新興国は成長株の宝庫!?

第6回:GoToゴジェック・トコペディア(インドネシア)「ハーバードの友はきょうの敵」

創業者2人はハーバードのクラスメート

中国、インド、米国に次いで世界で4番目に人口の多いインドネシアは東南アジアで最大の経済規模を持つ国です。経済発展のペースがやや遅かったインドネシアにもデジタル経済の波は押し寄せ、ユニコーン(企業評価額が10億ドルを超える非上場のスタートアップ企業)が相次いで誕生しました。


初期のユニコーンの代表格として知られるのが配車サービスのゴジェック、オンライン旅行会社のトラベロカ、Eコマースのトコペディア、同業のブカラパックです。このうちゴジェックは配車アプリを起点にフードデリバリーや決済などの分野にも乗り出し、さまざまなメニューを持つ「スーパーアプリ」への道をひた走ってきました。


この分野では同業のグラブ(シンガポール)が東南アジアの広範な地域に進出し、サービス内容や事業地域も重複するため至る所でゴジェックと競合しています。そして両社には単なるライバルを超えた因縁があります。


それは創業者がクラスメートだったという点です。ゴジェックを立ち上げたナディム・マカリム氏とグラブ創業者のアンソニー・タン氏はともに2009-11年にハーバード・ビジネススクールに在籍し、2011年にMBAを取得しています。マレーシア出身のタン氏とインドネシア出身のナディム氏は年齢が近い上に東南アジア出身という共通項もあり、仲の良い友人だったようです。


ときは2010年に配車サービスという革新的なビジネスモデルを引っさげて米ウーバーが登場し、快進撃を続けた時期に重なります。将来の創業を夢見ていた20代のふたりがウーバーのビジネスに衝撃を受けたのは想像に難くありません。


ビジネスで衝突、友人からライバルに

両氏は留学からそれぞれ故郷に戻ると、配車サービスで起業します。海外展開ではタン氏のグラブが先行し、ナディム氏のゴジェックはインドネシアという巨大市場でのサービス多様化を通じ、市場の深掘りに取り組みます。



ただ、グラブがインドネシア事業を拡充し、ゴジェックがグラブのお膝元といえるシンガポールに進出すると、衝突は激しさを増します。資金調達ラウンドを通じて投資家から巨額の資金を受け、ビジネスを成功に導く使命が生じている創業者2人の関係は友人からライバルに変容したようです。


ナディム氏は2019年10月、ジョコ・ウィドド大統領に請われて教育・文科相に就任。ゴジェックのトップを退任し、インドネシアという大きな舞台で人材育成の陣頭指揮を執る仕事に転身しました。


ゴジェックとトコペディアが合併

配車サービスを基盤とするゴジェックの事業はトップの退任と新型コロナウイルスの流行で大打撃を受けました。グラブと合併する方向で交渉に入ったとも報じられましたが、事業領域が重複しており、交渉は行き詰まったとみられています。


グラブとの統合交渉がたち消えた後に浮上してきたのがネット通販大手のトコペディアとゴジェックが合併するとの観測です。こちらの交渉は比較的スムーズに進んだようで、2021年5月に経営統合を発表しました。統合後の社名は「GoTo」。どこかの国の旅行キャンペーンのような名称ですが、ゴジェック(Gojek)とトコペディア(Tokopedia)の社名から取っています。


経営統合を決めたトコペディア側の事情といえば、競争の激化に見舞われ、生き残るのに有利と判断したと考えられます。インドネシアではネット通販の競争が激化しており、「ショッピー」を運営するシンガポールのシーやアリババ集団傘下のラザダ、マイクロソフトやアリババ集団系のアント・フィナンシャルと提携するブカラパックなどと競合しています。


特にショッピーとは首位の座を巡り激しいバトルを繰り広げており、ゴジェックとの統合を通じて競争を有利に進める狙いがあったようです。というのも両社には重複する事業領域が小さく、相互補完を通じたシナジー効果が期待できます。トコペディアのネット通販事業にとって、ゴジェックが持つ二輪車や四輪車による宅配の能力は大きな魅力で、競争力の強化に直結するのです。


ちなみにトコペディアの共同創業者の中心人物はウィリアム・タヌウィジャヤ氏。ハーバード・ケネディスクールで学んでおり、ゴジェックを立ち上げたナディム氏とはハーバードという共通項があります。


22年4月にインドネシア証取に上場

経営統合後のGoToゴジェック・トコペディアは、2022年4月にインドネシア証券取引所に上場しました。ロシアによるウクライナ侵攻や米国の金融引き締め、中国経済の低迷などを背景に世界的に株安が進むという最悪のタイミングで、株価は軟調に推移しています。


ただ、事業自体の成長は続き、2021年12月期の売上高は前年比36.3%増の4兆5400億ルピアに達しています。サービスの利用者数は5.7%増の5930万人で、コロナ前の6940万人に比べて減りましたが、総取引額(GTV)は前年比39.8%増の461兆6000億ルピアに達し、2019年比でも37.6%増えています。



セグメントはゴジェックが主体となるオンデマンド部門、トコペディアが率いるEコマース部門、そして双方のサービスを統合した金融技術サービス部門の三つです。


オンデマンド部門は配車、フードデリバリー、物流などのサービスを提供しています。新型コロナ流行に伴う行動制限などで2020年にGTVが前年比28.3%減と縮小し、2021年に25.2%増の50兆3100億ルピアに伸びましたが、2019年の水準には届いていません。


一方、ネット通販を中核とするEコマース部門は2021年に急成長し、GTVは2019年比で38.8%増の230兆6000億ルピアとなりました。配車サービスとは反対に行動制限が追い風になったとみられています。


オンライン決済やクレジットの提供などを含む金融技術サービス部門は2021年のGTVが前年比79.8%増の214兆9100億ルピアでした。ネット通販の出店者向けに運転資金を貸したり、決済機能を提供したり、サービスは多様で、会社側も重点分野に位置づけています。


GoToゴジェック・トコペディアが展開するのは生活の利便性を高める必要不可欠な分野です。デジタル経済の波に乗り、2022年12月期以降も急成長が見込まれています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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