株式投資 超入門編

第6回】 増資すると株価は下がる?

マイホーム・マイカーなど高額の買い物では、手持ちのキャッシュで一括購入する人は少ないですよね。中には親から資金援助を受ける人がいるかもしれませんが、ローンを組むのが一般的です。会社も同じで、新規事業を始めたり、事業拡大のために設備投資や人材拡充を行うには多額の資金が必要です。


個人と同様に企業も融資を受けて成長投資を行いますが、企業特有の資金調達方法もあります。それが「増資」です。文字通り「資本を増やす」ことですが、企業が新しく株を発行して、その株を買ってもらうことで対価の資金を獲得します。


なお、借り入れによる資金調達をデットファイナンス、新株を発行する資金調達をエクイティファイナンスともいいます。


増資にも種類があり、対価を支払って新株を受け取る場合を「有償増資」、タダでもらえる場合を「無償増資」といいます。増資の方法には、証券会社を通して幅広い投資家に募集をかける「公募増資」や、特定の株主以外に付与する「第三者割当増資」、株主に付与する「株主割当増資」があります。


株は借金とは違って、返済する必要がありません。このため、企業は返済に追われることなく調達した資金を事業に使うことができます。今後に期待して新しく株を買った人(投資家)も株価が上がれば儲けられるため、うまくいけばウィンウィンですね。


しかし、上場企業の場合、いざ増資が発表されると株価が大きく下がるケースが多く見受けられます。資金調達をして事業を拡大させようとしているのなら、成長期待によって株価は上がるんじゃないか?と思いますよね。これについては、株価が下がりやすい原因として、「既存株式の希薄化」が理由に挙げられます。


株式の希薄化とは?


業績指標として、「1株当たりの純利益(EPS)」というものがあります。


<EPSの計算式は 当期純利益÷発行済株式総数>


 

※JTの2021年12月期決算短信から抜粋


例えば、発行済株式総数1000万株、純利益50億円の会社「畑尾電機」があったとします。

上の計算式にならってEPSを計算すると・・・

50億円÷1000万株=EPS:500円となります。


畑尾電機が増資を行い、200万株の新株を発行したとしましょう。

すると発行済株式総数1200万株、純利益50億円となります。

この時のEPSは

50億円÷1200万株=EPS:416.66円となり、EPSが低下していますね。


つまり1株当たりの利益が薄まってしまうことを希薄化と呼びます。




希薄化の影響は

では希薄化が起こるとなぜ株価が下がるのか?というと、これには株価収益率(PER)が関係してきます。

PERは株価の割高・割安を図る指標としてメジャーですよね。

<PERの計算方法は…株価÷EPS>


前述の畑尾電機の株価が、仮に5000円だったとします。

この時、希薄化前で計算すると

5000円÷500円=PER:10倍


希薄化した場合は

5000円÷416.66円=PER:12倍

となり、業績が伸びたわけでもないのに割高感だけ強まってしまいます。


こうなると、畑尾電機の都合で割高になった株を持っているのはリスクが高いと思い、売りに出す株主が出てくるわけです。PERが元の10倍に戻るためには、株価は4166円まで下がらないといけません。


また、増資をしても利益自体は増えないので、配当に回せる原資も増えません。株数が増えれば1株当たりの配当金も少なくなるため、会社側が意図的に配当を増やさない限り、理論上は減配となってしまいます。既存株主にとってはメリットが薄いため、このことも売られやすくなる要因といえます。


増資を発表したら売ったほうがいいのか?


これまでは増資の後に株価が下がった時の理屈を説明してきましたが、増資=売りというわけではありません。基本的に増資は成長のために行うものですし、長期的には調達した資金が利益となって株主に還元される期待もあります。


ソニーの例 赤丸が公募増資の実施時期



上記のチャートは、ソニーが2015年6月30日に公募増資を発表した前後のものです。発表後はしばらく低調となりましたが、その後はみるみる上昇。今では10000円を超えていますよね。


これはあくまで一例ですが、増資は長期的にはプラスとなることもあるため、何のために増資を行うのかをよく見極めたうえで判断したほうがよいでしょう。


他方で、資金繰りに困って得体の知れないファンドを相手に第三者割当増資を実施するケースもあります。こういった場合は投機的な資金も流入しやすいため、注意が必要です。


日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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