新興国は成長株の宝庫!?

第3回:インドフード(インドネシア)

東南アジアの経済界、福建華僑が図抜けた存在感

東南アジアに渡った華僑は数百年の歴史をへて、それぞれの国に欠かすことのできないピースとして根づいています。特に華僑ビジネスは幾多のあつれきを乗り越えて市民権を獲得し、一国を代表するまでに成長した企業もあります。


華僑は方言ごとに福建、広東、潮州、客家、海南のグループに大別されるといわれます。このうち客家は傑出した政治家を出すことで知られており、華僑ではありませんが中国本土では鄧小平氏、台湾では李登輝氏が有名です。


東南アジアではシンガポール建国の父といわれ、2015年に死去したリー・クアンユー元首相、第2代首相のゴー・チョクトン氏、そしてリー・クアンユー氏の長男のリー・シェンロン現首相が客家です。タイではタクシン元首相、フィリピンではコラソン・アキノ元大統領とその長男のベニグノ・アキノ元大統領が客家とされています。


客家が政治家として傑出した人材を輩出する集団とするならば、ビジネスの世界では福建華僑の存在感が図抜けています。ただ、一口に福建華僑といっても方言は多岐にわたり、グループも細分化されているようです。


ビン南語圏のアモイや泉州、ショウ州(ショウはさんずいに章)が福建華僑の代表格といわれていますが、やや北に位置する福州や福清の出身者やその子孫の一部も大きな成功を収めているようです。


サリム財閥の創業者は福建華僑、一代で事業拡大

インドネシアを代表する財閥、サリム・グループを一代で築いたスドノ・サリム氏(1916-2012年)は福建省福清の出身です。スマトラ島のメダンで事業を始め、軍将校時代のスハルト氏と接点を持ったことがその後の成功につながりました。


スハルト氏が第2代大統領に就任し、長期政権を築くと大統領を後ろ盾にビジネスを拡大します。開発独裁と結びついた華僑ビジネス成功の典型例といわれています。


その後、1997-98年のアジア通貨危機でルピアが急落し、グループ解体の瀬戸際に追い込まれましたが、三男のアンソニー・サリム氏が陣頭指揮をとり、復活を遂げました。2012年にスドノ・サリム氏が死去した後はアンソニー氏が名実ともにグループの総帥となっています。


グループの中核企業、食品最大手のインドフード

サリム・グループの中核企業といえるのが、インドネシアの食品最大手、インドフード・サクセス・マクムール(INDF)です。消費者向けのパッケージ製品を生産するほか、製粉やアブラヤシのプランテーションなど川上・川中事業も手掛けます。



インドネシア人の胃袋を満たす事業は右肩上がりに成長し、2021年12月期の売上高は99兆3456億ルピアに達しています。2022年6月中間決算でも売上高を着実に伸ばしており、通期で100兆ルピアの大台に乗るのはほぼ確実のようです。


事業別で最も大きいのが消費者ブランド製品部門で、2021年の売上高は56兆6402億元と売上高全体の57%を占めます。上場子会社のインドフードCBPサクセス・マクムール(ICBP)を通じて即席麺、乳製品、軽食、調味料、栄養食品などを生産し、販売しています。


即席麺の年産能力340億食、イスラム圏で強み

このうち「インドミー」ブランドを中核に展開する即席麺事業は世界最大級です。インドネシアをはじめ、マレーシア、アフリカ、中東地域などに計31の工場を持ち、年産能力はなんと340億食に上ります。


即席麺の市場シェアでは、インドネシアはもちろん、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、ナイジェリアなどで首位です。イスラム教の戒律に沿った食品の「ハラル認証」を得ているのが強みで、特にイスラム教徒の多い国では受け入れられやすいようです。



製粉部門は2021年12月期の売上高が21兆2596億ルピアで、売上比率は21%です。ジャカルタや第2の都市のスラバヤなどに製粉所を持ち、年産能力は440万トンに上ります。小麦はオーストラリア、カナダ、米国などから輸入し、自社で保有する15隻のバルク船で小麦を運んでいます。


農業部門は売上高が16兆4247億ルピアで、売上比率は17%です。インドネシアにある30万ヘクタール超の農地でアブラヤシを中心にゴムやサトウキビのプランテーションを手掛けています。アブラヤシからパーム油を抽出し、食用油として販売するなど垂直統合型のビジネスモデルを持っています。


中長期的には人口増が追い風、2035年に3億人突破か

食品事業で懸念されるのが世界的なインフレです。ロシアがウクライナに侵攻した際には「欧州のパンかご」と呼ばれるウクライナの穀倉地帯が壊滅的な打撃を受けるとの警戒感で小麦価格が急騰しました。その後に下落し、現状では侵攻前の水準に落ち着いていますが、インドフードは即席麺の原材料である小麦粉の使用量が多く、輸入に頼るだけにリスクとして意識されそうです。



ただ、食品価格が上がれば人々は贅沢を戒め、節約に走ります。そんなときに頼りになるのは「インドミー」などの定番商品をそろえたインドフードという気もします。


一方、中長期的にはインドネシアの人口の増加が食品メーカーの追い風になりそうです。国連の人口動態調査によると、インドネシアの人口は2021年の推定で2億7289万人に上り、2035年に3億人を突破した後も2060年まで増え続ける見通しです。人口増加で「人の口を養う」需要は今後も高まり、業容の拡大が期待できそうです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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