税期間が最長5年間です。

2022年末に非課税期間が終了する銘柄を保有している人には、9月から10月にかけて「ロールオーバー」の案内が届く頃かと思います。

 

前回の「NISAのロールオーバー(上)」では、5年の非課税期間を満了した銘柄は3つの選択肢があると説明しました。①年内に売る②NISAを延長する(ロールオーバー)③課税口座に移す、です。

 

どれを選ぶかは、投資家の事情と銘柄の状況、相場の見通しによって、判断が分かれてくることと思います。ロールオーバーをするか、しないかを検討するにあたって、考えるポイントと注意点についてご説明しましょう。

 

ロールオーバーする場合の注意点


「今まで5年間NISAで非課税だった銘柄を、6年目からわざわざ課税口座に移す人などいるのだろうか?」と思うかもしれません。

 

前回お伝えしたように、ロールオーバーをすると、その分、翌年の非課税枠を使うことになります。この時、5年目の年末の時価額が翌年のNISA口座の取得価格となり、非課税枠を使用します。「取得価格」は、帳簿上の「買い値」です。

 

今回でいえば、2022年にNISA5年目を迎える銘柄をロールオーバーする場合、2022年12月30日の終値による移管金額の分、2023年のNISA枠120万円を使います。そのため、ロールオーバーする銘柄の時価と、翌年の投資予定金額の合計が120万円を超えるような場合は、検討が必要です。

 

例えば、2023年にNISAで購入したい銘柄がある、毎年決まった金額を投資に回している計画がある、といったケースです。ロールオーバーと新たな資金の非課税投資と、どちらを優先して非課税にするのか。ロールオーバー手続きの期限までには決めなければなりません。期限までに手続きをしないと、非課税期間満了の銘柄が課税口座に自動的に移されます。

 

課税口座に移管する場合の注意点

 

ロールオーバーを選択しない場合は、「翌年から課税口座へ移管」という取扱いになります。金融機関によって「移管」や「払い出し」という表現もあります。課税口座は、その投資家が選択している「特定口座」か「一般口座」のどちらか。どちらにも共通する大事なポイントがあります。

 

それは、ロールオーバーと同じように、5年目の年末の終値が次の課税口座の取得価格になることです。この点がちょっと悩ましいところではないでしょうか。

 

取得価格とは、繰り返しますが、帳簿上の「買い値」です。5年前にNISAで買った時の株価がリセットされて、課税口座がスタートします。

 

すると、どういうことが起こるでしょうか。いずれ課税口座で売却する時、この取得価格と売却する株価との差額に対して、税金が課せられます。5年前に買った株価より課税口座に移管する時点の株価が高ければ、あまり気にならないかもしれません。

 

問題は、5年目の年末の株価が、実際の買い値よりも下がっているケースです。グラフを使って説明しましょう。

 

まず、グラフAは、NISAの終了時に値上がりをしていて、その後の課税口座でも値上がりしたケースです。NISA口座内で100万円で購入した銘柄が期間満了を迎え、130万円になりました。課税口座に移管をして、150万円で売却したとします。この投資家の本来の利益は50万円ですが、課税口座の取得価格が130万円なので、課税されるのは20万円に対してだけです。これは簡単な話ですね。

 

では次に、注意したいケースについて、2つのケースをご紹介しましょう。

 

NISA終了時に値下がりしている2つのケース


ここではBとCのケースをご説明します。どちらも先ほどのグラフAと同じ100万円でNISAを使って買いました。残念ながら、期間満了時に値下がりし、80万円で課税口座に移したとします。

 

その後、Bのケースでは150万円に値上がりして売却、Cのケースでは90万円で売却したと仮定し、2つのケースを比較します。

 


Bのケースでは、課税口座の取得価格80万円から150万円に値上がりしたため、差額の70万円に対して課税されます。当初、NISAで買った時には100万円でしたから、本来、この投資家の利益は50万円です。

 

最初から課税口座で買っていれば50万円に対する課税で済んだはずですが、NISAで購入して、値下がりした時点でロールオーバーをしたため、計算上の利益が70万円に。不利になりました。

 

次のCのケースでは、同じように課税口座に80万円で移管し、90万円で売却した例を見てみましょう。


 

NISA口座で買った100万円に届かない90万円での損切りです。しかし、課税口座に移管した時点で取得価格が80万円になっているので、見かけの上では10万円の利益が発生しています。この10万円に対して課税されてしまいます。

 

BとCのケースから分かるように、NISAでの購入時より非課税期間満了時の株価が値下がりしている銘柄については、課税口座での戻り売りに気を付けなければなりません。ただし、悩ましいのはBやCのように微妙な株価水準の場合。NISAで購入した100万円に到底届かないような水準にまで下がっている場合は、悲しいかな、あまり神経を使う必要はないでしょう。

 

ただし、移管時の取得価格80万円を下回る損切りは、課税口座の他の銘柄の利益と相殺することができます。課税口座に含み益のある銘柄を保有している場合は、その銘柄の節税に役立てるのも一つの方法です。

 

課税口座に移した後の値下がり


次は、Aと同じ130万円で課税口座に移管した後、値下がりしてしまったケースを見てみましょう。


 

NISAで購入時100万円、非課税期間満了時に130万円で課税口座に移しました。その後、110万円で売却したとします。移管時の取得価格から20万円値下がりしているので、この場合は課税されません。課税口座の他の銘柄との間で損益通算もできます。

 

この投資家にとっては、そもそも100万円の投資額が110万円になり、10万円の利益が出ているのですが、移管時の取得価格が高かったため、見かけ上は課税口座で損失を出しているというわけです。

 

ロールオーバーする? 課税口座に移す?


