【知っておきたいリスクの話】では、これまでボラティリティやベータ(β)値について、実践的な内容を中心にみてきました。今回はペアトレードを取り上げます。ペアトレードがどのような取引なのか、本当にリスクがゼロなのかをみていきます。
ペアトレードとは
今回は株式のペアトレードを説明していきます。株式のペアトレードとは、同じような動きをする銘柄について、片方を「買い」もう片方を「空売り」するものです。
買いと売りをセットで行うことがペアトレードの特徴となります。なお、買いの銘柄と売りの銘柄は同じ業種から選ぶことが多いといえます。
ペアトレード例
空売りとは
空売りは、「株式を借りて売却し、その後に値下がりしたところで購入して株式を返済する」という取引です。ペアトレードでは空売りを行いますので、信用取引が行える環境が必要となります。
信用取引とは、証券会社に一定以上の担保を預け、証券会社から売買に必要な現金や株式を借りて行う取引です。預けた担保の数倍の取引ができますので、現物取引に比べリスクの高い取引といえます。そのため信用取引には取引開始基準があります。誰でも簡単に取引を始められるわけではありませんので注意が必要です。
ペアトレードと相関係数
ペアトレードでは同じような動きをする銘柄の「買い」と「空売り」を組み合わせますが、「同じような動きをしているか」は一般に相関係数で判断します。
相関係数は2 種のデータの関係を示すものであり、1 から-1 の間で表されます。 相関係数が 1 に近いほど動きが近い、-1に近いほど逆の動きに近くなる(逆相関)と判断できます。
ペアトレードでは相関係数が1に近い銘柄の「買い」と「空売り」を組み合わせます。同じような動きをするということは儲かるときも損するときも同じということです。
では例をみていきます。A銘柄とB銘柄の相関係数が1だったとします。この場合、
A銘柄が5%上昇すれば、B銘柄も5%上昇
A銘柄が5%下落すれば、B銘柄も5%下落
と考えることができます。
では、A銘柄を買って、B銘柄を空売りした場合はどうでしょうか?この場合、
A銘柄が5%上昇すれば、B銘柄は5%下落
A銘柄が5%下落すれば、B銘柄は5%上昇
と考えることができます。逆の動きになるのでリターンはゼロになってしまいますね。
ペアトレードの利益
ペアトレードでは「買い」と「空売り」を組み合わせることでリスクは小さくなりますが、それに伴ってリターンも小さくなるので、普通であれば利益を出すのは難しいです。
ではどうやって利益を得るかというと価格差に着目します。
A銘柄が1000円、B銘柄が950円とします。価格差は50円ですね。同じような動きをするので、
A銘柄が1100円になった場合にはB銘柄は1050円
A銘柄が900円になった場合にはB銘柄は850円
になると考えます。このように「50円の価格差が通常」と仮定します。
あるときA銘柄が1200円となり、B銘柄が1000円になったとします。価格差は200円です。この価格差をイレギュラーなものとすれば、A銘柄が高すぎるか、B銘柄が安すぎるか、その両方か、と考えることができます。これがペアトレードの利益の源となります。
A銘柄を1200円で空売りし、B銘柄を1000円で購入します。
その後、A銘柄が1100円まで下落、B銘柄が1050円まで上昇し、通常の価格差50円に戻ったとします。この場合、売りで100円の利益、買いで50円の利益を得ることができます。
逆に価格差が縮まった時もチャンスになります。A銘柄が1020円となり、B銘柄が1010円になったとします。価格差は10円ですね。この場合、A銘柄が安すぎるか、B銘柄が高すぎるか、その両方か、と考えることができます。
A銘柄を1020円で購入し、B銘柄を1010円で空売りします。
その後、A銘柄が1050円まで上昇、B銘柄が1000円まで下落し、通常の価格差50円に戻ったとします。この場合、買いで30円の利益、売りで10円の利益を得ることができます。
ペアトレードの注意点
ペアトレードはリスクを抑えて、価格差で利益を得ることをめざす取引といえます。ただし、価格差の推移や相関係数は過去の実績をもとにしていますので、将来を保証するものではありません。信頼性が低いということではないですが、過信は禁物です。
また、個別要因で思わぬ値動きになることもあります。決算発表など個別要因の値動きが発生しやすいタイミングを迎える場合は、その前にポジションを解消しておくべきでしょう。
上記の点には留意すべきですが、ペアトレードは低リスクでリターンを得るチャンスがあります。興味を持った方は、まずは信用取引(空売り)ができる態勢を整えるようにしてください。