FX 誰にでもわかるチャート教室

第149回 今後の豪ドル円見通し、調整が深まるか直近安値の維持が焦点に

今回解説していく通貨は豪ドル円です。豪準備銀行(RBA)は5月の理事会で2月以来の金利引き下げを実施したほか、金融政策方針もハト派的なものへと変化しました。日豪金利差も今後縮小する可能性が高まるなか、テクニカル的に調整局面入りとなった豪ドル円がさらに下押し圧力を強めるのか注目されるところです。では、チャート上でも豪ドル円の状況を確認していきましょう。


2025年現在の豪ドル円の相場 穏やかな下落基調は4月から一変、上下に荒く振れる

まずは2025年ここまでの豪ドル円の価格推移を見ていきます。

 


2024年11月からの穏やかな下落基調を引き継ぐ格好で始まりましたが、2025年4月以降は荒い値動きとなりました。わずか数日で95円台から86円台まで10円近い急落となり、4月9日には一時86.05円まで下押し。ただ、その後は一転して買い戻しが進む展開となり、今度は昨年11月からの下降トレンドライン(チャート上の黄色実線)を上抜けて再び95円台まで下値を切り上げる場面も見られました。

 

4月からの相場急変動の要因ですが、言うまでもなくトランプ米大統領の言動ですね。4月2日に米大統領が相互関税の詳細を発表すると、世界各国で対米貿易摩擦が深刻化するとの懸念から、為替市場では一斉にリスク回避目的の円買いが進みました。その後は関税の猶予や貿易交渉等の関連発言・報道に振らされるマーケットが現在までも続いている状況です。


今後の豪ドル円の相場焦点 米中貿易交渉に注目、豪金融政策の変化にも注意

今後の豪ドル相場を占う材料ですが、米国の貿易・関税政策には引き続き注意が必要となります。特に米国と中国の貿易協議の行方には注目です。一時は不毛な関税引き上げ合戦状態となった両国ですが、その後に90日間の猶予付きで両国が関税を大幅に引き下げることで合意。現在は新たな貿易交渉が行われている最中(9日執筆時点)です。

豪州は中国と資源貿易関係が深いだけでなく、豪ドルも市場全般のリスク志向に左右されやすい側面を持っているため、両国の交渉の行方には注目しておきたいところです。

 

また、今後注目すべき材料としては豪準備銀行(中央銀行、RBA)の金融政策も挙げられます。RBAは今年2月に2020年11月以来となる利下げを実施しましたが、声明文では「今回の利下げ後も引き締め的な状態が続く」「市場が示唆する追加利下げは保証されていない」と述べるなど慎重な姿勢を示していました。

直近(5月19-20)の会合ではそれ以来の金利引き下げとなったわけですが、その際の声明では「インフレ率の上振れリスクは減少」「今回の会合での金融政策緩和は適切と判断」「50bpの利下げも議論した」などと述べるなど、中銀の姿勢は大きくハト派へと傾きました。金融市場でも豪金利の先安観は高まっており、今後は豪ドル相場への影響も大きくなると予想されます。


豪ドル円の週足分析 86円付近の下げ止まり水準を維持できるかがポイント

下図のチャートは豪ドル円の週足チャートになります。前回の分析(3月19日)でも指摘したように、2020年3月安値を起点とする上昇トレンドライン(チャート上の青色実線)を明確に下抜けたことで、現在は上昇トレンド内の調整局面もしくは新たな下落トレンド入りの状況となっています。

 


チャート下部に追加した「DMI」では-DI>+DI(下落トレンド)を示唆しており、トレンドの強さを示すADXも高水準にあるため、「DMI」では依然として下落基調が示唆されています。

その一方で、4月9日につけた直近安値が86.05円にとどまり、2023年3月安値の86.06円(いずれもチャート上の丸で囲った部分)付近で下げ止まったことはポジティブな材料と言えそうです。同水準を支えに買い戻し基調が強まるか注目されますが、逆に言えばこの水準を下抜けると本格的な下げトレンドとなる可能性が高く、今後の重要なポイントになるでしょう。