ロールオーバーするにせよ、課税口座に移管するにせよ、共通するのは「これまでのNISA口座が終わると、取得価格が変わる」という点です。

 

ロールオーバーする場合は、その金額分、次の非課税枠を使ってしまうことに注意しましょう。

 

課税口座へ払出す場合は、その後、いくらで売却を考えているのかが判断の鍵になるのではないでしょうか。また、課税口座内に損益通算したい銘柄があるかどうかも判断材料になります。もちろん、それらの銘柄について、この先の株価の見通しが重要なのは言うまでもありません。

 

保有銘柄の状況とご自身の投資方針、翌年の非課税での購入予定などを踏まえ、最適な選択ができますように。年内に売却する場合やロールオーバーの手続きをする場合は、期限を超えないような注意も必要です。

この連載の一覧
新NISA、オルカン一択は止めた方が良い?ポートフォリオの理想と現実とは
「貯蓄から投資へ」が進まない理由とは?金融教育の義務化で今後は状況が変化する?
新NISAは何歳からできる?年齢制限はある?50代60代こそ始めるべき理由を解説
新NISAの口座変更手続きとは?体験談とともに解説
証券会社が潰れたら株やお金はどうなる? 新NISAの注意点とあわせて解説
人気のつみたてNISAファンド「iFree S&P500インデックス」と「iFree 外国株式インデックス(為替ヘッジなし)」を初心者向けに解説します
つみたてNISA【たわらノーロード】シリーズ解析!「全世界株式」と「先進国株式」を比較してみた
資産を育てるチャンス!新しいNISAで高配当株投資は本当にもったいない?
少額投資は意味がないって本当?3つのメリットとシミュレーション結果を徹底解説!
2023年に廃止されるジュニアNISAを賢く運用するコツは?注意点もあわせて解説
【2024年新しいNISA開始】2023年にNISAは始めるべき?メリット・デメリットを解説
資金流入額の多い投資信託は運用効率が良い!
インベスコ世界厳選株式オープンへの資金流入が目立つ
改めて開設手続きは必要?亡くなったらどうなる?新NISAのよくある質問にFPが回答!
「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」と「楽天・全米株式インデックス・ファンド」はどちらを選ぶべき?2つの銘柄を比較してみた
「eMAXIS Slim全世界株式」へのさらなる資金流入に期待!
初心者におすすめ「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」と「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」について解説します!
新NISA、成長投資枠のファンド約1,000本が公表に!あの人気ファンドはどうなる?
企業型DCやiDeCoは転職後も持ち運びが可能!
2023年にNISAで投資する場合の注意点
【初心者向け】2024年以降の新NISAの特徴は? 現行NISAと併用は可能なの?違いについてカンタン解説!
NISAは60歳からでも出来る!一般とつみたての違いを知って老後資金を運用しよう
新NISAとiDeCo、どちらを選ぶべき?それぞれのメリット・デメリットと選び方
1億総NISA時代にIFAが価値提供できるものは何か
2024年からNISA新制度で投資を始めようという方々に伝えたい複雑化するカントリーリスク
つみたてNISAに確定申告は必要?損失が出た場合の控除など詳しく解説
【確定申告】株の特定口座(源泉徴収あり)とは?取引口座別の確定申告方法とメリットについて
急落後に戻りが期待できる投資信託で運用しよう
本当に一時金形式で受け取った方が良いの?
退職所得控除の利用方法に注意すべき!
素敵な老後を過ごすために積立投資を始めましょう
つみたてNISAは一括購入できる?年間非課税枠を使い切る方法を詳しく解説
2024年から新NISAへ。生涯の投資プランを設計しよう
来年はインデックスファンドで積立投資をしよう
【つみたてNISA】初心者の買い方~SBI証券とゆうちょ銀行を例にはじめ方をご紹介~
残り約1年のジュニアNISAに注目集まる
【つみたてNISA】専業主婦にもおすすめの理由とは?一般NISAとの違いも解説
一般NISAとつみたてNISAを比べてみる ~金融庁「NISAの利用状況」から~
マッチング拠出とiDeCoの併用は不可!
給与受け取りか、企業型DCで運用するか!
企業型DCとiDeCoの併用が可能に!
NISAのロールオーバー(下)
つみたてNISAが利用できない?純金積立での投資をおすすめしない人の特徴5選
将来の資産形成のために積立投資をしよう!
NISAのロールオーバー(上)
換金自由度、それとも税制メリットを優先しますか!?
iDeCoの死亡一時金は受取人指定が可能
一時金、それとも年金受け取りが良い?
iDeCoの運用は投資信託を中心に!
NISAの恒久化は老後資金の獲得方法になるか
DC法改正を活かし受取資産を増やそう
iDeCoの掛金は毎月拠出が良い?それとも年払い?
値下がりはチャンス!ドルコスト平均法
積立投資の開始はお早めに!
積立投資では上昇局面で利益が膨らみやすい
3人に1人が積み立てなし? つみたてNISAの事実
積立投資での投資信託の単価下落は怖くない
iDeCoの金融機関選びはコスト面を重視しよう
「つみたてNISA」の9割に迫る、投資デビュー
iDeCoは引き出し制限に注意も節税メリットは魅力
つみたてNISAやiDeCoはどんな人が加入できるの?

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

石原 敬子の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております