低PER銘柄をトレードする際の注意点
前回は、PER(株価収益率)に関して、その数字の持つ意味を「良く言えば」「悪く言えば」の両面で捉えることが重要ということをお話しました。
今回は、PERが低い銘柄を売買する際の注意点を、低PER銘柄の代表格、かつ投資家人気の高い海運株にフォーカスして掘り下げてみたいと思います。
海運株のPERは極めて低水準
海運株は近年、業績が急拡大して、株式市場の評価も一気に高まりました。
業績拡大に伴って利益も急増したことから、足元(2022年7月12日時点)で。日本郵船(9101)、商船三井(9104)、川崎汽船(9107)の大手海運3社の予想PERは1~2%台と極めて低水準となっています。配当利回りも高く、日本郵船(9101)では10%を超えます。なぜ、これだけ割安に見える銘柄が市場で放置されているのでしょうか。
海運会社の業績は非常に読みづらい
以下は日本郵船(9101)の業績推移となります。
前22.3期は純利益が1兆円の大台に乗せましたが、過去の業績を見ると、17.3期などは2000億円台の赤字となっています。また、今期の会社計画は大幅減益計画となっています。7200億円という数字はここ数年では高水準ですが、これだけ業績の振れ幅が大きいと、実際のところ、どの程度で落ち着くのかが非常に読みづらいです。海運株のPERが非常に低いのは、それだけ、業績面での不確実性が高いことの裏返しと言えるでしょう。
業績が不安定だと妥当株価の算出も困難に
業績が不安定ということは、利益が大きく変動することになります。そうなると、妥当株価の算出も難しくなります。
上の表はEPSにPERを掛け合わせたものとなります。今期予想EPS 4,262円に対してPER5倍台まで買われれば21,310円、10倍まで買われれば42,620円、15倍まで買われれば63,930円という見方をします。
一般的にPERの計算には今期予想EPSを使います。ただ、先ほど述べたように海運株の業績は振れ幅が大きいので、前期並みの実績となった場合と、その前の期(21.3期)の利益でもシュミレーションしています。
もし今期の業績が前期並みとなった場合には、PER5倍の評価(5,973円×5倍=29,865円)でも現状株価から3倍程度の上昇余地があると言えます。一方、前々期並みまで落ち込んでしまった場合には、PER10倍の評価でも8,240円(824円×10倍=8240円)となりますので、現状株価は割安とも言えなくなります。
*なお、日本郵船は2022年9月30日時点で1:3の株式分割を行うことを発表しています。分割後はEPSの水準も変わってきますのでご注意ください。
デイトレには適した銘柄に
一方、こういった銘柄はデイトレードはしやすい部類に入ると言えます。海運大手3社は近年の株価上昇で人気が出てきたことから、今では売買代金ランキング上位の常連となっています。ある程度のボリュームがある上に、株価の落ち着きどころが定まらないため、1日単位でも値幅が出ることが多いです。そしてそのことが、初心者の方や長期目線の投資家の方々の判断を惑わせることにもなります。
デイトレーダーの方々は、10円20円の値動きに目を光らせて売買を行います。そして、時に株価は大きく上に跳ねることもあります。短期的には過熱ゾーンに入ってくるのですが、「海運株はPERが低いから割安」と考えている方々からすれば、上に動きが出てきたタイミングですので買いたい気持ちが刺激されます。こういうところで飛びついてしまうと、高値つかみをしてしまうことも少なくありません。
低PER=割安とは限らない
低PER銘柄は割安と一般的には言われますが、業績の不安定さという点を詳しく見てみると、必ずしも割安とは言い切れないことが、少しお分かりいただけたかと思います。特に海運株は業績変動が大きいので、トレードチャンスも多くある一方、失敗しやすくもあります。海運株は「PERが低いからいつ買っても大丈夫」と考えるのではなく、低PERということは周知されているのだから、下がって割安感がより増した時に買うといったスタンスの方が、高値つかみを避け、投資成果の向上にもつながるものと考えられます。