新興国は成長株の宝庫!?

第1回:タタ・モーターズ(インド)

タタ財閥の創業は明治元年、インドで圧倒的な存在感

インドの自動車大手、タタ・モーターズは、インドの産業界で圧倒的な存在感を持つタタ財閥のグループ企業です。タタ財閥の歴史は、日本の明治元年に当たる1868年にさかのぼります。創業者のジャムシェトジー・タタが29歳のときに現在のムンバイに設立した貿易会社が出発点でした。


タタ一族はペルシア(現在のイラン)からインド西部に渡来してきたとされ、古代ペルシアで起こったゾロアスター教(拝火教)を信仰する家系です。このため「財閥の総帥はゾロアスター教徒でなければならない」という不文律があり、つい最近までこの伝統が守られてきました。


ただ、ゾロアスター教はほかの宗教からの改宗を認めず、異教徒との間に生まれた子どももゾロアスター教徒と認めないほど保守的なため、信徒の減少に歯止めがかかりません。消えゆく宗教と言われ、21世紀末にはフェードアウトするとも推測されるだけに、タタ財閥は後継者選びに難儀するケースが多いようです。


実際、1991-2012年に総帥を務め、グループの業容拡大に多大な功績のあったラタン・タタ氏が独身だったため、後継者選びは難航しました。最終的にラタン氏の異母弟の妻の弟という遠縁に当たるサイラス・ミストリー氏に白羽の矢が立ったのです。もちろんゾロアスター教徒です。


遠縁のミストリー氏とラタン氏はウマが合いませんでした。ラタン氏が手掛けた事業拡張を否定するようなミストリー氏の経営手法に業を煮やしたラタン氏は、4年後の2016年にミストリー氏に引導を渡し、会長職解任に踏み切ります。


創業家出身のラタン氏は自らがショートリリーフとして暫定的に会長に復帰しました。そして2017年にはグループのITサービス大手、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)で最高経営責任者(CEO)として陣頭指揮を執っていたナタラジャン・チャンドラセカラン氏をタタ財閥の新会長に抜てきします。


創業150年、非ゾロアスター教徒が初の総帥に

チャンドラセカラン氏はゾロアスター教徒ではありません。狭い宗教コミュニティの中からインドを代表する財閥の舵取りを担う人材を探すのはもはや限界だったようです。タタ財閥は創業150年目にして非ゾロアスター教徒が総帥の座につき、ついにその呪縛を解いたのです。


タタ財閥では現在、傘下の17社がインド市場に上場しています。ナショナル証券取引所の代表的な株価指数、ニフティ50指数の構成銘柄に組み込まれているグループ企業は5社を数え、自動車のタタ・モーターズもそのひとつです。


1945年に機関車メーカーとして誕生したタタ・モーターズは1954年に独ダイムラーと合弁会社を設立し、トラックやバスなどの商用車の生産に乗り出します。ダイムラーは2010年までにタタ・モーターズの株式をすべて手放しますが、タタ・モーターズは今もインドの商用車生産の最大手で、2022年6月の市場シェアは41%に達しています。



乗用車市場に参入したのは1990年代で、手始めにステーションワゴンやスポーツ多目的車(SUV)、コンパクトカーなどを開発し、販売します。転機が訪れたのは2008年。タタ・モーターズは英国の自動車メーカーであるジャガーとランドローバーを米フォード・モーターから買収し、両社を経営するジャガーランドローバーを設立しました。世界的に知名度の高い両ブランドを傘下に収めたのです。


超小型四輪車の「ナノ」、鳴り物入りで登場も生産中止

2009年にはインド国民の「足」に革命をもたらすとの意気込みで、超小型四輪車の「ナノ」を発売します。価格は10万ルピー(約17万円)。庶民の足をバイクから四輪車に転換させるとの触れ込みで、日本でも話題になりましたが、鳴り物入りで登場した割に販売が伸びません。


10万ルピーという値段であれば四輪車を買うことのできる層を当て込んだのですが、それは少し背伸びをすれば小型四輪車の中古が買える層でもあったのです。バイクの購買層という牙城も崩せず、話題性も薄れてゆきます。タタ・モーターズは発売から10年目の2018年にナノの生産を停止しました。


インドの新車市場は2018年度(2018年4月-2019年3月)をピークに縮小傾向が続いています。新型コロナの感染拡大を受けた全国的なロックダウンやコロナ後の経済低迷などが影を落としています。タタ・モーターズの新車販売のピークも2019年3月期の約127万台でした。


コロナなどで業績低迷、新車販売はようやく復調の兆し

タタ・モーターズは2019年3月期から3期連続の赤字と業績も低迷していますが、ようやく新車販売が上向いてきました。2022年4-6月期の新車販売は特にインド国内が好調で、商用車が前年同期比124%増の9万5900台、乗用車が102%増の13万400台でした。業績も復調が見込まれ、市場予想では2023年3月期に黒字に転換する見通しです。



インドは人口規模で中国と肩を並べますが、新車販売では大きく水をあけられています。中国は2021年度の新車販売が2600万台を超えているものの、インドは三輪車を加えても400万台強に過ぎません。伸びしろは非常に大きいのです。


タタ・モーターズは、商用車でインド最大手、乗用車でもマルチ・スズキに次いで2位にランクされます。電気自動車(EV)の開発にも積極的に取り組んでおり、これからインド市場全体のパイが拡大すれば、大きな分け前にあずかることができそうです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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