カナダは長期にわたって安定、繁栄、そして質の高い生活の象徴であったが、生産性危機により一人当たりの富は停滞あるいは減少に陥り、経済大国である隣国米国との格差は拡大しています。
住宅・家賃危機の深刻化により生活費が高騰しました。また、投資の低迷を背景に失業率が上昇し、米国との貿易摩擦は輸出依存型の経済に深刻な打撃を与えています。
住宅・家賃価格の高騰
2000年以降、住宅価格は所得を大幅に上回るペースで上昇し、価格所得比率は先進国の中でも最高水準にあります。カナダ中銀(BOC)が利下げに踏み切っても、多くの人にとって住宅所有は依然として手の届かないものとなっています。要因としては、住宅の金融化の深化、適切なセグメント/地域における供給のボトルネック、新築住宅における高い税金と手数料の負担、建設におけるキャパシティのボトルネック、そして近年の急激な人口増加などがあげられます。
労働市場の冷え込み
カナダの9月雇用統計は、新規雇用者数が予想を大幅に上回る6.04万人増、失業率も予想の7.2%に対し7.1%となりました。ただ、7・8月は新規雇用者数がプラス予想に反して大幅に減少するなど、今年に入って労働市場は著しく冷え込んでいます。今年に入って失業率は7%を超え、4年ぶりの高水準に達しています。雇用の減少は貿易に敏感なセクターと金利依存度の高いセクターに集中しています。
今年のGDP
1-3月期GDPは前期比+2.2%と昨年10-12月期から伸びが鈍化するも予想を上回り、まずまずの結果となりました。ただ、4-6月期は-1.6%と米政権による関税措置で輸出が大幅に減少したことが響き、7四半期ぶりのマイナス成長に落ち込みました。先週に発表された8月貿易収支は63.2億加ドルの赤字と赤字額は予想を上回りました。トランプ米政権の関税政策の影響で、最大の貿易相手国である米国だけではなく他の国・地域に対しても輸出の減少が続いています。
財政上の課題
カナダはG7諸国と比較して財政的に健全であるとしばしば評価されてきましたが、2025年には財政赤字の拡大、債務返済負担の増大、そして財政基盤の欠如に関する警告が高まっています。議会予算局は、2024年度予算の軌道から大きく逸脱すると予測しています。プログラム支出の増加、税制措置、そして成長の鈍化により、今後数年間の予測は大幅に上方修正される可能性があります。
最新の月次財政報告によると、支出ブロックと金利費用が増加している一方で、一部の税収は一時的に減少しています。
BOCの利下げ
国内経済の弱体化、コアインフレ率の鈍化などを根拠にBOCは9月会合で利下げを再開しました。10月末に予定されている次回会合での追加利下げと金利の据え置き予想は今のところ、五分五分と拮抗しています。ただ、金融政策は緩やかな緩和を通じて経済を支えるものの、構造的な制約や貿易政策リスクを中和することはできません。金利引き下げは金利負担と支払い圧力を軽減するが、生産力や輸出需要を自動的に押し上げるわけではありません。
カナダ政府の取り組み
経済を支えるためにBOCの利下げだけではなく、カナダ政府も数十億ドル規模の投資とモジュール建築などの新技術を活用した前例のない住宅建設プログラムで供給ギャップの解消を目指し、より持続可能な未来への道を切り開くために産業政策、移民政策、そして国家気候変動計画の更なる調整も進められています。ただ、危機からの脱却は困難を極め、先行きの不透明感は根強いです。