魅惑の海外ETF

ベンチマークはS&P500、米国株全体に投資

米国市場ではETF(上場投資信託)への投資が活発です。大型株に投資するタイプから成長株の指標に連動するもの、米国債の指数をベンチマークとするETFなどさまざまなタイプがあります。


景気やマーケットの動向などに応じて使い分け、リスクを軽減させる手段として活用することも可能です。売買も手軽で、使い方次第で大きな武器になりそうです。そんな海外ETFの内容を簡単にまとめたこのコラム、第1回目は米国の代表的な株価指数のS&P500をベンチマークとするETFをご紹介します。


構成銘柄の98%が時価総額1兆円超

S&P500は米国を代表する大型株の指数です。構成するのは503銘柄。そんなに多くの大型株があるのかどうか疑問もわきますが、実際にあるのです。503銘柄のうち時価総額が日本円換算(1ドル139円で換算)で1兆円を下回るのは7月14日時点でわずか11銘柄。全体の実に98%で時価総額が1兆円を超えているのです。


もちろん非採用銘柄の中にも時価総額の大きい銘柄もありますが、S&P500は時価総額の大きい順に銘柄が選ばれているわけではなく、4四半期連続の黒字といった業績上の条件もつきます。鳴り物入りで上場した赤字の新興企業も採用銘柄になるには一定の実績を積み上げる必要があり、結果的に指数全体の信頼感を高めているのです。



S&P500をベンチマークとするETFは米国市場全体に投資するともいわれており、これまでのパフォーマンスをみると、米国株式市場の成長を謳歌してきたといえそうです。銘柄はいくつかありますが、最も上場期間が長いのが「SPDR S&P 500 ETF」(シンボル:SPY、以下シンボルで表記)です。それもそのはずSPYは米国のETF第1号で、1993年に上場しています。


時価総額は4312億ドルで、米国株全体の中でも12位にランクされています。運用会社はステート・ストリート・コーポレーション(STT)で、グループとして「SPDR(スパイダーと読みます)」のブランドでETFを運用しています。


世界3大資産運用会社がそろい踏み

ステート・ストリート・コーポレーションは世界3大資産運用会社の一角に位置づけられています。残り2社はブラックロックとバンガード・グループで、もちろん両社ともS&P500をベンチマークとするETFを運用しています。


ブラックロックは「iシェアーズ」ブランドでETFを展開しており、S&P500をベンチマークとするETFは「iシェアーズ・コアS&P500 ETF」(シンボル:IVV)です。一方、バンガードは「バンガード・S&P500 ETF」(シンボル:VOO)を運用しています。


時価総額はIVVが3430億ドル、VOOが3310億ドルで、米国株全体の中でそれぞれ20位と21位にランクされています。ETFの時価総額ランキングではSPY、IVV、VOOというS&P500をベンチマークとするETFがベストスリーを独占しているのです。


管理報酬は老舗のSPYが純資産価額に対して年0.0945%と高めで、IVVとVOOはそれぞれ同0.030%で並んでいます。ポートフォリオや投資パフォーマンスは、S&P500をベンチマークとするだけに大きな違いはありません。ここではほぼ毎営業日にデータを発表するIVVをご説明します。


S&P500は世界産業分類基準(GICS)に基づき、情報技術、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材という11のセクターに分類されています。それぞれのセクター指数が算出され、それをベンチマークとするETFもありますが、その説明は別の機会にゆずります。


保有上位銘柄はオールスター

ブラックロックがIVV用のポートフォリオとして発表した業種別ウエート(7月14日付)は、情報技術が28.2%で最も高く、ヘルスケアの13.1%、金融の12.4%、一般消費財の10.8%、コミュニケーション・サービスの8.5%、資本財の8.5%がこれに続きます。(詳細は円グラフ)



保有上位銘柄と時価総額構成比(7月14日付)ではアップル(AAPL)が7.48%で首位です。以下、マイクロソフト(MSFT)が6.81%、アマゾン(AMZN)が3.19%、エヌビディア(NVDA)が2.98%、テスラ(TSLA)が2.01%、アルファベット(GOOGL、クラスA)が1.98%、メタ・プラットフォームズ(META、クラスA)が1.81%、アルファベット(GOOG、クラスC)が1.70%、バークシャー・ハサウェイ(BRKB、クラスB)が1.61%、ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)が1.19%の順です。米国株のオールスターが集結した印象です。



2022年12月末時点でエヌビディアやテスラはベストテンに入っておらず、メタ・プラットフォームズに至っては上位20銘柄からも外れていました。ただ、2023年にはそれぞれ株価が上昇しており、ポートフォリオの上位に食い込んでいます。


分配金は年4回という実績が続いています。2023年の実績は3月が1.647925ドル、6月が1.338569ドルでした。


トータルリターン、13年間でマイナスは2回だけ

ETFの市場価格動向と分配金をもとに算出する投資パフォーマンスは総じて良好です。投資収支の基準となる年間のトータルリターンが2010年から2022年までの13年間でマイナスになったのはわずか2回。そのうちマイナス幅が大きかったのが2022年です。


2021年までの金融緩和で株価が高騰しましたが、金融引き締めへの転換が響き、2022年にはトータルリターンがマイナス18.1%となりました。


ただ、2018年と2022年を除く11回はプラスです。しかも年間のトータルリターンが1桁台だったのは2回だけで、ほかの年はすべて2桁台です。中でも2013年が32.1%、2019年が31.0%、2021年が28.6%と3割前後に達しています。



2009年末のIVVの市場価格は111.61ドルでした。それから約13年半後に当たる2023年7月14日の市場価格はざっと4倍に相当する451.65ドルです。


米国市場では、なぜS&P500をベンチマークとするETFが時価総額でベストスリーを独占するほど人気が高いのか。圧巻の投資パフォーマンスがその理由を雄弁に物語っているといえそうです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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