豪ドル円の日足分析 明確な方向感は乏しい、95円台後半の戻り水準を上抜け出来るか

では今後の方向性を短期的な視点からも探っていきましょう。下図のチャートは豪ドル円の日足チャートになります。チャート内の青色実線は週足分析で紹介したものと同じトレンドラインです。

 


足もとではやや買い戻しが入っているようですが、直近での戻り高値は5月13日につけた95.65円。3月18日につけたその前の高値95.75円(チャート上の黄色実線)にはわずかに届いておらず、今後は同水準付近をクリアに上抜け出来るかが焦点となります。

また、2024年7月高値から2025年4月安値までの下落幅に対する「フィボナッチ・リトレースメント」の50%戻し水準が97.71円付近に位置しており、この辺りも今後のレジスタンス水準として意識されるでしょう。

 

なお、日足チャートでも「DMI」を加えていますが、こちらでは+DIと-DIが頻繁に交差するなど明確な方向感は示唆されず。トレンドの強さを示すADXも低下基調にあり、短期的な方向性は見出しにくいのが現状です。


今後の取引材料・変動要因をチェック 日豪金利差は今後も縮小見込み

最後に今後1カ月間の重要イベントも確認しておきます。注目は日・豪中銀の金融政策です。

日銀については政策金利の据え置きが予想されており、前回の展望レポートで物価目標の到達時期が後ずれしていた影響から、足もとでは追加利上げ観測も後退しています。

一方で、豪準備銀行(RBA)は前述したように金融政策方針の変化から金利先安観が台頭。市場では次回(7月7-8日)の理事会で0.25%の利下げを8割程度織り込んでいるほか、年末までに7月分も含めて合計3回程度の利下げが予想されており、日豪金利差は今後も着実に縮小していくことになりそうです。

また、依然として市場全般の不透明感につながっている米国の貿易・関税政策については、6月15-17日の主要7カ国首脳会議(G7サミット)に関連して、各国が米国と個別の交渉を行う見込みで、こちらの行方にも注目が集まります。

その他のイベントは以下の通りとなります。

 

今後1カ月の重要イベント

6月15-17日 主要7カ国首脳会議(G7サミット)

6月16-17日 日本 日銀金融政策決定会合

6月20日 日本 5月全国消費者物価指数(CPI)

6月25日 豪州 5月CPI

7月7-8日 豪州 豪準備銀行(RBA)金融政策理事会


この連載の一覧
第149回 今後の豪ドル円見通し、調整が深まるか直近安値の維持が焦点に
第148回 今後のユーロ円見通し、貿易リスクはあるがチャート上では上昇期待も
第147回 ドル円相場見通し、一段の円高へと向かうリスク 2025年中に120円台もあり得るか
第146回 NZドル円(nzdjpy)相場予想、追加利下げ濃厚も下落トレンドは終了か?
第145回 トルコリラ円(try/jpy)相場予想、過去最安値更新で止まらぬ下落
第144回 ユーロドル為替相場予想、トレンド反転の判断は慎重に
第143回 南アフリカランド円相場予想、一目雲下限を維持できるか注目
第142回 豪ドル米ドル相場予想、下降トレンドへの移行で下押し圧力も増すか
第141回 ポンド円、下押し圧力を警戒すべき局面
第140回 NZドル米ドル、下落トレンド転換のチャンス到来か
第139回 メキシコペソ円、反発に向けたラストチャンスか
第138回 豪ドル円、調整局面入り
第137回 ユーロ円、昨年8月安値が再び焦点に
第136回 ドル円、短期的な下値リスクに要注意
第135回 NZドル円、さらなる下値余地拡大に注意
第134回 トルコリラ円、過去最安値更新が視野に
第133回 ユーロドル、2023年来のレンジ相場を下方ブレイク
第132回 ランド円、直近の下げ加速なら2020年来のトレンドも怪しく
第131回 豪ドル米ドル、レンジブレイクを回避できるか
第130回 ポンド円、ダブルトップの完成が迫る
第129回 NZドル米ドル、一転下落で下値目標も迫る
第128回 メキシコペソ円、現状は7円台のレンジ相場
第127回 豪ドル円、穏やかな上昇トレンドながら下値リスクもちらり
第126回 ドル円、ポジティブな状況だがあまり強気に立ち回ると・・・
第125回 ユーロ円、直近安値の維持がポイントに
第124回 NZドル円、新たな下落トレンドがスタートか
第123回 トルコリラ円、週足でのトレンド転換はまだまだ遠く
第122回 ユーロドル、下値余地拡大の可能性に注意
第121回 豪ドル米ドル、慎重な判断が求められる局面
第120回 ランド円、一目均衡表の雲上限が今後のポイントに
第119回 米大統領選後のシナリオ別相場展望
第118回 米大統領選のアノマリー
第117回 米大統領選の直前特集、FX初心者向けガイド
第116回 ポンド円、上昇トレンドチャネルが維持できれば・・
第115回 NZドル米ドル、「三角保ち合い」は上方ブレイクで決着
第114回 ドル円、1年半続いた上昇トレンドが終了して今後は?
第113回 ポンドドル、10年来の下げ相場転換に向けて
第112回 メキシコペソ円、一段の下値余地拡大に注意
第111回 豪ドル円、4年続いたトレンドが終了
第110回 トルコリラ円、売り材料豊富で買い向かうには・・
第109回 NZドル円、相対的な上値の重さが目立つ
第108回 ユーロ円、はたして「ダマシ」だったのか
第107回 ランド円、週足は上昇トレンド崩れたが月足は?
第106回 豪ドル米ドル、保ち合いか下落トレンドか
第105回 NZドル米ドル、「三角保ち合い」のブレイクを見極めたい
第104回 ドル円、上昇トレンドは崩れていない
第103回 ポンド円、順調に上値試しを継続
第102回 メキシコペソ円、2022年からの上昇トレンドは終了?
第101回 ユーロドル、現在の下落基調でレンジブレイクなるか
第100回 トルコリラ円、週足ベースでも変化の兆し
第99回 豪ドル円、10数年ぶりの高値の視野に
第98回 NZドル円、ますます上昇トレンドが明瞭に
第97回 ポンドドル、短期的には上方向へ
第96回 ユーロ円、ユーロ導入来高値更新で未知の領域へ
第95回 ランド円、10数年来の相場転換となる可能性も
第94回 ドル円、急落後も上昇トレンドを維持
第93回 メキシコペソ円、上昇トレンドは健在だが・・
第92回 トルコリラ円、大きなチャンス到来か
第91回 豪ドル米ドル、上方向は攻めづらい
第90回 NZドル米ドル、トレンド転換につながる注目ポイントに接近
第89回 ユーロドル、ヘッド・アンド・ショルダーズの完成なるか
第88回 ドル円、5月中にも上方向へブレイクか
第87回 豪ドル円、上昇トレンド継続に黄色信号
第86回 NZドル円、上昇トレンド継続も目先は調整リスク
第85回 ポンドドル、長期下降トレンドの転換は間近?
第84回 ランド円、上昇トレンドは本物か
第83回 メキシコペソ円、レンジブレイクのチャンス到来
第82回 ユーロドル、レンジ相場脱却の手掛かりは乏しい
第81回 トルコリラ円、昨年8月以来のチャンスをものにできるか
第80回 ドル円、上昇トレンドを維持も上値追いは慎重に
