保険メディアで法人保険の扱いを見ると、経営者は次世代の長男に事業を承継する際、長男に株式を渡す代わりに、ほかの兄弟に法人税を使った保険金を原資とした現金を渡し、円滑な相続を実現するというストーリーをよく見ます。相続メディアでも同型記事のニーズは高いことが伺えます。
確かに一理あるこのスキームですが、一方でこの流れに違和感を持つのは、家族への譲渡が発生しない状況も多いのではないかということ。特に近年は少子化の背景や、事業M&Aの拡充を見るに、家族では無い人間が会社を継ぐ可能性もあります。
子どもがいても会社を継がず、好きな道を進みなさいという親も増えてきたのではないでしょうか。さて、そのときにも法人保険は円滑な事業承継のため、活用できるものなのでしょうか。
なぜ事業承継時に法人保険の需要が高まるのか
一般的なオーナー企業において、事業承継時に子どもが経営権を引き継ぐとき、最も大切なのは自社株です。遺言を使って特定の子ども(便宜上本稿では長男とします)に自社株すべての承継を希望したとしても、ほかの相続人には法律で定められた資産を渡さなくてはなりません(遺言による指示は民法の相続分より優先されますが、ほかの相続人の利益も担保する遺留分という考え方があります)。
承継時にその対策に耐えうるだけの他の資産(現預金含む)は持ち合わせていないことが多く、現金の確保に法人保険を申し込み、レバレッジを利かせて保険金を確保します。長男はこのスキームで自社株を受け取り、会社経営におけるリスクヘッジを万全にしたうえで会社を継ぎます。
この時に法人保険が本来持つ保障性が福利厚生として活用できるため、ほかのキャッシュづくりよりも法人保険が歓迎されるという構図です。では、家族が会社を承継しない場合も同様に法人保険が役に立つのかを考えていきます。
(1)長く会社に関わった「番頭さん」が会社を承継する場合
まず、数十年オーナーに寄り添った番頭さんが会社を承継する場合です。番頭さんは自社株の承継権が無いので、自社株を承継する人の全面的な信頼が不可欠となります。可能であれば番頭さん自身も少々の自社株を持つことが安定経営に繋がるでしょう。
そのために家族承継の場合と同様に法人保険を活用したり、銀行から株購入の融資を受けるケースもありますが、創業家の意向が大きな影響を持ちます。番頭さんではなく、一足飛びにNo.3以下だった役員・社員が引き継ぐ場合も同様です。またよくニュースで報じられる、数ある会社の経営者をこなすプロ社長の場合もこのケースです。
(2)競合や経営者仲間が会社を承継する場合
先代オーナーの時代は競合だったけれども、同じビジネスで切磋琢磨してきたライバルに会社を承継するというケースも考えられます。この場合は会社を買収することが前提になるでしょうか。売却する方は売却益によってキャッシュが入ってくることはあれど逆はないので、法人保険の関する余地はあまり無いでしょう。
(3)M&A仲介などによって、あらたに縁の生まれた者が会社を承継する場合
最近増えているのが、M&Aを仲介するサービスです。仲介役が売り手・買い手双方にコネクトする場合もあれば、まったく介さずにオンライン上で当人同士がやり取りをする場合もあります。この場合も(2)と同様、法人保険は関わりないものとなるでしょう。
(2)(3)において法人保険が関係ないとお伝えしましたが、あくまで法人保険のレバレッジの利いたキャッシュ確保力の視点からだと必要ないという意味です。
会社の経営者が変わろうと、また仮に売却となろうと役員や社員に対して保険保障が効いているのは大事なことですし、会社のバランスシートとして満期金や解約返戻金を想定した保険の活用は効果的です。その保険が会社経営にとってなのか、事業承継にとってなのかで理解を分けるようにしていただければと思います。
出典:MARR Online
承継型が決まっていないときは法人保険に積極投資を
とはいえ、人生には「もしも」があります。昨日まで元気いっぱい社長業に邁進していても、突然の病気で事業承継が当人ごとになったという会社も多いでしょう。
ならば平時から会社ももしもに備えて法人保険に加入検討することをお勧めします。事業によって生み出した利益を内部留保で残しておくよりも、レバレッジに期待できる分、魅力的な投資方法といえるでしょう。
法人保険の担当者は顧客が経営者や財務担当が多い分、多くの会社や時勢を知っているため、生命保険の相談から拡大し経営相談をできる担当者も多いです。何よりも経営者は孤独なものです。自社役員にも家族にも相談できない事柄を法人保険の担当者にしているという話も聞きます。その視点からも、法人保険への加入検討を進めていきましょう。