「保険」解体新書

フードデリバリーと自転車保険

悪質な自転車の運転に赤切符というニュースが世間を驚かせています。2022年10月より、東京都における信号無視や一時不停止などの悪質性の高い運転について、警視庁は道路交通法違反としての書類送検や罰金といった刑事罰適用の運用を開始しました。


そのなかで街中を歩いていると、車道をスピード出して走っていくフードデリバリーとすれ違うことが多いです。時に自転車とぶつかりそうになる恐れもあります。万が一の場合、保険による補償の仕組みはどのようになっているのでしょうか。


子どもがフードデリバリーでお小遣い稼ぎをするときは保険による補償を

子どもが大学生になると、自宅にある自転車を使ってフードデリバリーのアルバイトを始めたいという相談を受ける方も多いです。一般的なアルバイトに比べ時間的制約が少なく、体力が有り余っている大学生に最適の業務内容で、今風で格好良い(最後はだいぶ主観入っていますが)アルバイトは高い人気を博しています。


一方でフードデリバリーのアルバイトには高い事故リスクも付随します。掛けられる時間のなかでより高い報酬を得るには、長い距離を最短時間で移動することが求められます。比例して事故リスクも高まり、自損事故で怪我をするリスクは当然として、車両や歩行者への衝突などの損害賠償義務を負う可能性があります。


フードデリバリーの補償は一般の自転車保険では補償対象外になる

いわゆる自転車の運転による事故賠償を補償するには、損害保険や生命保険の特約で設定されている個人賠償保険および個人賠償特約による補償が一般的です。これは自転車の運転に限った話ではなく、何らかの賠償責務を負った場合に全般的に補償する保険です。


スポーツによって他人に怪我をさせた際や、高い場所から誤ってモノを落としてしまった際に対象となります。損害保険として補償内容のメインで補償されている場合と、他の損害保険や生命保険の補完的な補償として「特約」という扱いで提供されているものに分かれます。


ここで共有したいのが自転車保険です。数年前から少短(少額短期保険)の一環として、自転車保険のみに補償内容を限定し、その分保険料を抑えた自転車保険が発売されました。少短とは1年更新で補償上限を1000万円(損害保険の場合)に定めている保険のことです。


損害賠償保険と比較した立ち位置としては、複数の補償内容のなかに自転車による賠償があるのではなく、自転車賠償に特化することで補償額も保険料も抑えた保険といえます。


様々な事故リスクのある子どもならば、損害保険の補償をお勧めします。一方でフードデリバリーのアルバイトを既に始めていて、親として自転車のリスクに取り合えずすぐに対応したい、という場合に少短の自転車保険を選びましょう。


必要なのは「業務用の自転車保険」を選択すること

ここで注意したいのは、少短の多くの自転車保険は補償内容を日常生活の運転に限定しており、いわゆる業務用は含まれていない自転車保険が多い点です。


少短の自転車保険は安い保険料の代わりに補償対象を限定しているため、このような条件が設定されています。当然ですが、これはフードデリバリーに限った話ではなく、蕎麦やラーメンなどの配達などあらゆる自転車による業務行為が対象外となります。


親としては子どもの自転車保険を選ぶ際に、業務用の自転車保険を間違いなく選択しましょう。一番もったいないのは、あまり拘らず保険料を支払っていて、いざという時に補償機能を発揮しない保険に加入していることです。


自転車保険は日本全国の自治体で加入義務化が広がっています。そのため新しい自転車を購入したときは、多くの販売店で加入できるようになっています。お店の担当者は「フードデリバリーに使いますか?」などと聞かないため、一般の自転車保険に加入しがちです。格好良い自転車買ったねではなく、その自転車で仕事をするにあたって、リスクを最低限に抑えるには何ができるのかを優先して考えるようにしましょう。


フードデリバリーの会社で自動加入している場合もある

フードデリバリーの事業会社は急速に増えています。日本国内において大きなシェアを獲得しているUberEats社とWalt社に関しては、同社とのあいだで運搬契約を結んだ時点で保険には自動加入となります。配達ドライバーが保険料を負担する必要はありません。


地方展開しているフードデリバリーの会社や新興会社に関しては、保険領域までカバーが行き届いていない場合もありますので、注意が必要です。またフードデリバリーの隆盛にともない、店舗型のビジネスでも自宅や職場への配達を開始した会社も増えています。


会社によって能動的に自転車保険を検討する具合には差がありますが、無頓着では大きなリスクを負うことには代わりありません。一度自分や家族の現状を認識し、最適の手段を選んでいきましょう。


この連載の一覧
どこで発生しても不思議ではない昨今、地震保険の最新事情とは
投資と保険を組み合わせた変額保険の仕組み、メリット・デメリットとは?
一時払い終身保険が専門家に敬遠されがちなのは何故か
自治体の医療費は無料だから医療保険は不要!の落とし穴
我が子が回転寿司店で迷惑をかけることに親が保険で備えることは可能なのか
40代で結婚した家庭の資産活用術
学資保険はなぜお勧めでは無くなったのか
国民年金にも傷病給付がある?コロナ禍によって変わった公的保障
出産育児一時金の改正までにできることは無いのか
第一生命によるM&A ペット保険の市場規模はどこまで伸びるか
コロナ保険の販売停止から見る「少短の保険よりも現金で貯めておいた方が無難だよね」への考察
生命保険は各社商品が似ていて区別がつかないときどうするか
フードデリバリーと自転車保険
あと5年、公的年金を納めましょう!をどのように腹落ちさせるか
「私たちのことはいいから」のなかで、親の資産リスクをどうやって見守るか
ミサイルで被害が生まれたら損保の対象になるか
家計視点から2022年版10月恒例の物価上昇と円安への対策を考える
ブームから時間が経過し、現在のFIREをライフプランからどう考えるか
生命保険視点から見た家族信託制度とは?
保険に加入している人にとって「インシュアテック」はどのような役割なのか
コロナ禍で夫の事業が失敗したとき、妻はどのようにリスクヘッジすべきか
線状降水帯のリスクは全国一律!火災保険に水害給付をつけることの重要性
「公的保障があれば生命保険は要らない」の公的保障は複雑すぎないのか
40代50代で亡くなったとき、老後のために準備していたものはどうなるのかを考える
60歳を超えても働くのがより当たり前に?令和4年在職老齢年金の変更ポイントと生命保険
誰も行き先のわからない為替変動のなか、外資保険は誰にアドバイスを求めるべきか
明日の気温は41℃?生命保険は熱中症を保障できるのか
家族ではない人間が法人保険を使って会社を「継ぐ」ということ
3人に1人はがんになる、という言葉とがん保険の関係
20代30代に「生命保険は何もいらない」という考え方を専門家が解説する

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

工藤 崇の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております