ついに来たかというべきか。それとも約束違反だと抗うべきか。60歳でお金を稼ぐプレッシャーが無くなるとは思えないけれど、あと何年かと数えたくなるような区切り感が60歳にはあります。先日、お金を稼ぐことと因果関係にある公的年金納付期間が、現在の60歳から64歳までの延長が検討されているという報道が大きな話題を生みました。
厚生労働省ではいま何が話し合われているのか
2022年10月、厚生労働省の部会では以下の2点が話し合われています。
公的年金の納付期間を現状の40年から45年に
1つめは納付期間を現行の40年から45年に伸ばす検討です。現在、20歳から60歳までの40年間年金を納めると、1階部分となる国民年金で満額となる年額777,800円(2022年現在)が受け取れます。最低限年金保険料を受給できる期間は10年であり、40年に満たなかった期間分、満額から未納付期間が按分減少する計算です。
報道されている限りは、40年から45年になったからといって満額支給額が変わるわけではなく、あくまで納付期間が延びることによる負担増が間違いありません。納付者の不満の受け皿として繰り下げ受給や繰り上げ受給が拡大される可能性があるため、これらを上手に活用していきましょうという流れになっていくものと思います。
厚生年金の財源の一部を国民年金にまわす
もうひとつ検討されているのは、国民年金の補完に会社員や公務員が加入しており、比較的財源に余裕がある厚生年金からの一部をまわすことの検討です。厚生年金の受給者からの異論が予想されますが、補完により国民年金の受給額が維持されると、会社員の年金額を維持することにも繋がります(厚生年金の支給額には、国民年金も含まれています)。
60歳以降も働くことのきっかけづくり
年金納付が65歳まで延長されると、自営業者や60歳以降働かない人の負担は増します。起業の雇用延長などで65歳まで働く人は現在も保険料を支払っており、負担は変わりません。
今後、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会が2022年10月内に議論に着手し、2024年に結論を出す予定です。そのうえで2025年の通常国会への改正法案提出を目指しています。
「あと5年の納付」をどのように腹落ちさせるか
少子化と年金財政の維持という錦の御旗を掲げられると、反発したところで変わるものではない、というのが現役世代の本音でしょうか。実際このニュースが報じられた際に街頭インタビューを見ていても、自分たちが反対したところで何も変わらないという諦念も目立ちます。あと5年の納付をどのように腹落ちされるかという点です。
5年の納付延長は自分への投資と考える
本メディアはいまから投資というタイトルです。公的年金に関しても、抗ったところで損をするのは自分のため、ある意味諦念を持って5年の納付延長に向けて準備することが大切です。
このときにお勧めしたい視点は、社会保険と民間の保険の差です。公的年金は納付している中でもしもの事態があったときに、障害年金として支給を受けることができます。
公的年金とセットで保険料を支払うことの多い公的健康保険制度では、1カ月単位で医療費が基準を超えた際に自己負担上限額が設定される高額療養費制度もあります。また、被保険者期間に亡くなった場合も、残された家族は遺族年金にて生活の保障が約束されます。
これを仮に民間の生命保険でカバーしようとすると、社会保険の数倍の保険料が必要となることは疑いなく、そう考えると公的保険はきわめてコストパフォーマンスの良い生命保険と言い換えることもできます。
60歳から65歳のあいだ、コスパのいい生命保険に加入しつつ、繰り上げ制度・繰り下げ制度を活用することによって60歳以後のライフプランを再整備する、今回のニュースは、そのためのきっかけになると考えましょう。
60歳から65歳までどうやって保険料を捻出するのか
もう1つ考えなくてはならないのは、60歳から65歳のあいだの収入をどうするかという視点です。既に65歳までの定年延長が決まっている会社であれば問題ないのですが、そうではない場合は転職などによる収入の目途を立てる必要があります。仮に60歳で退職したとしても貯蓄で年金保険料を納めることはできますが、厚生年金に加入できないデメリットは認識する必要があります。
会社勤めだけが収入を得る方法ではないので、フリーランスとしての副業や資格の勉強、人脈ネットワークの構築なども重要なテーマです。現在55歳の方と、現在20歳の方ではこの5年間に対する課題感も切迫感も異なりますが、自己への投資として取り組んでいくようにしましょう。2025年の法改正を予定しているため、2022年現在55歳の方は確実に当事者としての準備が大切です。腹落ちをして準備をすることで、納得感のある公的年金受取期間を迎えたいものですね。