大人になって実家とは違う街で家族を持つと、親のことは常に気にかけつつも、何か起こるまで手を打てないリスクがあります。大雨による被害を報じられるメディアを見ながら、自分の親はいざという時、逃げられるのだろうかという懸念を持つ人も多いでしょう。
日頃そのようなリスクを共有しておきたくとも、親からは「自分たちのことはいいから」と言われ、もう一歩踏み込んでおきたかったのに、と思うことも。往々にしてそういう懸念は当たります。突然の自然災害から被害を予防するために、親の資産リスクをどうやってカバーするかという視点です。
自分が育った築年数の経った実家は、昨今の大雨を凌げるか
筆者は北海道生まれですが、九州で生まれ育った配偶者がいます。北海道と九州でもっとも異なるのは台風への感覚です。930hPaという、北海道出身者が聞いたら腰を抜かすような巨大台風も、九州の人から見たら「ちょっと大きいな」という感覚のよう。もちろん九州の人それぞれで価値観は異なりますが、台風や大雪に対する感覚はとても地域性の現れる国だと思います。
ただ、長く住んだ実家は築年数が長くなって劣化しています。過去凄かった〇〇年の台風も△△号でも家は何ともなかったから今回も大丈夫、という根拠の薄い安心感が、万が一の事態を招いてしまわないか、遠くに住む子世代は気を揉みます。
線状降水帯など昨今の大雨が激しいものになっている、築年数の経った実家は大雨への防御機能は低下しているなど、さまざまな注意喚起をしますが、親の「自分たちは大丈夫だから」に勝てるものはなかなかありません。これは大雨に限った話ではなく、大雪や地震に対する備えも同様です。
離れて住む親とのあいだでリスクを共有化する方法を考えたい
セキュリティ会社の出している、親に何かあったときにアラームを鳴らすサービスも、根本的には地震保険もまさか、に対して日常生活を取り戻すためのリスク回収を目的とします。ただ、親の身に何かあってから地震保険金を受け取っても仕方がありません。どうすれば離れて済む親とのあいだで、一緒に暮らしている時のようなリスク共有ができるのかを考えていきたいと思います。
特効薬は無く、親とリスクの共有化を進める意外に方法はない
残念ながら、これをすれば離れて暮らす親のリスクを削ることができるという特効薬的な方法はありません。NHKが非難を呼びかけたら必ず避難先に逃げる、雨が降ったら野山側の部屋では寝ないという親子間での決めごとを定め、繰り返し伝え、親が忘れないことを願うだけなのでしょうか。小まめにリスクを伝え続けることです。
実家の築年数が経過していること、避難指示は明確な根拠のうえで出されること、野山側の部屋で寝なかったがために命を救えたケースがあることを何度も伝えましょう。これは災害に限らず、親の資産減少リスクを減らすことにも効果があります。
LINEで親から届いた「あなた事故にあったの?」
振り込め詐欺による被害が多発しています。犯人からの設定で多用されるのが、離れて暮らしている息子・娘が事故にあったというケースです。高齢者宅という先入観からか電話でATMに誘導するケースも多く、銀行職員窓口の機転で被害が抑えられる場合もありますが、それでも大きな被害が報告されています。特に高齢者にとっては、虎の子の老後資金と貯めていたお金が取られる悪質なケースもあります。
この時に日頃からコミュニケーションを取っておくと、本当に事故にあったのか(?)を伝えることができます。そもそも事故に起こったときの代理人にお金を取りにいかせるわけがないと親に認識して貰っていたら、リスクは半分削減できているようなものです。ある人は親とLINEで常日頃より連絡を取っており、振り込め詐欺の電話があった直後に息子でLINEで連絡を取ったという笑い話もあるほどです。
成年後見や家族信託を持ち出すのは本当に必要になってからでいい
筆者も相続関連の執筆案件を頂くことが多いので、成年後見や家族信託には注目しています。特に家族信託は高齢者の所有財産を現役世代の意思決定下に移す画期的な仕組みだと思います。
ただ、その導入時期は本当に必要になってからでもいいのではないでしょうか。最も避けたいのは、全体から見たリスクの削減に加え、親の持つ「自分に決めさせてくれないのか」というプライドを傷つけることです。現所有者が賛同していない資産はとても扱いが難しいものでもあり、早急に話を進めることで家族間で資産再分配をするうえで大きな弊害となることもあります。
このあたりのバランスはとても難しく、各個別の家庭それぞれの温度感にも違いがありますが、だからこそ話し合って最適解を導いていきたいものです。資産活用の方法に選択肢が数多くあるように、資産防衛にも多くの選択肢があります。