彗星のごとくFIREという言葉が注目されて1年が経ちました。メディアなどの注目度は下火になってきたものの、短期的な投資術ではなく不労所得によって老後資金を確保できるかを問う取組だったFIREの性格上、まだ見通しが出ないよ、という人も多いでしょう。
完全に収入を途絶えさせてはいないものの、なんとなくFIRE「らしき行動」をした人、興味を持った人はどのように考えるべきで、どのように動くべきか、あらためて考察してみましょう。最近になって、より日本人の性格にフィットしたFIREも登場しているようです。
FIREとは?
FIREとはFinancial Independence, Retire Early movementの頭4文字から成る造語で、収入増や支出減を模索しながらアーリーリタイアを目指す人たちのことです。決して揺るがない財産を起業などで築くのではなく、ギリギリ働かなくても大丈夫というバランス感覚が特徴的です。
2010年代後半からミレニアム世代(主に1990年代生まれ)に支持され、世界的なブームになりました。様々な考え方がありますが、王道として日本では「25年分の生活貯蓄を貯める」「投資のインフレ調整後の利回りを4%以上にする」がFIREを定義する要素といわれています。
(1)ファイナンシャルプランナーから見たFIRE
2022年現在、FIREに取組始めた人は自分たちの計算仮説にともない、資産構築を継続しています。メディアで取り上げられる熱量が少なくなったものの、資産形成層のなかで継続して取り組んでる人も多く、投資習慣として定着してきたといえるでしょうか。
ファイナンシャルプランナーの筆者からは、FIREは時代に即したスタイルである一方で、「まさか」に対する備えが無いことに従来から懸念を覚えています。人生は上り坂と下り坂とまさか、があるといわれています。
ライフプランの計画時には考えも及ばなかった病気やケガ、ライフプランの変更可能性があるなかで、ギリギリのリタイアを目指すことはリスクです。これは今も変わりませんが、ブーム1年後を迎えるタイミングでFIREと現実のリスクヘッジを調合した考え方が生まれているように感じます。
顕在化したリスクを取り入れた日本型FIREに注目?
2022年に入り、前年には予想も出来なかったリスクも生まれています。ロシアとウクライナの戦争や物価高騰、急激な円安などです。これらはFIREにおいて資産構築の重要な基準になるほか、既にFIREを達成した人に対して「自分はこれで本当に大丈夫なのか?(リタイアを継続できるのか)」という不安を醸成します。
(1)サイドFIREとは?
サイドFIREとは完全なFIRE(収入の停止)を目指さず、仕事を止めたあとも一定の収入を得ながら生活をするFIREのタイプです。月20万円の支出がある人がFIREをする(25年間の支出額を貯める)には20×12×25で6000万円が必要でしたが、仮に毎月10万円の副業収入を安定して獲得すると年間120万円の25年で3000万円でFIREを達成できることになります。
本来の趣旨からすれば、サイドFIREは本当にFIREなのかとという指摘も生まれそうですが、筆者はこのように毎月の収入を最低限確保しつつFIREを目指すことが、最も日本人の性質には合っているのではと考えます。
FIREを達成しつつ「何かあったらどうしよう」では、本来の趣旨ではありません。副業をしつつ、大筋はFIREとしての生き方を目指していく形は、今後の日本におけるFIREの主軸になるのではないかと予測します。
(2)生命保険はサイドFIREの収入部分に代替するか
さて、FIREに対して生命保険にできることはあるのでしょうか。まず考えられるのは貯蓄型保険の活用です。終身保険の解約返戻金や定期保険の満期金はFIREの資産形成に寄与することができます。
元本割れリスクのある株式運用や投資信託と比較しても、生命保険は確実に予測収益を実現できるため、むしろFIREにはお勧めの運用方法といえるでしょう。
また計画通りにFIREへの準備が進まなかったときのリスクヘッジとして、生命保険の活用場面があるかもしれません。労働による給与や報酬を以ってFIREへの準備をするのであれば一般の貯蓄と同じく、収入保障保険などによってリスクヘッジをすることができます。
自分に適したFIREの形を
ブームのなかではメリットが先行して取り上げられたFIREも、少し落ち着いてきた印象を受けます。そのなかで日本人にあった堅実な?形が提唱されていることは、FIREを目指す人の選択肢を広げるという意味で有意義だと思います。
ライフプランを作るとき、定期的に見直すべきとFPはお伝えします。FIREを目指すと決めたからには気軽に「FIRE前」に戻れるものではないため、なかなかの覚悟を必要とするかもしれません。
我々ライフプランのサポート役としては、相談者のニーズを尊重しながら、引き返しの道筋を可能な限り残しつつ、FIREのような最新の考え方にも協力していければと思っています。