“使うお金”と、長期間“保管するお金”を区別する

いつまでも止まらない物価上昇に対して、みなさまはどのように防衛しているでしょうか。「インフレに対抗するためには投資をしなければいけませんか?」と聞かれることも増えました。


必ずしも投資を「しなければいけない」ということではありませんが、環境が変わっているため、それに応じて家計管理の意識や考え方も変えていかなければいけないとは感じています。


金融資産の平均額は1,374万円、中央値は350万円


2024年度に設立された金融経済教育推進機構(J-FLEC)が金融広報中央委員会から引き継いで実施している「家計の金融行動に関する世論調査」では、家計の金融資産がリスク資産へとシフトしている様子がうかがえます。


「家計の金融行動に関する世論調査 2024年」〔二人以上世帯〕(インターネット調査、調査時期2024年6月21日(金)~ 7月3日(水)、世帯主が20歳以上80歳未満で世帯員が2名以上の5,000世帯)によると、金融資産の保有額は、金融資産を保有しない世帯を含めた平均額で1,374万円。前年の1,307万円、前々年の1,291万円から徐々に増加しています。


金融資産の中央値は350万円で、ここ数年は毎年減少して2023年は330万円でしたが、4年ぶりに増加に転じました。


ところで、この調査の「金融資産」は、運用や将来の備えとして蓄えているものを指しています。日常的な出し入れ・引落しのための現金や預貯金などは含まず、あくまでも長期間保有するつもりの資金について調べています。定期預金・普通預金といった預金等の区分は問いません。また、事業のために保有している金融資産や、土地・住宅・貴金属等の実物資産も除きます。


「将来に備えた金融資産」を増やした人が増加 


金融資産を保有していない世帯を含む全世帯に対し、1年前に比べて金融資産の残高が増えたか減ったかを尋ねたところ、「増えた」と答えた人は31.8%。前年の27.9%から3.9ポイント増えています。一方、「減った」と答えた人は22.4%で、こちらは前年の27.0%から4.6ポイント減少しています。ほぼ同じ水準感じされられます、コロナ禍前の2019年までは、「増えた」より「減った」の方が多い状態が続いていましたが、近年は傾向が変わってきたようです【グラフ1】。



【グラフ1】を3分の1ずつの期間に分けて考えてみると、傾向の変化が感じられます。リーマン・ショック前後から第二次安倍政権による「アベノミクス」がスタートした時期(2007年~2013年)は、「減った」と回答する人が「増えた」人より20ポイントほど多くいました。また、「減った」という人が「変わらない」を上回っていました。


アベノミクスが本格化し、新型コロナウイルス感染症が発生した頃ぐらいまで(2013年~2020年)には「増えた」が増加し「減った」が減少するようになりました。2021年には逆転し、両者が拮抗していましたが、2023年、2024年と「増えた」と「減った」の差が拡大しました。


繰り返しますが、この調査で定義する「金融資産」は、日常的な出し入れ・引落しのための現金や預貯金などは含んでいません。将来のために備えている金融資産の残高を増やしている人が増加しています。


株式や債券の値上がり、配当や利払いで金融資産を増やした


では、金融資産が増えた人は、どのような理由だったのでしょうか。金融資産を保有している世帯のうち、「金融資産が増えた」と回答した人にその理由を尋ねました。5年前の回答と比較してみると、2024年は「株式、債券価格の上昇」と「配当や金利収入」のおかげで金融資産が増えたと回答している人が急増しています【グラフ2】。



公表されているデータで最も古い1989年は、「定期的な収入が増加したから」という回答は、52.8%でした。コロナ禍の2021年には25.6%まで落ち込みましたが、近年の賃金上昇で回復してはいます。ですが、「お金にも働いてもらう」という考え方が広まっていることをも感じさせられます。


また、年末に日経平均株価が当時の最高値をつけた1989年でも、「株式、債券価格の上昇により、これらの評価額が増加したから」という回答は9.3%でした。


なお、金融資産を保有している世帯で「金融資産が減った」と答えた人の理由は、「定例的な収入が減ったので金融資産を取り崩したから」が最も多い41.8%で、次が「耐久消費財(自動車、家具、家電等)購入費用の支出があったから」(21.2%)となっています。


一方、減った理由として2024年に最も多かった回答は「定例的な収入が減ったので金融資産を取り崩したから」で41.8%。近年は40%前後の推移で特に変化は見られませんでした。次は「耐久消費財(自動車、家具、家電等)購入費用の支出があったから」で21.2%、コロナ禍以降は20%代前半で横ばいです。


減った理由で目立ったものは「旅行、レジャー費用の支出があったから」です。2020年~2022年が5%前後とコロナ禍の影響を受けていましたが、2024年は17.6%で前年の13.5%から4.1ポイント増加。公表されているデータで最も古い1989年以降の最高を記録しています。


価格変動のある金融商品は、長い間資金を保管する「道具」と考える


最後に、金融資産の保有目的について見てみましょう。


人生の三大支出は、住宅資金、教育資金、老後資金といわれます。金融資産の保有目的として、回答の多いものを抜粋して【グラフ3】に示しました。



三大支出のうち、「老後の生活資金」は断続的に増加しており、2024年は68.5%で前年の67.4%から1.1ポイント増えました。「子どもの教育資金と結婚資金」と「住宅資金」はバブル崩壊後から長期的に減少傾向で、2024年はそれぞれ24.9%、9.3%でした。少子化や低金利の影響でしょうか。「病気や災害への備え」は、近年に急低下し、2024年は47.7%。万が一の備えより、確実に訪れる老後の資金準備を優先している様子がうかがえます。


保有目的として老後の生活資金が圧倒的となっています。これこそ使うまでには長期間ありますので、相応のリスクを取ることができるうえ、インフレにも備える必要があります。購入や支払いを予定しているものと同じように価値が上昇する金融商品を保有しておく意識が大切になってくるのではないでしょうか。

預貯金は「当面の使うお金」として確保したうえで、これまでリスク商品とよばれていたような株式や投資信託は、「物価と同じ方向に上下動する、長期間保管する道具」として考えてはいかがでしょうか。


【出典】「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯〕(金融経済教育推進機構)


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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