中立派とされる氷見野日銀副総裁の見解を受け、「日銀利上げ慎重論」が浮上しています。為替は円安で反応しました。まだ顕在化していないトランプ関税など通商政策が経済へ与える影響を見定めたいのかもしれません。
中立派の氷見野副総裁が慎重姿勢を示す
2日、氷見野日銀副総裁の道東地域金融経済懇談会での挨拶は、根強かった日銀の利上げ観測にやや変調を感じさせ、「日銀利上げ慎重論」を浮上させる内容とされました。同副総裁は「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが適切」と述べつつも「メイン・シナリオが本当に実現していくかどうかについては、予断を持たずにみていきたい」と利上げにやや慎重とも受け止められる姿勢を示したのです。
この発言後、為替市場では円安がじりじり進みました。同日中に148円台、翌3日の東京タイム時点で149円台へ乗せる場面もありました(図表参照)。
氷見野副総裁は日銀金融政策委員会メンバーのタカ派(金融引き締め派)・ハト派(金融緩和派)判断においては中立派とされる立ち位置です。全体的な政策判断の傾きを考える上で意見の方向性が注目されやすいともいえます。
まだ顕在化していない影響を見定めたい
政策判断の見極めを難しくしているのはトランプ関税の影響で、影響が大きく現れなければ利上げへ動く要因になるとしています。氷見野副総裁も、企業からのヒアリング情報や経済指標の強弱を注視すると述べています。
ベッセント米財務長官が、日銀は「(利上げに対して)後手に回っている」と指摘するなど米国サイドから圧力を受けている面もあるようで、あまり利上げに対して後ろ向きな態度も示せないでしょう。それでも後手に回ることだけでなく、先走りにも注意したいといった意向を氷見野副総裁は今回の挨拶で示しています。
関税が経済に与える影響をやや強めに意識したと今回の発言は捉えられましたが、これはすでに利下げサイクルへシフト済みの米国の金融政策運営にも似通った点があります。先日のカンザスシティ連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会合)でパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は「価格の安定」よりも「雇用の最大化」に軸足を置いて、今後の利下げに前向きなスタンスを示していました。
利下げの前倒しをうかがうFRBと比べ、利上げに慎重になる日銀の政策判断はより難しさをともないます。物価動向と景況のバランスを見定める難しさがあります。
しかし氷見野副総裁が、米関税ほか通商政策の影響が当面は「大きくなる可能性により注意が必要」、「(関税の影響)思ったほど顕在化していない。影響が出るまでに時間がかかっているだけ。これから及んでくるというのが基本的な見方」と話していたことからも、マーケットは「日銀利上げ慎重論」を感じ取ったのでしょう。
まだ関税の影響が顕在化していないように感じられた一因として「関税賦課前に前倒しで駆け込み的に企業活動が活発化した面もあった」(シンクタンク系エコノミスト)との声も聞かれます。その効果が急速にはく落することも想定でき、まだ見定めが必要との思いが日銀を慎重にさせる可能性を踏まえてマーケットの動きを追うべきかもしれません。