BYDが秋に失速、成長回復のカギは「BEV」戦略

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販売台数、9-11月は前年同月割れ


BYD(01211/002594)は電気自動車(EV)含む新エネルギー車の世界的大手です。2024年の新エネ車メーカー販売台数ランキングでは首位の406万3350台で、2位の米テスラ(178万9226台)を大きく引き離しています(Clean Technica調べ)。もちろん、中国市場でもトップです。


ところが今年の秋はBYD車の売れ行きに陰りが見えました。25年11月の販売台数は前年同月比5.3%減の48万200台にとどまり、3カ月連続で前年同月割れとなったのです。中国汽車工業協会(CAAM)のデータによれば、9-11月の新エネ車の新車販売台数はそれぞれ27%増、27%増、21%増。24年通期の36%から減速したとはいえ堅調に増えていますから、業界の王者が市場で守勢に立たされていることは明らかです。


プラグインハイブリッド車の不振が痛手

BYDが販売不振となった最大の要因は、中国での新エネ車の売れ筋が、内燃機関での走行も可能なプラグインハイブリッド車(PHEV)から、バッテリーだけで走行する純電動車(BEV)に移ったことでしょう。BYDの11月乗用車販売データをみると、BEVが前年同月比19.9%増の23万7500台、PHEVが22.4%減の23万7400台でした。BEVとPHEVの台数はほぼ同じですが、PHEVの落ち込みが全体の足を引っ張った形です。1-11月累計ではBEVが206万6000台と前年同期比32.7%増えたのに対し、PHEVは206万4600台と5.5%減りました。


ライバル各社の状況をみると、PHEVの落ち込みはBYDの問題というよりも、市場のトレンドであることが分かります。例えば、技術的にPHEVの1種と位置付けられるレンジエクステンダー(EREV)を主力とする理想汽車(02015)は25年1-11月の納車台数が48万200台と前年同期比18.1%減りました。中国の主な新エネ車メーカー5社のうち、前年同期割れしたのは理想汽車だけです(次の表参照)。



中国当局は純電気車の優遇強化


一方、BEVを主力とする新エネ車メーカーは高成長が続いています。「XPeng」ブランドで知られる小鵬汽車(09868)は25年1-11月の納車台数が前年同期比156%増の39万1900台に達しました。やはりリープモーター(09863)も小鵬汽車に近い伸び率です。同社の朱江明会長は12月24日、25年通期の販売台数が60万台近くに達し、26年の販売台数目標を100万台に設定したと明らかにしました。


中国メディアによれば、BEVが伸びる裏側でPHEVが退潮する背景には、2024-25年に中国各地の当局がBEVへの優遇を進めた結果、PHEV優遇措置が相対的に縮小したという事情があります。中国政府はエネルギー安全保障と技術の海外依存からの脱却、脱炭素化を基本政策に組み入れています。この政策からすると、内燃機関や変速機などの海外の先進国が依然として強みを持つ技術を必要としないBEVはPHEVよりも好ましいといえます。しかもBEVならば、ガソリンやディーゼルを全く消費しません。


BYD、BEV重視に路線変更


もっとも、中国自動車行政の力点がBEVにうつっていくことは、BYDの想定内だったようです。事実、同社は財務報告書の中で、BEVに重心を移す戦略を示しています。具体的には、1000ボルト級の超高電圧BEVアーキテクチャーの開発や、バッテリーを床構造材に統合するCTB(Cell to Body)車体構造とBEVモジュール設計「eプラットフォーム」の採用などを挙げました。


そもそもBYDは、国有企業で占められていた中国の自動車業界に他の業界から参入した民間企業である、既存の業界構造を変える存在でした。同社はもともと電池メーカーでしたが、2003年に買収によって自動車製造に乗り出し、しばらくはガソリン車を主力としていました。ガソリン車の生産から撤退したのは22年3月で、それほど昔の話というわけではありません。行政方針や技術パラダイムの変化による市場構造の転換は、BYDにとって緊急の事態ではなく、常に先んじて対応準備を進めておくことでした。


BYDの王伝福会長(中央):AAストックス



車載電池に強み、海外展開とマルチブランド戦略に注目


祖業である電池も引き続き同社の強みです。同社が開発した「ブレードバッテリー(刀片電池)」はリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池で、ニッケルやコバルトといった高価格な希少金属を使わずに済みます。車載電池は電気自動車の車体価格の3-4割を占めるとされていますから、ブレードバッテリーの内製によってコスト面で優位に立てるわけです。


また、国内市場の競争激化に直面するなか、海外での販路拡大と現地生産も進めつつあります。運転支援システム/自動運転技術、人工知能(AI)モデル活用などの技術展開や、富裕層向けのサブブランド「仰望」などのマルチブランド展開も投資の観点から引き続き注目していきたい点です。次回以降のコラムでご紹介していきます。


中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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