新興国は成長株の宝庫!?

第7回:トップ・グローブ(マレーシア)「コロナバブルの後始末」

マレーシアの天然ゴム生産量、世界6位に後退

マレーシアの主要な産業製品はスズと天然ゴムと習ったのも今は昔。2022年の輸出実績によると、最大の輸出品は電子・電気製品で輸出額全体の約38%を占めています。第2位は石油製品で全体の約11%です。


農産物ということであればパーム油と関連製品が製品別の3位にランクされ、輸出に占める割合は約6%です。天然ゴムは上位にランクされていないのです。


マレーシアでは英国の植民地だった1877年、現在のペラ州で初めてゴムの木が植樹されたそうで、天然ゴムの栽培がスタートします。その後、クアラルンプール近郊のスランゴール州やヌグリスンビラン州、シンガポールに隣接するジョホール州などに広がりました。



1960-70年代は世界一の生産量を誇りますが、その後にゴム農園をアブラヤシ農園に転換する動きが広がり、天然ゴムの生産量は頭打ちになります。マレーシアは生産量ベースでタイやインドネシア、ベトナム、インド、中国などに抜かれ、世界6位に後退しています。


衰退の原因はいろいろありそうですが、大規模化の遅れも一因でしょうか。2021年時点のゴム栽培地は113万7100ヘクタールに及びますが、大規模プランテーションが占める面積の比率はわずか7%です。残りの93%はスモールホルダーと呼ばれる小規模な家族経営の農園です。


一方、パーム油を産出するアブラヤシ農園は大手企業が運営するケースが多く、プランテーションも大規模です。このあたりもゴム農園からアブラヤシ農園への転換が加速した理由のひとつに挙げられそうです。


トップ・グローブ、ゴム手袋生産で世界最大手

ただ、マレーシアには天然ゴムを原材料とするゴム手袋の生産が盛んで、マレーシア証券取引所とシンガポール取引所に重複上場するトップ・グローブは世界最大手です。


トップ・グローブの創業は1991年。中国系マレーシア人のリム・ウィーチャイ氏が立ち上げました。リム氏はマラヤ大学を卒業した後にいったんエアコンメーカーに就職しますが、その後に米国に留学し、テキサス州のサルロス州立大学でMBAを取得します。


リム氏の両親はヌグリスンビラン州のゴム農園のオーナーで、天然ゴムの売買も手掛けていました。リム氏も子供のころからゴム農園の作業を手伝うなど親しみがあったようです。米国で学んだ経営と家業が化学反応を起こし、ゴム手袋の生産というビジネスが生まれたのです。



天然ゴムを原材料とするゴム手袋は医療の現場で使用され、使用後は破棄されるため需要は安定しています。トップ・グローブの製品は品質が高く、価格も安いので顧客数を徐々に増やし、ビジネスは段階的に成長を遂げました。


創業から丸10年を経た2001年にクアラルンプール証券取引所に上場します。その年、2001年8月期の売上高は前年比34.6%増の1億3900万リンギ、純利益は同36.8%増の1600万リンギでした。工場はマレーシアに5カ所、タイに1カ所の計6カ所で、ゴム手袋の年産能力は32億4000枚でした。


それから20年後の2021年8月期の売上高は163億6100万リンギ、純利益は77億1000万リンギに達しています。20年間で売上高は118倍、純利益は485倍に急増したのです。


マレーシアとタイに加え、ベトナムと中国にも工場があります。2022年8月期時点で計50の工場を運営し、ゴム手袋の年産能力は1000億枚に上っています。


コロナバブル、世界でゴム手袋需要が急増

2001年からの20年間で収益が急増しましたが、2021年12月期はできすぎで、前年比でも売上高が2.3倍、純利益が4.4倍に急拡大しています。急成長の要因となったのは世界的な新型コロナウイルスの流行です。


新型コロナの流行初期には感染者を隔離して感染を食い止める措置が世界各国で採用され、医療用のゴム手袋の需要は急増しました。トップ・グローブの輸出先は米国、欧州、中国などを中心に195カ国に上っています。各国からの引き合いが一気に増え、販売価格も高騰したのです。


新型コロナの流行でバブルが生まれた数少ない業界ですが、需要が急増すると、供給を増やそうとする動きが広がります。かくして業界全体の生産能力は増強されます。一方、新型コロナの流行は新たな局面に入り、重症化の比率が低いオミクロン株がまん延しました。こうなると病院で厳重に隔離するといった手法は採用されなくなります。


ゴム手袋の需要がピーク時に比べて急減する中、残されたのは生産能力増強の末に生み出された供給過剰状態です。需要の減退と供給過剰で手袋の平均販売価格は急落します。プチバブルの崩壊です。


業界最大手のトップ・グローブも大打撃を受け、2022年8月期の売上高は前年の約3分の1に当たる55億7200万リンギ、純利益は34分の1に相当する2億2600万リンギに縮小しました。マレーシア証券取引所での株価も2020年8月がピークで、その後は急落しています。


コロナバブルの後始末、みそぎは早期に終了か

ただ、トップ・グローブは今後の事業展開について楽観的な姿勢を崩していません。2022年8月期の売上高が前年比で急減したとはいえ、コロナバブルが起きる前の2019年8月期の実績を上回っていますし、今後も安定的な需要が見込まれるためです。


バブルに踊って無理に設備を増強した事業者や新規参入の企業は今後、苦戦が見込まれます。業界の統廃合が加速すると、大手のトップ・グローブは有利な立ち位置で設備の買収などに乗り出すと予想されます。



バブル崩壊を背景に、市場予想ではトップ・グローブの2023年8月期決算は売上高が前年比で3割超減少し、純損益も赤字に転落する見込みです。ただ、バブルのみそぎは意外と早く済みそうで、2024年8月期には売上高が増加に転じ、最終損益でも黒字転換を果たすとの見方が優勢です。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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