第一生命がペット保険の大手であるアイペットHDとのあいだでM&Aが完了しました。ペットをひとりの家族として、病気やケガのリスクと向き合うことを保険で解決するペット保険分野はこの数年、著しく市場規模が拡大しています。この背景には人であれば意識せず享受している公的健康保険の仕組みが無いことが強く関係しています。
第一生命による買収額はなんと約390億円
2022年10月7日に報じられた第一生命によるアイペットHDの買収総額は約390億円と報じられています。アイペット側にとっても親会社の同意を得た友好的TOBのため、2023年4月のM&A成立を以って上場廃止となる見込みです。
なぜペット保険はこれだけの市場の評価を得ているのでしょうか。数年前は生命保険の当然ながらペットも病気やケガのリスクがあり、動物病院で診療するため医療費の負担があります。人間に比べて治療費の相場観もわかりづらく、当然ながらペットに体調を聞いて準備することも難しいもの。恒常的な健康管理が難しい側面も強いものです。
また人間の病院数に比べて動物病院は数が少なく、特に手術など高度治療が必要となったとき、ペット自身および買主の交通費や宿泊費負担が難しいものです。ペット保険はこの部分を包括的な保障により、万が一の場合に人間が病気になるより不透明性の高い家計管理のリスクの減少が可能です。
ペット保険に訪れた2つの変化
家族のなかでペットの存在感が増すなかで、近年訪れた大きな2つの変化があります。
1つは高齢化です。令和2年度犬猫飼育実態調査によると、犬の平均寿命は14.48歳、ネコの平均寿命は15.45歳です。統計によるとこの30年でペットの平均寿命は約2倍に伸びたともいわれています。現役世代からともに暮らしていたペットを高齢になった飼い主が世話をする老老介護も、万が一飼い主が亡くなったあとにペットの生活拠点をどうするかという死後の問題も大きいものです。
ペット保険では高年齢でも加入できるペット保険を増やし、高年齢化に備えています。また保険会社では飼い主の死亡後にペットを殺処分に繋がる行政の収容施設に預けるようにならないため貯金を奨励し、死後の拠り所を経済的にフォローする信託の仕組みなどを整備しています。
もう1つは医療の高度化です。医療技術の向上により、ペットの高齢化に繋がるさまざまな技術が提供されるようになりました。それにともない医療費も上昇し、家計への負担が増えています。ペット保険に加入していない飼い主は、まさかのためにペットの医療費に充当できる貯蓄を準備しておくのが理想ですが、計画通りにいかない場合は医療費が家計に大きく影響します。
ペットの治療は実費と自己負担額が同じになる
ペットには公的保障制度がありません。2016年に誕生したペット保険が唯一の相互補償の仕組みとなっているため、ペット保険に加入していなければ治療費実費と自己負担額が同額です。ペット保険の加入検討においては、国民皆保険制度がないことを強調して考えることが大切です。
仮に20万円の医療費が必要になった場合、人間の現役世代であれば自己負担額は3割の6万円になります(3割負担)。一方ペットは公的保障制度がないため、20万円を飼い主が負担します。公的保障の長所は普段意識していなくても、万が一の病気やケガの際に活用できます。医療機関では健康保険証を提出することで自己負担上限額の支払で完了する手軽さも魅力です。
ペットの医療費は万が一のことを考えるため手のつけられないお金としての管理になるうえ、実際にペットが病気になった際は付き添いや治療方針など解決ごとが重なり、なかなか金銭的な対策まで手が回りません。日頃からペット保険への加入を検討し、いざというときのリスクを減らす準備が不可欠なものになります。
主なペット保険の補償は医療費の100%ではない
なお、ペット保険とはいえ万能ではありません。最大の留意点はペット保険の商品ラインナップには50%補償、70%補償が中心であり、ペット保険に加入したからといって医療費負担リスクが全面的に無くなるわけではありません。
100%補償もありますが、保険料が割高に設定されているため、先の負担を無くす代わりに現時点での負担が増すという二者選択の構図です。実際にはペット保険で50%ー70%の補償内容で安心感を得つつ、貯蓄などで同時並行の対応を進めていきましょう。
今回の大型M&Aは現状のペット保険の市場規模を評価しつつ、今度更に飛躍する可能性を踏まえたうえのディールと見ることができます。対象となるペットの拡大やより親身な飼い主保障など、開拓前のサービス領域は未だ数多くあります。
生命保険領域のガリバーともいえる第一生命のノウハウを注入することで、ペット保険が今後どのような市場拡大を実現するのかという点も、楽しみの1つといえるでしょう。