株は売り時が難しい
あなたが株を買ったとします。買値は5000円でした。その銘柄が良い感じで上昇して1万円になりました。さぁ、この値段であなたは株を売りますか?持ち続けますか?
「株価が倍になっているのだから、当然売って利益確定!」と考える人もいるでしょう。「これだけ上昇しているのだから、もっと上昇が期待できる!」と考える人もいるかもしれません。リアルの投資でもこういった局面で迷ってしまうことはよくあります。株式投資は基本、売るタイミングは自分で決めなければいけません。
今回は、その判断をする際にも、PERは使えますよ、ということについてお話します。
上がった株は割高になった?
いつ売るかという判断で失敗する確率を減らすには、購入時のPERを把握すること、そして、売却を検討する際のPERがどのくらいの水準なのかを知っておくことが重要です。
先ほどの買値5000円の銘柄に関して、購入時点のEPS(1株当たり当期純利益)が200円であったとします。PERは5000÷200=25倍となります。1万円になった時点でEPSに変化がなかった場合、PERは10000÷200=50倍となります。
しかし、保有期間中にその会社が上方修正を発表する、または、新しい期に入って会社が大幅増益計画を出してくるなどして、当期の利益見通しが大きく切り上がった場合は、PERの水準も変わってきます。仮に、EPSが400円まで切り上がった場合、株価が1万円でもPERは10000円÷400=25倍となり、購入時の水準並みにとどまっていることになります。
《購入時》 EPSは200円
PER=5000 ÷ 200 =25倍
《売却時》
(EPSに変化がない場合)
PER=10000 ÷ 200 =50倍
(EPSが200円→400円に増えた場合)
PER=10000 ÷ 400 =25倍
この場合、前者であれば株価に割高感も出てきていますので、利益確定売りを検討するに良いタイミングと言えます。一方、後者であれば、そこまで過熱感は高まっていないので、まだ伸びしろがあると考えられます。
要は、株価が大きく上昇しても、利益が同じくらいのスピードで増加していれば、必ずしも割高とは言えないということです。逆に、利益水準が大きく変わっていない、先々にも変わる要素が少ない中で、株価だけが大きく上がっている場合には、天井感が台頭してきている可能性があります。
じっくりコツコツでも株価10倍は可能
株式市場では株価が10倍になるような大化け株のことを「テンバガー銘柄」と呼びます。1年や2年で自分の買った銘柄が10倍となるのは、そう簡単ではありません。しかし、15年~20年くらいのスパンであれば、決して夢物語ではありません。以下の表は、EPSが毎期15%ずつ成長する企業があったと仮定した場合の利益の増え方を記載したものとなります。その隣には、PER30倍まで買われた場合の株価水準も記載しています。
企業にとって年率で15%の成長というのは、そこまで高いハードルではありません。それを長期間続けるのは簡単ではないですが、だからこそ、そういった銘柄を発掘できれば、大きなリターンも期待できます。着実に成長する企業というのは途中過程の中で利益が一気に拡大することも多いため、利益が10倍になる時期はもっと手前となることも珍しくありません。
こういった利益成長が続く銘柄とPERの関連性について、ざっくりとした感覚では、PERが50倍を超えてくると、いくら利益の拡大傾向が続いていたとしても、株価がそれを相応に織り込んでいる、すなわち過熱感が出てきていると考えられます。一方、上げ下げを繰り返しながらもPER20倍~50倍くらいのレンジで動いている銘柄は、テンバガーを期待してじっくり持てる銘柄の候補と言えます。
なお、利益成長が続いているのにPERが10倍台前半程度に甘んじている銘柄に関しては、先々の成長期待が大きく低下している可能性があります。この場合は低PERだから大丈夫と保有を継続するよりも、業績不透明感が高まっているとみて、売りを検討した方が良いかもしれません。
PERは自分で売り買いの判断をするためのモノサシ
投資に関しては、損をすることがことさらリスクとして強調されますが、「自分が売った銘柄がそこからガンガン上がってしまった」というのも、フラストレーションを高める要素となります。PERだけであらゆる銘柄の売り時を見定められるほど投資の世界は甘くはないですが、それでも利益に対して株価が何倍まで買われているかということを冷静に確認する視点は重要です。
PERが25倍の場合と50倍の場合では、継続して保有する場合に期待できるリターン・リスクともに大きく変わってきます。株価の変動に惑わされることなく、自分の中でのモノサシを持つという点で、PERにも注意を払うことをお勧めします。