【知っておきたいリスクの話】では、これまでボラティリティやベータ(β)値について、実践的な内容を中心にみてきました。今回は少し理論的な話も加えてリスクについてみていこうと思います。
株価の変動要因
株価の変動要因を大きく分けると、全体(市場関連)要因と個別要因に分けることができます。
全体(市場関連)要因は、例えばブラックマンデーのように相場全体が急落するような場合と考えてください。最近では新型コロナウィルスの感染拡大初期にリスクオフの流れから世界的な株安になりました。
このような全体相場の影響は、どのような銘柄に投資していても受ける可能性が高いといえます。
個別要因は、決算発表、特許の取得、新技術(新薬)の開発などにより株価が変動するものです。業績の上方修正に伴う株価上昇や、新技術(新薬)の開発による株価上昇はよく目にすると思います。もちろん、業績の下方修正により株価が大きく下落することもよくあります。
システマティック・リスクとアンシステマティック・リスク
現代ポートフォリオ理論では、株価変動の全体(市場関連)要因をシステマティック・リスク、株価変動の個別要因をアンシステマティック・リスクと考えます。
ここで注意してほしいのが「リスク」という用語です。これを「危険」という意味でとらえてしまうとイメージがわきづらくなってしまいます。ここでの「リスク」は「要因」ととらえてください。
分散投資は大事?
投資の教科書にはよく「分散投資が重要です」と書いてあります。
分散投資は、広い意味だと、株式や債券、不動産など複数のリスク資産に分けて投資するということといえます。なお、このコラムでの分散投資はもう少し狭い意味とします。
ソニーや任天堂、東芝などの個別銘柄を1銘柄選んで投資した場合、上記のシステマティック・リスクとアンシステマティック・リスクの両方の影響を受けることになります。
では、投資する銘柄数を増やしていきましょう。10銘柄、100銘柄、1000銘柄と投資する銘柄を増やしていきます。そうすると、以下のようにシステマティック・リスクとアンシステマティック・リスクの割り合いに変化が出てきます。
このように銘柄数を増やすと、システマティック・リスクの比率が高まり、アンシステマティック・リスクの比率が低下します。つまり分散投資を進めれば個別要因が全体の変動に影響を与えにくくなります。これは分散投資の大きな効果であり、分散投資が大事といえる一つの根拠といえます。
個別銘柄のシステマティック・リスクとアンシステマティック・リスクの割合
ここからは個別銘柄のシステマティック・リスクとアンシステマティック・リスクについてみていきます。
ある銘柄のシステマティック・リスクとアンシステマティック・リスクの割り合いを自分で計算しようすると結構大変です。しかし、【知っておきたいリスクの話】第3回「TOPIXを基準に保有株のリスクを知る、その2」にすでにこの割り合いに関するものが登場しています。
それは、ベータ(β)値がどれくらい信頼できるかを表す「決定係数」です。
決定係数は0から1までの値をとり、1に近いほど算出されたβ値が信頼できるといえました。
【決定係数】
実はこれが、システマティック・リスクとアンシステマティック・リスクの割り合いになります。
β値は株価指数(日経平均株価やTOPIX)に対する、個別銘柄の株価の感応度でした。これは株価変動のうち全体要因の影響を受ける割り合いと言い換えることもできます。
まとめると、決定係数は1に近いほどシステマティック・リスクの割り合いが高い(アンシステマティック・リスクの割り合いが低い)、0に近いほどシステマティック・リスクの割り合いが低い(アンシステマティック・リスクの割り合いが高い)といえます。
なお、アンシステマティック・リスクの割合が高ければ、株価が個別要因によって変動する割り合いが高いので、β値が信頼できないということになります。
最後に
今回は少し理論的な話になりましたが、β値と決定係数の関係を理解することに役立ったと思います。決定係数により、自身の保有する銘柄が全体相場の影響を受けやすいのか、それとも個別要因の影響が強いのかを確認することができます。リスクを認識できるようになれば、もはや投資初心者ではないと考えます。