中国では、電池や電力関連の企業が手掛けるエネルギー貯蔵(蓄エネ)事業が急速に拡大しています。これまでは太陽光発電や電気自動車向けの電池事業の「補助的な役割」と考えられていましたが、再生可能エネルギーの拡大に伴い、企業の成長戦略においても「主役」として位置づけられるようになっています。
「蓄エネ」は何?
まず、「蓄エネ」とは何か、簡単に説明します。これは、電気をためておくことです。最近、世界中で太陽光発電や風力発電といった「再生可能エネルギー」が注目されています。しかし、太陽が出ている時しか発電できない、風が吹いている時しか発電できない、という弱点があります。ここで活躍するのが「蓄エネ」です。 発電した電気をためておけば、必要な時にいつでも使えるようになります。
『上海証券報』の調査によると、リチウム電池メーカーの恵州億緯リ能(300014)や瑞浦蘭鈞能源(00666)、太陽光発電設備メーカーの陽光電源(300274)などの大手企業は、蓄エネ用の電池セルの受注が急増し、生産ラインはフル稼働の状態が続いています。企業にとって蓄エネ事業が将来の成長の柱になりつつあります。

蓄エネが主力事業にシフト
実際に業績を見ても、蓄エネ事業の存在感が増しています。陽光電源の2025年6月中間決算では、太陽光発電用インバーターなどの電力変換装置の売上比率が35%にとどまる一方、蓄エネシステムの売上は前年同期比で2.3倍の178億元となり、売上全体の41%を占めました。陽光電源は太陽光発電設備大手から総合エネルギー企業への転換が進んでいることがわかります。
電池メーカーの恵州億緯リ能や瑞浦蘭鈞能源も同様です。25年上期の蓄エネ電池出荷量は、瑞浦蘭鈞能源が18.87ギガワット時(GWh)、前年同期比119%増、恵州億緯リ能は28.71GWhで37%増となり、いずれも自動車向けの動力電池の出荷量を上回りました。両社は「動力+蓄エネ」の二本柱で事業を展開し、蓄エネを新たな成長の柱として位置づけています。

激化する価格競争と産業構造の再編
しかしながら、急速な成長の裏側には、激しい価格競争という課題が存在します。CATL(03750)、恵州億緯リ能、中創新航科技(03931)、瑞浦蘭鈞能源、国軒高科(002074)など11社がエネルギー貯蔵事業の売上を開示していますが、このうち、CATLと恵州億緯リ能は蓄エネ事業で100億元以上の売上高を達成し、中創新航科技、瑞浦蘭鈞能源を含む7社が10億元以上を記録しています。一方、売上高の成長率が出荷量の成長率を下回る傾向にあり、業界全体としては「増収でも増益にならない」状況が続いています。原材料価格の下落や入札競争の激化が利益率を圧迫しているためです。
業界関係者の指摘では、大容量電池の技術進歩によるコスト削減効果に加え、価格競争が相まってエネルギー貯蔵用電池の販売価格は低位で推移してきました。現在の原材料価格が底打ちした状況下では、さらなる値下げ余地は限られています。
このような環境下で、コスト競争力と技術水準を有する上位メーカーへの市場集中が鮮明になっています。CATLや恵州億緯リ能の設備稼働率はそれぞれ89.86%、87.51%と高い水準を維持している一方で、中小メーカーは稼働率が低く、過剰設備を抱える状況です。
専門家は、量の拡大に伴う低価格競争の時代から、今後は安全性、寿命、一体化などの性能を備えた高品質製品への需要集中が進むと指摘しています。これにより、産業構造の再編と淘汰が加速し、業界の標準化が喫緊の課題となっています。
世界市場でも存在感
蓄エネ市場の成長は国内にとどまりません。中国化学物理電源行業協会によると、25年上期の世界蓄エネ電池出荷量は226GWhで、前年同期比97%増となりました。上位9社を中国企業が占め、世界市場の9割以上を中国企業が占めています。
陽光電源の25年上期の海外売上比率は58.3%と前年の46.62%から大きく上昇し、海外売上高は前年同期比88%増の253億7900万元に達しました。欧米や新興国の需要が急拡大しており、中国企業の業績を押し上げています。
中信証券は「欧米の再生可能エネルギー比率の上昇が、蓄エネ需要を押し上げる」と指摘し、国信証券も「中東、東南アジア、南米、南アフリカ、インドなどの新興市場で、電力不足や政策支援を背景に蓄エネ導入が急拡大する」と予測しています。競争力のある価格と供給能力を持つ中国企業は、世界市場でも存在感を高めています。



