60歳と聞いてどのような印象を持つでしょうか?還暦を祝う「赤いちゃんちゃんこ」でしょうか。2022年、年金制度にあらたな変更点が加わり、60歳は現役世代として、働いた結果に賃金を受け取る年と改めて定められました。いわゆる「在職老齢年金」です。
2022年在職老齢年金はどのように変わったのか
在職老齢年金とは、老齢年金の納付が終わる60歳以降も働く機会がある人のために、賃金と老齢厚生年金の月額合計が所定の金額を超えると年金が減額・支給停止される仕組みです。老齢年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金に分かれていますが、在職老齢年金の対象は老齢厚生年金の部分のみで、老齢基礎年金の部分に減額・支給停止の適用はありません。
(1)支給停止基準が28万円→47万円に
この減額・支給停止基準はこれまで月額28万円でした。2022年4月から、この金額が47万円に緩和されています。
60歳を過ぎて定年を迎えても、定年延長や嘱託職員にて以前の職場に勤務し続ける人がいます。また、それまでのキャリアを旗に転職をしたり、フリーランスとして再スタートを切る人もいます。その方々にとって月額28万円以上という報酬は現実的なもので、これまでは仕方なく働く時間を短く調整する人もいました。
国としては年金財源に限界があるほか、さまざまな要因で運用している年金財源に損失が生まれることもあります。年金受給年齢を迎えたといっても元気な人には引き続き自分の報酬を稼いで貰い、既に受給年金が収入の中心となった人の対応をしたいという狙いが見えます。
(2)働き続けることのメリット「在職定時改定」
いくら元気とはいえ、仕事を辞めた人だけが年金を十分に受け取り、元気な人は働いてね、では誰も納得できません。そこで2022年4月の改定では、60歳以降も収めた老齢厚生年金において、毎年10月に翌年の年金受給額に反映する仕組みを導入しました。これを在職定時改定といいます。
(在職定時改定の仕組み)
出典:日本年金機構
(3)老齢厚生年金の受給開始時期の選択肢拡大
同時期に、現行70歳まで繰り下げが可能だった老齢厚生年金の受取開始時期が75歳に引き上げられました。これまで繰り下げた期間1カ月あたり0.7%増額されていましたが、さらに拡大します。75歳まで老齢厚生年金の受給を引き上げると、60歳から受け取る時に比べて184%の受給額増加になります。
生命保険は令和4年変更点においてどのように考えるべきか
生命保険は全般的に、これら公的保障に対応して加入検討をすべきものです。令和4年の各種変更点に対しては、どのように考えるべきでしょうか。
(1)働く風潮への対応
在職老齢年金改定の目的ははっきりしています。現役世代と同様に報酬獲得ができるのであれば、年金受給に頼らず自力で生活を維持して欲しいという国の狙いです。
働くということは、これまでの20歳から60歳の方々と同じく、働けなくなったときへのリスクヘッジが必要になります。病気やケガに対する医療保険に加入しているけれども、60歳で定期を迎える商品の場合は更新か、終身型への変更を検討しましょう。終身型への変更は年齢が低いほど保険料が抑制されます。
もうひとつは就業不能保険や収入保険です。現役世代は継続的な収入が無くなったときに生活保障が必要になりますが、60歳以降は家計により支出内容は大きく変わります。
結婚や子どもの誕生が遅い家庭などは、教育費や住宅ローンの返済(住宅購入のタイミングも遅かったとして)が60歳から65歳時点にも続いているため、これらの保険ニーズは高いものです。
一方、既に子どもが独立していたり、住宅ローンを完済しているというのも十分に考えられる年代です。この場合は子どもたちに対する支出が幾らぐらいなのかを具体的に出したうえで、個別具体的に親世代への保障必要性に付加するという考え方が大切です。
(2)終身保険は「一旦受け取る」のも選択肢
終身保険はどうでしょうか。現役世代に加入した終身が、もっと年齢が低い段階で万が一のことがあるリスクを見ています。60歳前後を迎え、保険料を支払い続けていても、実はそこまでの保障は既に必要無くなっているというケースは十分に考えられます。
その場合はいったん解約して解約返戻金を受け取り、次の段階として再度貯蓄型の運用を検討するのもひとつの選択肢です。終身保険のほかにも定期保険や、株式運用なども選択肢に入ってくるでしょう。
長く終身保険に加入していることで、60歳を過ぎてから新規の加入を検討するより保険料を抑えられるという側面はあります。ただ、必要保障額以上を保険料として投資しても仕方ありません。終身保険の解約返戻金は老後資金を目的にしている場合も多く、いわゆる「老後世代に入っても老後資金を貯め続けない」ように注意しましょう。
高齢化社会を迎え、よりグランドデザインが必要になる世の中が到来しています。今回の法改正を契機にして、自分にとっての回答をしっかりと見つけていきましょう。