前回の記事「預貯金や保険の割合が減り、株式や投資信託が増加」では、家計の金融資産のうち、株式と投資信託の割合が年々増えているとお伝えしました。今回は、「貯蓄から資産形成へ」の動きが感じられるデータをご紹介します。
金融広報中央委員会(事務局:日本銀行)では、毎年「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯〕を集計し、WEBサイト「知るぽると」で公表しています。ここから読み取れる家計の金融行動の変化を見てみましょう。
※なお、同調査は毎年行われていますが、調査方法を変更した年などはデータが不連続となっています。それでも中期的なトレンドをつかんで頂く目的で、時系列にて紹介します。該当する年については、グラフ内に注記しました。
金融商品の選択基準「収益性」「安全性」「流動性」
「金融資産を保有している」と回答した世帯は、2022年は76.9%でした。この調査での「金融資産」は、運用のため、または将来の備えとして蓄える金融商品を指し、日常的な出し入れ・引落しに使っている預貯金を含みません。
この金融資産を保有する目的は、前回記事で紹介した通り、「老後資金」(59.2%)、「病気や災害への備え」(46.7%)、「子どもの教育資金」(20.6%)が2022年のベスト3でした。
みなさんは、これらの目的で金融商品を保有する場合、どのような基準で選ぶでしょうか。金融商品の選択基準となる特徴として、大きく分けると3つの観点があります。
1つ目は「収益性」。期待できる運用利回りが得られるか、という観点です。主に株式や株式投資信託、不動産投資信託(REIT)、外貨建ての金融商品などが該当します。
2つ目は「安全性」で、元本や利子の支払いが確実か、取引金融機関の経営は盤石か、という点です。主に預貯金。日本国債も比較的安全性が高いとされています。
3つ目は「流動性」です。必要な時にすぐに換金できるかどうかです。普通預金は、ATMですぐ引き出せます。証券総合口座のMRF(マネー・リザーブ・ファンド)も流動性が高いといえます。
「利回りの良さ」「値上がり期待」を求める人が増加
それら3つの観点と、「商品内容が理解しやすい」や「その他」の選択基準のうち、どれを重視するでしょうか。【グラフ1】は、2007年調査からの結果の推移です。
2008年のリーマン・ショック直後は、少額でも自由に出し入れできることを重視する人が急増しましたが、それ以外の時期は一貫して「元本保証」がトップを独走。しかし2021年・2022年は減少ぎみで、「収益性」の2つの選択基準が迫ってきています。
特に2021年は、全体的に急激な変化が感じられます。
「貯蓄から投資へ」と動き出した
2021年は、実際に行動に移した人が増えました。【グラフ2】は、前年と比べた金融商品保有の変化を聞いた結果の推移です。
集計上のルールを変更した年があるため、単純比較はできないものの、2021年以降の変化は歴然です。老後資金2,000万円問題の影響か、新型コロナウィルスの影響か、このデータだけでは理由付けはできませんが、変化の兆しが見られます。
まだ水準は低いものの、家計は「貯蓄から資産形成へ」と動き出しました。
金融資産を保有し残高が増えたと回答した世帯に、その理由を聞いています(複数回答)。2022年は、「定例的な収入が増加したから」(28.7%)、「定期収入からの貯蓄割合を引き上げたから」(27.2%)、「配当や金利収入があったから」(25.4%)、「株式、債券価格の上昇」(23.8%)が上位の回答です【グラフ3】。
注目したいのは近年の傾向が変わってきていることです。「定期収入の増加」と「貯蓄割合の引き上げ」が一定の幅の中でも低い水準にある一方で、「配当や金利収入」「株式、債券価格の上昇」が急上昇しています。
預貯金への積立から、証券投資を使った資産形成へと、トレンドの変化を感じます。
筆者の周囲でも、頑なに「元本割れはイヤ」と言い張る方はずいぶん減りました。まだ「ある程度のリスクは許容するしかない」というニュアンスが伝わってくるものの、「貯蓄から資産形成へ」の流れは着実に進んでいると感じています。
【出典】「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯〕(金融広報中央委員会)