2024年6月18日、不動産投資商品「みんなで大家さん」を運用・販売する事業者に対し、大阪府と東京都は新規販売など一部業務の停止を命じました。同社事業はテレビCMなどでも積極的に拡販されており、数百人からの解約請求が発生しているという報道もあります。まさに「投資のリスクはどうやって見極めるべきか」を体現する事例です。
なお記事執筆時(2024年6月20日)、同社は業務停止命令に対し、一部処分の効力停止を東京地裁に提起し認められています。行政と事業者で主張が対立している段階のため、本記事は特定案件の分析ではなく、プロジェクトファイナンス全体について展開をしていきます。
大阪府の指摘内容とは
今回、大阪府は同社が提供する「成田空港近くのプロジェクトファイナンス」に対して、プロジェクトの計画が訪日外国人向けの観光産業拠点から、食品産業への集積拠点に変更されたことを(ファイナンスの出資者に)説明していなかったことを停止命令の根拠としています。
これを受け、一般的には貸金業務で適用されるレベルの金利に対する意見が目立っています。とりわけインターネットでは「高金利でお金を集めることは危ない!」というコメントも見受けられますが、そもそもプロジェクトファイナンスは銀行融資のつかない案件を高金利で集める手法であり、直接出資者を集めること(直接金融)自体は違法性のあるものではありません。
プロジェクトファイナンスとは?
みんなで大家さんの運営会社が活用しているようなプロジェクトファイナンスとは、既に建築済みの不動産を賃貸用として運用するのではなく、開発・建設が完了し売却し終わったら利益確定する開発行為、およびこのような不動産運用に対する資金調達を指します。
通常の不動産運用に対して銀行(金融機関)が融資するような低金利の案件ではなく、5%~7%といった高利で資金が集められ、運用される仕組みです。
「みんなの大家さん」のもうひとつの特徴は、不動産クラウドファンディングです。不動産は数千円・数万円から取り組みができる株式や投資信託と比べると、多額の現金が必要になります。イニシャルの費用負担を避けつつも不動産投資をしたい投資家にとって、生み出された手法です。
本件が注目されていることで、プロジェクトファイナンスがすべて悪だ。銀行融資以外のファイナンスは違法性が高いと論じているインターネット上の意見もありますが、根本的に別のものです。本件のリスクと、プロジェクトファイナンスや不動産クラウドファンディングそのものが内在するリスクは、そもそも異なる話として認識しましょう。
「有名でCMもしているから」の意思決定前に必要な専門家への相談
そのうえで今回のニュースで強く感じるのは、「有名でCMをしているから」「ほかの人も数多く購入しているから」の意思決定の前に、適切な専門家への相談を習慣化したいということです。企業がM&Aを行う際に財務状況の診断(DD=デュー・デリジェンス)を行いますが、同様のリスクヘッジを個人家計の資産運用でも行う必要があります。
今回のような件でいうと、(出資をしようとしている)直接金融の仕組みを理解したうえで、出資する案件の状況などを可能な限り可視化することができます。そのうえでリスクを踏まえ、出資をするか否かの判断をする段階に進みます。その時に向き合うリスクは、プロジェクトファイナンスや不動産クラウドファンディングそのものもリスクもあれば、本件が独自に持つリスクもあります。それだけ「有名でCMも展開しているから」は今日において、リスク管理において脆弱なものといえます。
資産運用は情報が無償提供され過ぎている?
多少の皮肉も込めて、日本では「水」と「情報」は無料といわれています。投資に関しても同様で、ポータルサイトから数回のクリックを経ると詳細な株情報が溢れるばかりか、騰落率の情報、果てには「この株を買うべき」という推奨情報が無数に現れます。
言い換えれば、それぞれの情報は一方通行であり、その記事が第三者によって客観的見解を用いて書かれたものなのか、それともスポンサーなどの商流的な力が働いているのかはわかりません。
プロジェクトファイナンスなどの中上級者向けであればなおのこと。側に専門家を置き、常に意思決定に意見を求める環境づくりが理想です。これまでそのような習慣は富裕層の特権でしたが、今回の事前予測の難しさ、および昨今のインターネットにおける投資案件の見極めの難易度などを見ると、恒常的な相談体制は十分にコスパを期待できるものと考えます。
今回の件がどのような着地点になるかは(記事執筆時では)わかりませんが、大切な資産を拠出した結果、このようなニュースの当事者になることは誰しも望んではいません。家計と個人資産に寄り添う専門家の必要性をより確かなものとしたニュースです。