第79回 NZドル米ドル、長期下落トレンドのブレイクは失敗か
第78回 豪ドル米ドル、依然として下落トレンド
第77回 ポンド円、来年以降の下値リスクに警戒
第76回 ランド円、ヘッドアンドショルダーズの可能性高まる
第75回 メキシコペソ円、レンジ相場がしばらく継続か
第74回 ユーロドル、メインシナリオはレンジ相場
第73回 ドル円、ポイントは一目均衡表雲の維持
第72回 低迷ぶりが際立つトルコリラ円、反発の可能性は?
第71回 豪ドル円、上値トライのチャンスだが力強さを欠く
第70回 NZドル円、いよいよ過去最高値も視野入りか
第69回 ユーロ円、月足チャートでは不安なし 週足では?
第68回 ポンドドル、一目雲に接近で正念場に
第67回 ランド円、ヘッドアンドショルダーズの懸念消えず
第66回 NZドル米ドルに反発のチャンス到来?
第65回 好調なメキシコペソ円に失速の気配
第64回 ドル円、150円台までは介入の可能性低い
第63回 カナダドル円、110円台への再挑戦が迫る
第62回 リラ円、一目雲を数年来上抜けできず
第61回 今後の豪ドル米ドル相場
第60回 今後のユーロドル相場
第59回 今後のポンドドル相場
第58回 今後のランド円相場
第57回 今後のNZドル円相場
第56回 今後のドル円相場
第55回 今後のメキシコペソ円相場
第54回 今後のトルコリラ円相場
第53回 今後の豪ドル円相場
第52回 今後のNZドル米ドル相場
第51回 今後のユーロドル相場
第50回 今後のユーロ円相場
第49回 今後の豪ドル米ドル相場
第48回 今後のポンド円相場
第47回 今後のドル円相場
第46回 今後のランド円相場
第45回 今後のトルコリラ円相場
第44回 今後のNZドル円相場
第43回 今後のメキシコペソ円相場
第42回 今後のユーロドル相場
第41回 今後の豪ドル円相場
第40回 今後のドル円相場
第39回 ダウ理論とエリオット波動(3)
第38回 ダウ理論とエリオット波動(2)
第37回 ダウ理論とエリオット波動(1)
第36回 ローソク足(3)
第35回 ローソク足(2)
第34回 ローソク足(1)
第33回 一目均衡表(4)
第32回 一目均衡表(3)
第31回 一目均衡表(2)
第30回 一目均衡表(1)
第29回 リトレースメント
第28回 避けられるリスク(その他の国編)
第27回 避けられるリスク(英国・オセアニア編)
第26回 避けられるリスク(日本・欧州編)
第25回「誰にでもわかるチャート教室」 避けられるリスク(米国編)
第24回「誰にでもわかるチャート教室」 ポイント&フィギュア
第23回「誰にでもわかるチャート教室」 練行足とカギ足
第22回「誰にでもわかるチャート教室」 新値足
第21回「誰にでもわかるチャート教室」 パラボリック
第20回「誰にでもわかるチャート教室」 エンベロープとボリンジャーバンド
第19回「誰にでもわかるチャート教室」 MACD
第18回「誰にでもわかるチャート教室」 ROC
第17回「誰にでもわかるチャート教室」 突発的な急変動に対処する
第16回「誰にでもわかるチャート教室」 DMI
第15回「誰にでもわかるチャート教室」 サイコロジカル・ライン
第14回「誰にでもわかるチャート教室」 RCI
第13回「誰にでもわかるチャート教室」 ストキャスティクス
第12回「誰にでもわかるチャート教室」 RSI
第11回「誰にでもわかるチャート教室」 時間軸の考え方
第10回「誰にでもわかるチャート教室」 フォーメーションあれこれ~その4
第9回「誰にでもわかるチャート教室」 フォーメーションあれこれ~その3
第8回「誰にでもわかるチャート教室」 フォーメーションあれこれ~その2
第7回「誰にでもわかるチャート教室」 フォーメーションあれこれ~その1
第6回「誰にでもわかるチャート教室」 移動平均線~その2
第5回「誰にでもわかるチャート教室」 移動平均線~その1
第4回「誰にでもわかるチャート教室」チャネルラインと外国為替市場の独自性
第3回「誰にでもわかるチャート教室」相場の方向性が一目瞭然、トレンドライン
第2回「誰にでもわかるチャート教室」相場のトレンドを探る
第1回「誰にでもわかるチャート教室」 相場が不安定だからこそ、チャート分析に頼りたい

為替情報部 アナリスト

岩間 大祐

大学卒業後の2004年に国内証券会社に入社。 外国為替証拠金取引業務に携わった後、金融情報サービス会社にて個人投資家向けの為替情報配信業務を担当。市況サービスのほか、テクニカル分析を軸にした情報を配信する。 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト。

岩間 大祐の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております