2015年頃、Fintech(金融×IT)という言葉が流行りました。当初このなかに金融商品として生命保険を定義した「保険×IT」も含まれていたのですが、2017年頃からFintechには含めずにInsurtech(インシュアテック)として語られるようになりました。Insurance(保険)とITの造語です。
生命保険のなかで「ムダ」な部分はどこか
もうひとつのFintechの日本語訳は「金融のアップデート」といわれます。この×ITの特徴はアップデートという言葉も使われるように、ITの力を使って既存の仕組みを変えることです。では2017年頃から現在まで、保険のどのような部分にアップデートが実装され、Insurtechのサービスとして提供され始めたのかを考えてみましょう。
(1)Insurtechの実装①:保険営業をロボットが行う(リアほ・コの保険)
生命保険の仕組みは複雑です。特に自分にとってふさわしい保険は何かを考えるには、さまざまな保険の種類と加入するタイミング、貯蓄性のある終身保険などは将来的な出口(解約返戻の受取予定時期など)を定めなくては申込に進みません。
この対応はこれまで、生命保険の営業マンが担ってきました。この部分をAIを活用したロボットが行うサービスが生まれてきています。サービスによってはロボットの場合もあれば、入口だけオートメーションが機能し、いわゆるFPなどの専門家が控えているサービスもあります。また、ここに紹介した2社は保険代理店のように複数の保険を扱う企業ですが、1社専属の形態で保険営業の自動化をするサービスも今後増えていくと考えられます。
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(2)Insurtechの実装②:複数保険管理(保険簿・うちの保険)
いざ病気などの保険金請求画面になったとき、的確に保険会社に連絡し手続きをすることができるでしょうか。当然ながら、保険会社は請求が無ければ何も動けません。この差によって発生するのが、保険の請求モレです。請求しなかったから保険を受け取れなかったでは、毎月保険金を納めている意味がありません。
複数保険管理サービスでは、病気のとき、ケガをしたときなどの項目があり、サービス上で複数の保険会社に対して請求を行います。また自分が普段どの保険に加入しているのかを把握できる効果もあります。
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(3)Insurtechの実装③:保険会社・保険代理店向けの情報プラットフォーム(ソリシター君・hokan)
直接エンドユーザー(保険の加入検討者)には見えない部分ですが、保険会社と保険代理店の情報共有や顧客管理、商品のセールスマニュアルなど、意思疎通を要する箇所は多いです。これらを相互アクセスできるプラットフォームで提供しているサービスです。C向けではないのでURLは貼りませんが、これらのサービスが浸透することによって保険提供にかかるコストが削減され、保険料の値下げに繋がるというメリットは考えられるでしょう。
これからユーザー向けにはどのようなサービスが期待できるか
Insurtechは発展途上です。今後、更にエンドユーザーの満足度が上昇するサービスが生まれてくると思われます。具体的に、どのようなニーズがあるのでしょうか。
筆者がもっとも期待したいのは、生命保険に入る前ではなく、「入ったあとのサービス」です。
(1)解約返戻前提の終身保険はほかの資産運用と比べてどうなのか
終身保険には貯蓄性があります。その保険がどれくらい運用益を得るのか明確化してきました。一方で、運用益が100-105%という見込みだと、本当に保険の運用でなくてはならないのか?と疑念を持つ商品も目立っています。
次の市場は、資産運用として終身保険なのか、投資信託やコモディティなどのほかの運用方法と比べてどうなのかという視点です。現在のサービスと同じくFPが受ける場合もありますし、AIによる活躍も期待できる領域です。
(2)公的保障とのバランス
公的健康保険や公的年金など、公的保障と生命保険のバランスは多くの人が自信を持てない領域です。公的保障にこういう制度があるはわかりますが、それが自分にとってどのように活用できるのか。年代によって公的保障があるから不要になる生命保険があれば、一方で更なる安心のために加入しておく保険もあります。そのあたりの包括的なサービスを望みます。
(3)高齢者向け医療保険
最後は高齢者向けの医療保険です。高齢化社会の日本においては、60歳を迎えても医療保険に加入し続ける人も多いです。そもそも必要なのかという視点と、商品をどのように選べばいいのか。専門知識とともに高齢層に受けやすいキャラクター面も重要です。
まだまだInsurtechが活躍すべきフィールドは多いです。日本の市場にフィットして、顧客満足度を高めるサービスの誕生を期待しています。