新興国は成長株の宝庫!?

第4回:アヤラ・コープ(フィリピン)「激動の現代史を生き抜く」

フィリピンの出生率は2.75、26年に人口で日本超え

フィリピンは若い国です。国連の人口統計によると、2021年の平均年齢は24.5歳で、労働力人口の継続的な増加を意味する人口ボーナス期の終わりは、東南アジア諸国の中でも最も遅くなると推定されています。経済発展に有利な状態がかなり長く続くといえそうです。


また、市場規模も大きく、2021年年央の総人口は1億1388万人です。日本の1億2461万人には及びませんが、1人の女性が生涯に生む子どもの数を示す合計特殊出生率は2021年が2.75と日本(1.30)の2倍以上。国連の推定では2026年には総人口で日本を抜く見通しです。


フィリピンの人口動態をみると、将来は明るいようですが、現状では東南アジア諸国の中でも経済発展が遅れています。産業基盤の多様化が進んでいないフィリピンでは財閥による経済支配が維持されており、伝統ある財閥として真っ先に名前が挙がるのがスペイン系のアヤラ財閥です。


創業はフィリピンがまだスペインの植民地だった1834年にさかのぼります。スペイン・バスク地方出身のアントニオ・デアヤラが酒類の製造に乗り出したのが始まりでした。


それから180年以上を経た現在、アヤラ・ランドを中核とする不動産開発、フィリピン・アイランズ銀行を主軸とする金融事業、グローブ・テレコムへの出資を通じた通信事業、ACENが展開する再生可能エネルギー事業などビジネスは多岐にわたっています。アヤラ・コープはグループの持ち株会社です。


歴代の当主は創業家のデアヤラ家の出身です。ここ数代はもちろんフィリピン人ですが、欧州から妻を迎えるという伝統を守っているようです。6代目の当主にして現在のグループ総帥のハイメ・アウグスト・ゾベル・デアヤラ氏がアヤラ・コープの会長、弟のフェルナンド・デアヤラ氏が社長兼最高経営責任者(CEO)を務めています。


激動の現代史を生き抜いたスペイン系財閥

フィリピンでは、小売事業や不動産開発などを手掛けるSMグループや食品のユニバーサル・ロビナを傘下に持つゴコンウェイ・グループなど福建華僑系の財閥が台頭し、スペイン系の財閥は凋落しつつあるとされていますが、アヤラ財閥は孤軍奮闘している印象です。


1834年に創業したアヤラ財閥を巡る環境は激変につぐ激変でした。1898年の米西戦争を通じた米国によるフィリピンの植民地化、太平洋戦争下での日本による占領・統治、戦後の独立期、マルコス独裁政権下の戒厳令、マルコス大統領を追い落としたエドサ革命、エストラーダ政権を打倒したピープルズ・パワー革命2など時代の波がうねる中、ほかのスペイン系財閥が衰退するのを横目にアヤラ財閥が激動の現代史を生き抜いてきたことは特筆に値します。


政治力もさることながら時代の先を読む力が際立っているとされています。マニラ南東部の荒れ地だったマカティをフィリピン随一のビジネス街に発展させた先見性とその手腕は今も高く評価されています。


グループを統括するのが持ち株会社のアヤラ・コープです。フィリピン総合指数を構成する30銘柄の中で、時価総額で第5位にランクされています。



アヤラ財閥系企業、総合指数の時価総額で4-6位

ちなみに時価総額の1-3位は、持ち株会社のSMインベストメンツ、不動産・小売事業のSMプライム・ホールディングス、金融のBDOユニバンクで、いずれもSMグループの企業です。アヤラ財閥ではフィリピン・アイランズ銀行、アヤラ・コープ、アヤラ・ランドが4-6位を占めています。


アヤラ・コープが発表した2021年の年次報告書によりますと、フィリピン・アイランズ銀行への出資比率は2022年2月末時点で48.5%に上ります。同行の創業は1851年で、東南アジア初の銀行と称しています。


フィリピンを代表する大手銀行ですが、消費者や中小・零細企業などとの取引に定評があります。業績はコロナ前の2019年12月期がピークで、経常収益が前年比26%増の1005億ペソ、純利益が25%増の288億ペソに達しています。フィリピンでも厳しいロックダウンが導入され、2000-21年の業績は低調でしたが、すでに解除されています。市場予想では2022年12月期に純利益が347億ペソに達し、最高益を大幅に更新する見通しです。


不動産のアヤラ・ランドはグループの中核企業

不動産事業のアヤラ・ランドはアヤラ財閥の中核企業の一つで、マカティのビジネス地区に代表されるタウン開発に強みがあります。マンションなどの集合住宅、ショッピングモールなどの商業施設、オフィスビル、レジャー施設を複合的に開発します。


中でもショッピングモールでは、マカティ市のグリーンベルトやパラニャーケ市のアヤラモールなどが代表格。SMグループのショッピングモールとしのぎを削っているようです。



業績ではやはりコロナ禍の前の2019年12月期がピーク。2020年度に大きく落ち込み、2021年度に回復軌道に乗りましたが、2019年12月期の水準に戻るまでには時間がかかるとみられています。


アヤラ・コープが30.8%を出資するグローブ・テレコムはフィリピン第2の携帯電話サービス事業者です。フィリピン総合指数の構成30銘柄の中で時価総額ランキングは12-13位程度。首位のPLDTと2位のグローブ・テレコムが市場を寡占しており、ドゥテルテ前大統領はこうした状態を打破するため第3の通信会社の設立を推し進めました。


ACEN(旧ACエナジー・コープ)はアヤラ・コープが64.7%を出資する企業です。再生可能エネルギー事業の上場企業としては東南アジアで最大。コロナ禍にもかかわらず、2020年12月期と2021年12月期に大きく売上高と純利益を伸ばしており、成長の勢いに陰りはみえていません。


アヤラ・コープはこのほか、成長が期待できる新興事業としてヘルスケアと物流を重視し、育て上げる方針です。ヘルスケアではクリニックと薬局を展開し、物流ではフォワーディングなどに乗り出しています。このほかにも投資分野は多岐にわたります。その中から新たに核となる分野を探り当て、ビジネスを紡いでいくようです。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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