日本銀行では、全国の20歳以上の個人4,000人を対象に、年4回、生活意識に関して調査を行なっています。2024年11月上旬から12月上旬にかけて行われた「第100回 生活意識に関するアンケート調査」では、多くの人が物価に対して厳しさを感じていることがわかりました。
「生活意識に関するアンケート調査」とは
日銀の「生活意識に関するアンケート調査」は、対象が個人で、暮らし向き、物価の動きといった生活実感や消費行動などについて質問し、人々の意識や行動を把握する一種の世論調査です。例えば、「世の中の景気は良くなっているか」「暮し向きは、ゆとりが出てきたか」「収入や支出は増えているか」「物価は上がっているか」「雇用に不安はないか」などの質問があります。
この結果は、政策・業務運営の参考にされています。個人投資家のみなさんにとっても、判断材料になるのではないでしょうか。株式市場の需給はもちろん、企業業績を見る上でも消費者の景況感は重要だからです。
皆さんは、景気指標と個人の肌感覚との間にギャップを感じた経験がありませんか? 改めて、消費者が抱いている景況感を確認してみましょう。
「ゆとりがなくなってきた」という人の約9割の人が理由に挙げた「物価」
1年前と比べた人々の景況感は、悪化しました。59.8%の人が「悪くなった」と答え、「変わらない」が35.9%、「良くなった」はわずか3.9%でした。
1年後の景気については、「悪くなる」と思う人が42.6%で、「変わらない」が51.2%。「良くなる」と思う人は5.7%でした。
3ヵ月ごとの推移を見ると、人々の景況感はほとんど悪いままです。景況感の判断の根拠は「自分や家族の収入の状況から」という人が46.9%となっています(2つまでの複数回答)。
暮らし向きの変化についても同様で、1年前と比べて「ゆとりがなくなってきた」という人が57.1%です。「ゆとりが出てきた」という人は4.7%。そのうちの65.7%が「給与や事業などの収入が増えたから」と答えています。
一方、「ゆとりがなくなってきた」という人の約9割が、物価上昇を理由に挙げています【グラフ1】。
1年後の世帯収入「減る」が約3割
「え? ちょっと待って。賃上げのニュースが続いているではないか?」と思った方も多いことでしょう。では、人々は賃上げの効果を感じているのでしょうか。
1年前と比べた世帯収入の変化は、「増えた」が17.1%、「変わらない」が51.8%、「減った」が30.1%でした。増えた理由には給与や働き方の変化が挙げられ、減った理由としては、「物価の変化が収入に反映されたから」が40.2%と最多でした(複数回答)。ゆとりを感じられないのは、収入が増えてもそれ以上に物価が上がっていることが、ここからも読み取れます。
産業界ではこの春も賃上げムードが続いているようですが、1年後の世帯収入を尋ねたところ、「増える」と回答した人は11%、「変わらない」が57.7%、「減る」と答えた人は29.9%でした。
これほどまでに悲観的な人が多いのか、と少し驚きます。収入減の理由(複数回答)で最も多かったのは「物価の変化が収入に反映されると思うから」で50.1%。ここでもまた、物価が存在感を放っています。さらに、今後の世帯の支出を考えるにあたり、特に重視することとしても「今後の物価の動向」が69.3%と最多となっています(複数回答)。
約95%の人が「物価が上がった」
以前は「デフレ脱却」がアベノミクスのテーマになるなど、デフレ退治に躍起になっていました。ところが今では、1年前に比べて物価が上がったと感じている人が約95%(「かなり上がった」が69.2%、「少し上がった」が25.9%)です。
さらに、どの程度上がったと感じるかの集計結果には、驚いてしまいました。
【グラフ2】は、物価の変化に対する見方の推移です。「1年前から現在までに何%変化したと思うか」、また、「現在から1年後に何%変化すると思うか」「5年後まで毎年平均何%程度変わると思うか」について尋ね、それぞれの平均値と中央値の推移を重ね合わせました。
現在の物価は、平均すると1年前より17%上がったと感じられ、中央値で12.5%でした。平均値は、極端な値を排除するため、上下各々0.5%のサンプルを除いて計算しています。中央値とは、回答の値の大きさを順に並べた際に、真ん中に位置する人が答えた値です。
景況感や暮らし向きについて物価への意識が強い上に、感じている上昇率は2ケタだとは!
先日、内閣府から公表された1月の「消費動向調査」でも、同様の結果が出ています。93.3%の世帯(二人以上の世帯)が、物価の見通しについて「上昇する」と回答。基調判断は、「消費者マインドは足踏みがみられる」に下方修正されました。
当面、物価をにらみながらの家計管理。戦々恐々とするような、厳しい状況が続きそうです。
【参考サイト】
「生活意識に関するアンケート調査」(日本銀行)