魅惑の海外ETF

経済成長の伸びしろが魅力、ベンチマークは新興国株価指数

米国市場ではETF(上場投資信託)への投資が活発です。大型株に投資するタイプから成長株の指標に連動するもの、米国債の指数をベンチマークとするETFなどさまざまなタイプがあります。


景気やマーケットの動向などに応じて使い分け、リスクを軽減させる手段として活用することも可能です。売買も手軽で、使い方次第で大きな武器になりそうです。そんな海外ETFの内容を簡単にまとめたこのコラム、今回は新興国の株価指数をベンチマークとするETFをご紹介します。


新興国の代表的な株価指数、MSCIが算出

新興国の株価指数では大型株と中型株で構成されるMSCIエマージング・マーケッツ・インデックスがよく知られています。指数を算出するMSCIは経済の発展段階や株式市場の制度などに基づき、国・地域を先進国市場、新興国市場、スタンドアローン市場、フロンティア市場などに分類しており、新興国市場を対象とするのがエマージング・マーケッツ・インデックスです。


この指数は現在、新興国に分類される24の国・地域の株式を対象にしています。24カ国・地域はブラジル、チリ、中国、コロンビア、チェコ、エジプト、ギリシャ、ハンガリー、インド、インドネシア、韓国、クエート、マレーシア、メキシコ、ペルー、フィリピン、ポーランド、カタール、サウジアラビア、南アフリカ共和国、台湾、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)です。



分類は経済状況などで変動します。例えばギリシャは以前、先進国市場に分類されていましたが、ギリシャ危機の後に新興国に組み込まれました。また、アルゼンチンは2019年に新興国市場に返り咲きましたが、2021年には再び除外されています。さらに2022年にはウクライナへの侵攻を受け、ロシアが除外されています。


新興国といえばさまざまな問題がありますが、経済成長の伸びしろが大きいという圧倒的な魅力もあります。分散投資の観点でも新興国の成長力から恩恵を受けるためにETFに投資する個人も多いようです。


米国市場に上場するこの分野の代表的なETFに「iシェアーズ MSCI エマージング・マーケッツETF(シンボル:EEM、以下はシンボルで表記)」があります。MSCIエマージング・マーケッツ・インデックスをベンチマークとするETFです。


指数は2023年7月31日時点の構成銘柄数が1422に上りますが、iシェアーズが発表している資料に基づくと、EEMの銘柄数は1269です。


一方、MSCIはエマージング・マーケッツ・インベスタブル・マーケット・インデックス(IMI)という指数も算出しています。こちらは「インベスタブル(投資可能な)」という言葉が示す通り、新興24カ国・地域の投資可能な小型株も加えており、構成銘柄数は7月31日時点で3332とMSCIエマージング・マーケッツ・インデックスの2倍以上です。


もちろんこの指数をベンチマークとするETFもあり、それが「iシェアーズ・コア MSCI エマージング・マーケッツETF(シンボル:IEMG)」です。2023年8月28日時点の純資産は712億7400万ドルで、EEMの214億4800万ドルの3倍以上の規模を持ちます。


FTSEラッセル、新興国株価指数を算出

新興国の株価指数はMSCIの専売特許ではなく、英FTSEラッセルがFTSEエマージング・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスを算出しています。こちらも24カ国・地域が対象ですが、MSCIエマージング・マーケッツ・インデックスに含まれる韓国、ペルー、ポーランドがなく、アイスランド、パキスタン、ルーマニアが対象になっています。


銘柄数は7月31日時点で4539に上り、中国株が2569銘柄と全体の半分以上を占めています。この指数をベンチマークとするのが「バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF」(シンボル:VWO)」です。


VWOが対象とする銘柄数はベンチマークの指数に比べてもさらに多く、7月31日時点で5740銘柄に達しています。国・地域別の構成比は中国が33.1%と突出し、インドが17.8%、台湾が17.5%、ブラジルが6.5%、サウジアラビアが4.3%、南アフリカ共和国が3.6%で続きます。



個別銘柄の時価総額構成比は半導体ファウンドリー世界最大手の台湾セミコンダクターが4.80%でトップ。中国のIT大手のテンセントが3.68%、ネット通販のアリババ・グループ・ホールディングが2.83%、インドの石化大手のリライアンス・インダストリーズが1.34%、中国のIT企業の美団が1.31%で上位に入っています。



VWOの管理報酬は純資産価額に対して年0.08%です。分配金は年4回という実績が続き、権利落ち日は3月、6月、9月、12月で、2023年も例年のペースで分配が行われています。


投資パフォーマンス、新興国ならではの爆発力が魅力

ETFの市場価格動向と分配金をもとに算出する投資パフォーマンスは、リーマンショック後に不安定に推移しています。ただ、年間のトータルリターンは2010年から2022年までの13年間でプラスが8回、マイナスが5回で、8勝5敗と勝ち越しています。


また、2017年にトータルリターンが31.3%、2019年に20.5%に達するなど新興国ならではの爆発力を秘めている点も魅力です。



米国株の個別銘柄の時価総額をみると、2023年7月下旬の段階でVWOとIEMGはともに120番台と半導体のマイクロン・テクノロジー(MU)や物流サービスのフェデックス(FDX)といった有力企業を上回っています。


新興国の経済成長の伸びしろに対する期待に加え、分散投資のバランスも投資家を引き付ける要因になっているようです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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