内需拡大へ、中国当局が新たな振興産業に指定
中国の政策文書で「銀髪経済」という言葉を目にすることが近年増えています。例えば中国指導部が2024年12月に開いた中央経済工作会議は、国内需要の拡大を2025年の経済政策の重点と位置付け、「首発経済、氷雪経済、銀髪経済を積極的に発展させる」と決めました。
中国コンサルティング会社の中商産業研究院によると、銀髪経済とは、衣食住から医療・介護・ヘルスケアまで、高齢者にさまざまな製品やサービスを提供する活動と消費を含む経済活動全体を指します。対象業種は養老・介護施設や医療サービスにとどまらず、高齢者向けの金融、観光、エンターテインメントなど広範です。
なお、「氷雪経済」については連載第64回でご紹介しました。「首発経済」とは“初登場経済”という意味で、企業が新製品や、新業態、新技術を発表したり、初店舗や地域本部を開業したりする経済活動の総称です。
25年の予想規模は9兆元、35年には30兆元市場の期待
中国の市場関係者は、人口全体に占める高齢者の比率が急速に上昇するにつれ、銀髪経済も成長すると期待しています。中商産業研究院の予測では、中国の銀髪経済市場の規模は2024年に8兆元に達し、2025年には9兆元に成長する見通しです。
深セン市の南方科技大学の金李副校長は3月4日、2035年までに銀髪経済の規模が約30兆元に上り、2050年には控えめに見ても1億人の雇用を生み出す見通しを示しました。同日に開幕した全国政治協商会議(中国の国政助言機関)で「銀髪経済は未来に関わる青春事業であり、みなさんの参加が欠かせない」と呼びかけ、「銀髪シンクタンクの設立やボランティア活動などを通じて、高齢者が引き続き力を発揮できる機会を創り、『高齢人口のボーナス』を掘り起こすことができる」と語りました。
中国では、人口増が経済成長を押し上げる「人口ボーナス期」はすでに終わり、少子高齢化で働き手が減る「人口オーナス」が重荷になると懸念されています。しかし金氏は、高齢者に限れば人口ボーナスが残っていると指摘したわけです。
国内需要を喚起、社会不安を一掃 攻めと守りの両面作戦
ポイントは、高齢化の進展を労働人口の減少や社会保障制度への圧力といった負の側面ではなく、高齢者向け市場を活性化させる機会ととらえる考え方です。これは「シルバーエコノミー」として日本を含む多くの国が取り組んでいます。中国にとってもネガティブな要因への対策という「守り」と、国内需要の喚起という「攻め」の両面を持つ政策課題です。
少子高齢化の加速や潜在成長率の低迷といった構造問題が深刻になれば、社会に先行き不安が広がるのは中国も例外ではありません。中国の李強首相は5日開幕した全国人民代表大会(全人代)で政府活動報告を行い、2025年の重要任務の一つとして「社会保障の強化と民生政策の改善に力を入れ、社会ガバナンスの実効性を高めること」を挙げました。
李首相はその上で「公共サービスと社会保障の水準を引き上げ、社会の調和と安定を促進し、国民が実感できる幸福と安心を絶えず増強する」表明。養老年金や養老保険の制度改善などと並んで産業振興に言及し、「人口老齢化に積極的に対応し、養老事業および養老産業の政策・制度をより良く発展させ、銀髪経済の発展に力を入れる」と述べました。
中国経済メディア『智通財経』によると、中国の市場関係者が特に注目する銀髪経済セクターは養老事業と高齢者向け金融です。養老事業では、光大証券は老人ホーム・介護事業を手掛ける北京健康(02389)、養老事業への出資を広げている天津泰達バイオ(08189)、「椿山万樹」ブランドで養老サービス事業を展開する龍湖集団(00960)をテーマ株としました。一方、国聯証券は銀髪経済のリポートで、関連金融銘柄として中国平安保険(02318)、中国銀行(03988)、新華人寿保険(01336)に注目するよう勧めています。