中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回もBYD(比亜迪:01211/002594)の続きです。
▼参考
・意外と身近にある中国株、街中で探してみた(5) 電気自動車の王者BYD、日本で販売台数を伸ばす「夢を実現する会社」
・香港市場の主要銘柄:BYD(1) 中国電気自動車の王者、創業者・王伝福会長を支えた見返りを求めない兄夫婦の愛情
・香港市場の主要銘柄:BYD(2) 王伝福会長の決意と従兄の支援、深センで電池メーカーとして創業
・中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
電池メーカーとして2002年に香港市場に上場
深センで携帯電話用の電池メーカーとして事業を開始したBYDですが、1997年に追い風となる出来事が起きます。アジア金融危機です。景気悪化による需要の落ち込みで電池価格が20-40%下落し、製造コストの高い海外勢は採算割れの危機に直面します。取引先の倒産などでBYDも打撃を受けますが、すでに低コスト生産を実現していたため、ニッケルカドミウム電池で世界シェアの4割近くを握ります。このときBYDは創業からまだ3年です。
1997年にはリチウムイオン電池の生産を開始し、2000年には初めて自社工場も建設。モトローラやノキアなど世界の大手携帯電話メーカーとリチウムイオン電池のサプライヤー契約も結び、勢いそのままに2002年7月には香港証券取引所への上場も果たします。まさに破竹の勢いです。

香港上場時の様子 出所:BYDホームページ
2003年に秦川汽車を買収、自動車事業に進出
新たな事業にも積極的に乗り出し、携帯電話の液晶パネルや筐体などOEM(相手先ブランドによる生産)事業を開始します。これは現在、BYDの子会社であるBYDエレクトロニック(00285)が担っている事業です。
2003年には経営不振に陥っていた西安の秦川汽車を買収し、自動車事業に参入することが発表されます。この発表に投資家は驚きます。何のノウハウもないただの電池メーカーが、自動車事市場に参入するというのですから当然です。
秦川汽車はエンジンの製造技術も持たない地方の弱小メーカーに過ぎず、しかも中国の自動車産業は技術力のある外資との合弁会社がしのぎを削るレッドオーシャン市場です。ガソリン車が席巻する自動車市場ではBYDの持つ電池技術との相乗効果も期待できそうにありません。しかも王伝福会長は自動車の運転さえもしたことがなかったと言いますから、完全な素人です。「王伝福会長は気が狂ったのではないか?」「IPOで集めたお金を無駄なことに使う気か?」BYDの自動車事業への参入に対して市場はポジティブな反応は示さず、投資家は一斉にBYD株を売り、株価は急落します。

買収契約締結時の様子 出所:BYDホームページ
株価急落を受けて王伝福会長は説明に追われます。機関投資家らと1日に3回も電話会議を開き、買収に至った経緯や意図を丁寧に説明します。特に強調した点は電池製造で築いたBYD独自の低コスト生産による優位性です。自動車の生産ラインに安価な「農民工(出稼ぎ労働者)」の労働力をうまく組み合わせたBYDの「自動+手動」の生産モデルで、高コストの合弁自動車メーカーに対抗できると考えたのです。そして、仮に失敗したとしても秦川汽車の規模から言って損失は大した金額にはならず、数カ月分の利益だけで十分に損失をカバーできると説得したのです。
出来る出来ないに関わらず、もう秦川汽車を買ってしまった以上は実行するしかありません。会社を立ち上げたときと同じく、王伝福会長は自ら退路を絶ち、未知の分野に踏み出す挑戦の道を選んだのです。
奇しくも後にEVで最大のライバルとなる米国のテスラ(TSLA)が誕生したのも同じ2003年です。翌年の2004年には実業家のイーロン・マスク氏がテスラの会長に就任します。イーロン・マスク氏は後にブルームバーグのインタビューで、BYDをばかにして見下すような発言をしたことがありますが、BYDとテスラとの競争はこの年、静かに始まったのです。
次回もBYDの続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、主に自動車と電池を手掛けるBYD(01211/002594)で、香港証券取引所メインボードと深セン証券取引所A株市場に重複上場しています。
【中国の自動車・電池メーカー】電池を祖業とし、03年に自動車事業に参入。22年3月にガソリン車の生産から撤退し、純電気自動車とプラグインハイブリッド車に完全シフトした。自社開発のリン酸鉄リチウム系の「ブレードバッテリー」は米テスラなどにも供給。都市軌道交通事業も手掛ける。子会社のBYDエレクトロニック(00285)を通じてスマホや電子機器の受託製造サービスも展開。米著名投資家のバフェット氏の出資で脚光を浴びた。
【中国の電子機器受託製造業者】電子機器受託製造(EMS)業者として部品製造や組み立てを請け負う。親会社のBYD(01211)が大口顧客。電子・IT、AI、5G、IoT、熱管理、新素材、精密金型、デジタル製造といった技術を強みに、製品ソリューションを一括提供する。事業分野はスマートフォン、新エネルギー車、AIデータセンター、スマートホーム、ゲーム機器、ドローン、3Dプリンター、IoT機器、ロボットなど。





