証券税制の基本「一般口座」と「特定口座」

「株や投資信託は確定申告が必要?」と質問されることがあります。個人投資家が上場株式や公募株式投資信託を売却して利益を得た場合、原則は、確定申告をすることになっています。


「えっ? 確定申告なんて、していないよ」と思うかもしれませんね。


証券投資の税制は、選択肢が複数あります。NISA(少額投資非課税制度)しか利用しない人でも、課税制度は理解しておきましょう。


証券取引の利益は、原則として課税される


個人の所得は、1月から12月までを1年として集計します。上場株式や公募投資信託の売却益は、所得の種類としては「上場株式等の譲渡所得等」に該当します。年間の損益を通算してプラスなら、原則として確定申告を行ないます。この計算は、株主配当金や投資信託の収益分配金(普通分配金)のほか、国債など一定の公社債等の利子や償還・売却による損益も通算できます。


年間の損益がプラスの場合、税率は、所得税が15%(復興特別所得税を加算して15.315%)と住民税が5%。マイナスなら納税額はゼロで、確定申告も必要ありません。


なお、利益が株主配当金や収益分配金だけの年は、受け取り時に20.315%が源泉徴収されているので、申告不要です。ただし確定申告も可能で、申告すれば配当控除が受けられます。


一般口座、特定口座、非課税口座(NISA)


銀行や証券会社などの取引口座には、2種類の課税口座と、少額投資非課税口座(NISA)があります。課税口座は「一般口座」と「特定口座」で、どちらか一方を選択します。「特定口座」はさらに「源泉徴収なし」と「源泉徴収あり」に分かれます【図】。



「一般口座」や「特定口座」の取引で得た利益は、復興特別所得税を含めた所得税と住民税を合わせて20.315%が課税されます。例えば、100万円で購入した株式を110万円で売却したら、利益は10万円。20,315円の税金が引かれ、手取り利益は79,685円といった具合です。


この約2万円の税金が引かれない制度が、少額投資非課税制度(NISA)です。手取り利益が10万円と約8万円では、投資に対するモチベーションが違いますよね。NISAは、投資を促すために設けられた政策です。


NISAには利用上限額があります。上限額を超えた投資やNISAを利用しない証券投資は、「一般口座」か「特定口座」で取引します。


「一般口座」は、投資家自身で税金関係を処理


「一般口座」では、投資家自身が年間の損益を計算し、確定申告をします。じつはこれが基本です。年間の損益計算をし、納税手続きまですべて自分で行ないます。


確定申告の際、「上場株式等の譲渡所得等」は、他の所得と分けて計算します。会社員の給料は「給与所得」、個人事業主の売上や報酬に基づく収益は「事業所得」。これらは総合課税で、所得金額によって税率が異なり、所得が多いほど税率が高くなります。


しかし、「上場株式等の譲渡所得等」は、どんなに投資の利益が多額でも、一律の分離課税。先に述べた通り、所得税が15.315%(復興特別所得税を含む)と、住民税が5%です。


「特定口座」の源泉徴収「なし」と「あり」の違い


「特定口座」は、取引金融機関が顧客の年間損益を計算し、報告書を発行するサービスです。投資家としては、「いくらもうかった」と計算するのは楽しみですが、1年分の取引明細書を引っ張り出して正確な損益を出すのは面倒ですよね。「特定口座」で売却した取引が1年分集計され、翌年早々に顧客の手元に届く状になっています。


特定口座はさらに、「源泉徴収なし」と「源泉徴収あり」に分かれます。


「源泉徴収なし」の場合は、金融機関発行の年間取引報告書から、投資家が確定申告書に利益を書き写し、納税します。年間の損益計算を金融機関が行ない、納税手続きは投資家が行なうのです。「一般口座」との違いは、年間取引報告書が発行されるかどうかの違いです。


一方、「源泉徴収あり」では、顧客が売却する度に、金融機関が顧客のその年の売却損益を通算し、売却代金から税金分を源泉徴収するか、還付してくれます。これで納税が完結するので、確定申告をする必要がありません。


なお、「源泉徴収あり」を選択した場合は、配偶者控除や扶養控除等を判定する際、投資利益を合計所得金額に含めなくても良いことになっています。


「源泉徴収なし」「源泉徴収あり」の選択は、年単位。その年の最初の売却や配当等の受け入れ時に選択したら、年の途中で変更できません。


複数の金融機関での取引を損益通算するには


「特定口座」の年間取引報告書は、金融機関ごとの集計です。複数の金融機関で証券投資をしている人が年間の損益を合算するには、確定申告で精算します。これは、「特定口座・源泉徴収あり」の取引でも可能です。


ただし、確定申告をした場合は、通算する前の利益が、配偶者控除や扶養控除等を判定する合計所得金額に含まれます。ご注意ください。


年間取引の損失は、翌年から3年間繰り越せる


年間の損益を通算し、損失となった場合は、「譲渡損失の繰越控除」の特例が受けられます。年間損失額を翌年以降3年間、上場株式等の売却益や配当等と相殺できるのです。


ただし、この特例を受けるには、損失が発生した年の損失額を申告しなければなりません。納税しなくても、確定申告書に記載して提出する必要があります。さらに翌年以降、取引がない年でも、その損失を繰り越す期間は確定申告をし続けなければなりません。


例えば、2022年の損失が100万円、2023年は利益30万円だとします。2022年の損失を繰り越せば、2023年の利益を差し引いてマイナス70万円なので、2023年分の納税額はゼロ。残った損失は2024年に繰り越せます。2024年の投資利益が70万円以内なら、残りのマイナスを2025年に繰り越すことができます。


もし、配当所得について申告分離課税を選択していたら、その配当所得との損益通算後に残った損失が翌年以降の繰り越し額となります。


この特例は、「一般口座」の投資家はもちろん、「特定口座」を選択した投資家も、確定申告をすれば適用できます。翌年以降の節税効果がありますので、損失が発生した年は、念のため申告をしておいた方が良いでしょう。


なお、配偶者控除や扶養控除等を受ける場合、各年の利益で判定します。上記の2023年の例では、年間利益30万円が2023年の合計所得金額に含まれますので、注意をしてください。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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