暗号資産ウォッチャー これに注目!

第149回「ビットコイン、大物のケンカも影響限定 SEC委員長のおかげで対ドルでは11万ドル台乗せ」

BTC円、あの2人のケンカが?

 

代表的な暗号資産のビットコイン(BTC)は、2025年6月11日20時頃、対円では1590万円前後と前週(7日前)比で約4%高い水準で取引されています。BTCドルが10万9200ドル台での値動きです。

 

BTC円は5日夜から6日早朝にかけて、1520万円台から1443万円付近と約1カ月ぶりの安値圏まで売り込まれました。ハイテク株を中心に米国株式市場が弱含み、リスク資産と位置づけされることが多いBTCへの売り圧力となりました。

 

米株売りの先導したのは、実業家イーロン・マスク氏が率いる電気自動車テスラです。同社株はこの日、14%急落しました。きっかけは、同社CEO(最高経営責任者)であるマスク氏とトランプ米大統領の関係崩壊です。

 

マスク氏は先の米大統領選からトランプ陣営へ巨額な支援金を出資し、政権内に入り込むことに成功。しかしながら、財政健全化を訴えるマスク氏と大規模な税制法案を推し進める大統領とでは意見が合いませんでした。トランプ大統領が電気自動車購入の税制優遇を取り止めることも、2人の溝を広げました。

 

※Trading Viewより


上のチャートをみると、ビットコインの下落とテスラ社株(TSLA)の急落はほぼ同じタイミングで起きています。テスラ社は週末にかけて下げ渋るも、週明けから投資判断の引き下げが相次ぎました。経営者のマスク氏が、大統領と近過ぎたことへの反動は大きかったようです。


もっともテスラ株は5日の安値を下回ることなく、11日は5日の終値水準よりも14.5%高く引けました。買い手の主役は個人投資家とされています。これまで何度かテスラ株は暴落していますが、そこで拾っておけば高い確率で利益が出るという経験則からの買いのようです。


リスクセンチメントは良好に

 

結局、暗号資産市場ではテスラショックは長く続きませんでした。米中貿易摩擦が和らぐとの期待が高まったことが支援材料の1つです。貿易問題についてトランプ米大統領と習近平国家主席が電話で会談を行い、閣僚級の交渉をロンドンで開催することが明らかになりました。

 

5月米雇用統計が予想より強かったことも支持材料とされました。雇用統計の前哨戦とされた同月ADP全米雇用報告が、前回から改善が期待されていたところから一転し悪化していました。必ずしもADPと労働省の統計がリンクしているわけではありませんが、市場は悪い数値を身構えていたようです。

 

ADP雇用統計とは、米国の給与計算代行サービス会社ADP社が発表する「全米の非農業部門雇用者数の月次推計値」のこと。通常は、米労働省の雇用統計(非農業部門雇用者数など)の2日前に明らかにされる。

 

雇用統計の結果は手放しで喜べるものではないにしても、予想を上回る内容でした。

 

リスクセンチメントが良好となり、BTC相場は再び上げ足を強めました。BTCドルが10万ドルを前に下げ止まったことも、買い安心感に繋がったようです。

 

相場のリスクセンチメントとは、市場参加者の投資に対する心理状況を示す。相場に対して強気(良好、リスクを積極的に取る)か、弱気(悪化、リスクに消極的)かを指す。


 

 

※Trading Viewより

 

新たなSEC委員長が…

 

週明けのBTC相場は10日早朝にかけて上昇力を強め、対ドルでは11万ドル台乗せに成功しました。きっかけとされるのが、4月に米証券取引委員会(SEC)委員長に就任したポール・アトキンズ氏の発言とされています。

 

9日にSECが開いた暗号資産円卓会議(Crypto Task Force roundtable)でアトキンズ委員長は、「私有財産を自己管理する権利は、米国の根底にある価値観である」と言及。この「自己保管権」はデジタル世界においても失われてならない、との考えを示しました。

 

アトキンズSEC委員長は、これまでもビットコインや暗号資産に対する規制アプローチを軟化させ、イノベーションを促進する姿勢を明確にしていました。SECは同委員長のもと、従来の訴訟中心から市場参加者に適した基準を設ける方向にシフトしています。

 

今回の発言も、ビットコインの根幹となる「中央機関に依存せず個人による資産管理、ブロックチェーン(分散型台帳の一種)」に繋がる「自己保管権」を擁護したことになります。個人ウォレットでのBTC保有が、規制リスクから保護される可能性が高まったと受けとめられました。

 

ビットコインの理念が規制当局に認められた形となり、今後も投資家のビットコインに対する信頼が高まることになりそうです。

 

 

Wu BlockchainのX投稿


この連載の一覧
第149回「ビットコイン、大物のケンカも影響限定 SEC委員長のおかげで対ドルでは11万ドル台乗せ」
第148回「ビットコイン、6月は伸び悩みスタート あの企業は保有拡大・なぜ買うの?」
第147回「ビットコイン、ピザデー15周年に最高値 世界最大のカンファレンス・熱狂し過ぎにはご注意を」
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第137回「ビットコイン、大統領令もサミットも支えとならず 期待し過ぎに要注意」
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第134回「ビットコイン、伸び悩むもドミナンスはしっかり 暗号資産全体では気になるサインが」
第133回「ビットコイン、悪材料を消化し新たなETFや準備金への期待 米国は先を行く」
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第131回「ビットコイン、大統領令への期待先行 東欧の国からも準備金の考えが?!」
第130回「ビットコイン、また最高値を更新 TRUMPに振り回される」
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第125回「ビットコイン、最高値更新後の急落 しかし嵐が過ぎ去ればまた」
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第121回「ビットコイン、どうにも止まらない あの企業はやはり買い増し・米国は戦略的な…」
第120回「ビットコイン、最高値更新はトランプ様のおかげ 単なる投資対象としてではなく…」
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第107回「ビットコイン、夏バテ気味 リスク回避の流れに逆らえず」
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第105回「ビットコイン、分散化が強さ 米大統領選の影響はより不透明に」
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第65回「急騰の要因は色々あれど、マスク氏も関係?米議会の混乱や債務増もポジティブ材料に」
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第63回「ビットコイン大台回復、大手参戦が追い風に たまには他のコインも要チェック」
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第61回「ビットコイン、9月は本当に"fall"なの?今年もアノマリーが気になる」
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第59回「どうしたビットコイン?スペースXのせいなのか さて、どのサインを信じるか」
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第51回「現物ETF 承認への期待大! ただし一旦落ち着く必要も・・・」
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第49回「BTCの占有率上昇、ただし市場が盛り上がっているわけでは・・・」
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第42回「イーサリアム 待ち時間は延びる、BTC 10カ月ぶりの高値をつけるも・・・」
第41回「ビットコイン 約10カ月ぶりの高値、信じる者は・・・」
第40回「リップル 3月は元気いっぱい、裁判の終わりが見えた?!」
第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
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第37回「まるでジェットコースター、ビットコイン 代替資産としての位置づけも」
第36回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」
第35回「ビットコイン 売り持ちファンドに資金流入、投資家の懸念を反映」
第34回「昨年6月以来の高値更新、ビットコインの上昇要因を探る」
第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」
第32回「ビットコイン、2月も底堅い クリスマスまでには?!」
第31回「イーサリアム、マージから4カ月半 伸び代あり?!」
第30回「悪いニュースに反応せず、アノマリーもあったとは」
第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
第28回「ビットコイン 年始はまずまずのスタート、より身近になった?」
第27回「ボラティリティ低調、でも今年のビットコインは進展!」
第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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