相場の急展開で鎮静化した2024年の新NISA

改正によって2024年からスタートした新NISA(少額投資非課税制度)。制度改正が報じられると注目を集め、「猫も杓子も新NISA」というムードに包まれたのは皆様もよくご存じの通りです。ところが、2024年夏に市場が大きく荒れると、急に怖くなった投資ビギナーの方から心配の声が上がるようにもなりました。


その後相場は落ち着きましたが、「NISAブーム」は以前ほどの盛り上がりではなくなったと感じています。「投資はやっぱり怖い」と、再認識されてしまったのでしょうか?


9月以降のNISA口座開設は低め横ばい


日本証券業協会がまとめた「NISA口座の開設・利用状況(証券会社10社・2024年12月末時点)」が公表されました。大手証券5社とインターネット証券5社を合計した月ごとのNISAの新規開設口座数の推移を、【グラフ1】に示しました。



新NISAが始まり、1月は73万件の口座開設がありました。は、2023年10~12月に開設された旧制度のNISAは、1ヵ月平均が25万口座。新NISAになって一気に3倍近い口座開設に急拡大した後は徐々に鈍化し、4月以降は月間20万口座台の開設件数に落ち着きます。


そこへ7月末の相場急落。8月は日米ともに株式市場が調整局面となりました。ところが9月以降は、米国株は再び上昇ペースに戻っています。その一方で日本株は、日経平均株価、東証株価指数(TOPIX)ともに2024年7月の水準を越えられずにいます。


NISAで米国株や外国株の投信を積み立てる投資家は多く、米国株の復調は投資家の背中を押してくれそうな気もしますが、9月以降のNISA口座開設は12万件~14万件程度で横ばいが続いているのが現状です。


NISA口座を作っても投資をしていない理由


2024年夏の急落場面で、以前は合言葉のようになっていた「長期・積立・分散投資」を忘れてしまったかのように、「NISAは解約した方が良いですか?」などと問われたこともありました。SNSなどでは、初めて経験する下落相場に恐怖感を覚える投資家の投稿をよく見かけました。


その直前、相場が絶好調だった2024年6月から7月に実施された調査では、投資する商品や投資のタイミングを見極めているという声が一定数ありました。【グラフ2】は、日本証券業協会による「証券投資に関する全国調査(2024年度)」(調査対象:全国の18歳以上の7,000人)において、「NISA口座を開設したものの投資をしたことがない」という274人に、その理由を複数回答で尋ねた結果です。



最も多かった「投資の方法が分からない」(28%)、次の「投資商品を見極めているため」(19.7%)と回答した人は、投資の方法や投資商品を知ったり学んだりするところから始める必要があるので、本コラムでは参考程度にご覧ください。


ここで注目したいのは、3番目の「市場動向により、投資時期を見極めているため」(19.0%)という人たちです。このようなスタンスの方は、昨年夏の下げ局面で、成長投資枠を使うなどして実際に購入したのでしょうか。


「投資時期を見極めて」、NISAで買い出動したか


NISAの成長投資枠では、積立投資もできますが、投資家の判断で投資時期を見極めて買うことができます。昨年夏以降、買付額は増えたのでしょうか。


冒頭でご紹介した、日本証券業協会「2024年における証券10社のNISAの利用状況」の結果から、NISAのつみたて投資枠・成長投資枠それぞれについて、月ごとの買付状況を見てみましょう【グラフ3】。



まずは、つみたて投資枠を見てみましょう。8月と9月は、それぞれ前月より買付額が減っています。新たに始める人以上に、積立をやめたり減らしたりしてしまった人がいたのでしょう、買付額が減りました。しかしその傾向は長引かずに、10月には増加に転じています。


一方、成長投資枠は、年初に買付が集中したようです。非課税枠の拡大した影響と考えられます。しかしいったん落ち着くと、夏の急落後、「安いから買いたい」という様子が見られません。12月に買付額が膨らんだのは、おそらく年間非課税枠を使ってしまおうという駆け込み需要でしょう。


値上がりしている時は、「安くなったら買いたい」とおっしゃる人でも、いざ、値下がりすると手が出ないものです。「投資時期を見極めている」などと二の足を踏んでいると、いつまでも買えずじまいになってしまいます。そもそも、投資時期を見極めることなど難しいのです。そういう方こそ、ご自身の意思を働かせずに、いつの間にか資産形成ができているような仕掛け、つまり積立投資をお勧めします。


【出典】

●日本証券業協会「NISA 口座の開設・利用状況調査結果(証券会社 10 社・2024 年 12 月末時点)


●日本証券業協会「証券投資に関する全国調査


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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