【第11回】株価が急落！？　よく聞く権利落ちとは

3月は多くの企業において決算月です。2023年は3月30日が配当金を受け取る権利を過ぎた日（権利落ち日）となるため、配当や優待を受け取りたいと思った人は、すでに買っていることでしょう。

ただ、権利落ち日になると株価が大幅安で始まるケースが見受けられます。せっかく配当がもらえるのに損している！？と不安になる人がいるかもしれませんので、今回は権利落ちについて説明していきます。

配当金について

本題の前に配当金の仕組みについて説明すると、基本的に配当金は会社が稼いだ利益から支払われます。貸借対照表上では株主資本として勘定されている利益剰余金がありますが、これは今までの純利益が積み上がったものです。

※出所：日本郵船　2022年3月期　連結貸借対照表

株式の配当と同じように、持っているだけで収入が得られる金融商品として債券や預金があります。ただ、こちらは負債なので発行企業や銀行は金利を支払う義務があります。一方で、配当金は会社が利益を作らなければ基本的に原資はないですし、必ず支払わなければならないものでもありません。

権利落ちの仕組み

本題に入りますが、結論として権利落ちになると、支払われる予定の配当分だけ株価が切り下がります。例えば株価は1000円で、3月末の配当金が10円の予想だったとします。支払われる配当分だけ株価が引き下げられるため、権利落ち後の基準値は10円低くなります。このため、権利落ち日は前日終値の1000円から見ると10円安の990円ですね。見かけ上はマイナスですが、株主は10円の配当をもらえるので実質的にはトントン。株価が990円であれば損をしているわけではありません。

なお、権利落ち後の株価が990円未満になったら実質的にマイナスとなりますし、逆に991円以上だと実質プラスです。株価はさまざまな要因で動きますので、権利付き最終日の大引け後に好材料が出るなど、買われるキッカケがあれば終値比で上昇するケースもあります。

権利落ち後の動きは？

前述のとおり基準値と比較すれば損ではないものの、実際のところ株価は日々動きますので、上昇することがあれば権利落ち分以上に下落することもあります。

「配当の権利はもらったから売ろう」と思う投資家は多いはずです。次に権利がもらえるのはだいぶ先ですし、他に資金を回した方が資金効率がよいと考える人もいますよね。配当利回りが高ければ高いほど、株主優待を実施していればさらに下落は激しくなる傾向があります。

最近の分かりやすい例では、海運株が挙げられます。2021年以降は、コンテナ船の需給ひっ迫を背景に海上運賃が高騰。海運株の業績急拡大と株価上昇、利回り10％を超える配当が投資家を惹きつけました。そのようななか、海運株が権利落ち後にどのような動きとなったか見てみましょう。

日本郵船（9101）　日足　2023年3月29日まで

出所：トレーダーズ・ウェブ

上のチャートを見ると、過去3回分の権利落ち日ではもれなく株価が大きく下落。ただ、半年後にやってくる次の配当権利日までには株価が回復しました。株価が下がるほど配当利回りは高くなりますので、魅力的な配当利回りを維持できれば時間の経過とともに株価が戻りやすいと言えそうです。

なお、海運株については市況が落ち着いてきたこともあり、来期（2024年3月期）は大幅な減益、減配が予想されています。過去のように半年後に回復するといった予想も難しくなっていることには注意したいですね。

配当金の種類

配当金には種類があります。例えば、上場何周年記念、創立何周年記念、東証プライム上場記念（過去なら東証1部上場）などのめでたい理由で実施する記念配当。業績が絶好調だったので、一時的に上乗せする特別配当などがあります。

大盤振舞のときもあるので、これらを発表すると株価が大きく上昇しやすいですが、その時だけの配当金です。翌期に元の配当金水準に戻ると株価が売られることもあるため、配当金の内訳も確かめておくとよいでしょう。

余談ですが、ごく稀に利益剰余金から配当を行わず資本剰余金から配当を支払うケースがあります。株主から出資された自己資本の一部を株主に払い戻すという特殊な例ですが、こちらについては別の機会にご紹介したいと思います。