iDeCoのゴール設計図 ④出口戦略で一番大切なのは生活設計

これまで3回にわたって、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(確定拠出年金)の受け取り時に知っておきたいポイントをお伝えしてきました。


第1回は「①受け取り方の概要」、第2回は「②受け取り時の税金」、第3回は「③一時金の受け取りと税金」、そして最終回の今回は、出口戦略の全体像を描くにあたって大切なことで締めくくりたいと思います。


勤務先に退職一時金制度のある人


最近、DCを「どのように受け取ったらお得なのか」と聞かれます。


この質問の背景には、第3回で説明した、退職一時金との関係があります。【グラフ】は、厚生労働省が調査した、企業の退職金制度導入状況です。退職所得控除の調整を気にする必要があるのは、退職金制度がある企業にお勤めで、一時金の支給がある方です。ほかに、中小企業の経営者や個人事業主で、小規模企業共済の共済金(退職事由)を受け取る方も同様です。



iDeCoや企業型DCの受け取り時期への関心が高まっているのは、法改正によって退職所得控除の調整が厳しくなるためです。ですが、過度に気にするのはいかがなものでしょうか。


そもそも人生設計に合った受け取り方でなければ、いくら優れた制度であっても、十分に活用できたとはいえないからです。節税は、手段であって目的ではないのです。


たとえば、勤務先の退職金や公的年金、再雇用などで働くか否か、手元の資金を運用するのかどうか、どのようなペースで資金を使っていくのか、など、多角的に判断することが大切です。


今後の人生設計を立てる


とはいえ、多くの人は、特に人生設計を立てていなかったり、「先のことなど分からない」と思ったりするものです。ざっくりで良いので、今後の人生をどのように送りたいのかのプランを立て、それに伴うお金の出入りを見積もるとよいでしょう。


具体的には、たとえば次のように考えてみてください。


●現役時代と比べて、家計面で見た日常生活はどのように変わるのか

●日々の生活に彩を添える楽しみには、どの程度の費用をかけるか

●自身や家族の健康面で、資金をどの程度準備しておいたらよいか

●退職後、住宅ローンの残債があるか、あるならばどのように返済していくのか

●大型家電や自家用車などの買い替えや、自宅のメンテナンスといった高額出費の予定はどうか

●子どもや孫に対する資金援助はどうするのか

●高齢の親に対するサポートは必要か、必要な場合は資金面ではどうするのか

●100歳まで生きるとしたら、生活費の取り崩しペースはどのようにするのか


いかがでしょうか。これらはほんの一例です。挙げたらキリがないほどだと感じるかもしれません。状況が変わったらプランを見直せばよいので、時期や金額は正確でなくても十分です。


iDeCoやDCは「使うお金」の一部


将来のお金の使い道やその時期、おおよその金額を思い描いたら、次は、その資金をどこから充当するかを考えましょう。


まずは預金や運用資産の残高を確認します。さらに、公的年金や企業年金の定期収入が何歳からいくら入るでしょうか。退職後に再雇用や起業などで収入を得るとしたら何歳まででしょうか。ほかに、個人年金や相続財産などが入ってくる人もいるでしょう。


iDeCoや企業型DCは、「有利に受け取るお金」である前に、「使うためのお金」の一部です。ライフプランの中で、適した時期や方法で受け取るように計画します。方法とは、一時金、年金、一時金と年金の併用のことで、併用するならどのような配分にするかも考えます。


なお、DCの老齢給付金を受け取る際には、一般的には1回あたり440円の手数料がかかり、受け取る金額から差し引かれて振り込まれます。年金で受け取る場合には、毎回、手数料を負担しなければなりません。


手数料の額は、金融機関や企業型DCの規約によって金額が異なる場合があるため、確認しておきましょう。


また、一時金で多額の給付金を受け取った場合、その後の資金管理を考える必要があります。受け取り後も20年、30年にわたって、資産の寿命を延ばしながら取り崩していかなければなりません。


これらさまざまな要因を考慮して、自分にとってベストな受け取り方法やタイミングを選ぶことが大切です。


お金の流れを見る「キャッシュフロー表」を作成


そのためには、ライフプランを立て、キャッシュフローを作って未来を見通すとよいでしょう。すると、資金はいつ、いくら必要なのかがだいたい見えてきます。資金的に余裕があるのか、それとも家計を切り詰めなければならないのか、といった様子も把握できます【図】。



万人に共通の「正しい受け取り方」など存在しません。出口戦略は節税テクニックではなく、人生の資金計画の一部です。自分のライフプランを軸にし、制度や税制をうまく活かす。その姿勢こそが、iDeCoの本当の「出口戦略」といえるでしょう。



【関連記事】

●『iDeCoのゴール設計図 ①受け取りの概要

●『iDeCoのゴール設計図 ②受け取り時の税金

●『iDeCoのゴール設計図 ③一時金の受け取りと税金


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

石原 敬子の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております