少子化問題の解決は今日の日本にとって喫緊の課題です。かつ諸課題のなかでの優先度はきわめて高いものです。2021年に総務省が発表した人口推計では1950年以降最大となる64万4000人が前年から減少しています。これは東京の江戸川区(約67万円)や千葉県の船橋市(約61万人)の人口に匹敵します。
出産育児一時金の改正は2023年春を予定
出産費用は自己負担という事実は意外にもあまり知られてはいません。子どもを産むときの正常分娩は公的健康保険の保障する病気やケガには該当しないため、医療費全額が自己負担扱いとなります。対象外の理由は、正常分娩には医師の治療行為が行われないためというものです。
なお帝王切開は異常分娩と定義され(異常分娩という言葉はどうかと思いますが)、健康保険の対象になるため、現役世代は自己負担上限額である3割負担です。
子どもを産むときの費用は順調ならば全額自己負担となります。そこで健康保険では対象外である代わりに出産育児一時金を支給しています。金額の根拠は実際の正常分娩にあたって出産費用がいくら必要になるかが定期的に議論されて決められます。
1994年の制定時は30万円だったものの、定期的に出産費用の算定が行われ、2022年からは42万円となりました。なお22週以降の出産が対象で一児あたりの支給額が408,000円、産科医療補償制度の対象となる医療機関で出産した際は12,000円加算され42万円となります。一般的には合計額の42万円で認識されている制度です。
なお公的健康保険のほかに民間の保険会社による出産保険や妊娠保険があります。これらは損害保険や少短(少額保険)に類するもののため公的健康保険との関係はありません。
1年に61万人減るのに「来年の4月から」でいいのか
この出産育児一時金が増額を予定しているというニュースが2022年10月末に報じられました。増額するタイミングは2023年4月です。子ども家庭庁のスタートと歩調を合わせたという解釈もありますが、1年に61万人減るのに悠長なスタートでいいのでしょうか。
開始までのあいだ、経過的にできることは無いのでしょうか。理想論とは重々理解しつつも筆者は23年4月までのあいだ、経過措置としてできることがあるのではないかと考えます。
申請制度による実費支給
出産費用の算出は複雑な計算が必要なものではないので、2023年4月までの出産は実費支給で対応できます。現在子どもを妊娠している方が一時金が上がるからといって、2023年4月以降の出産を望んでも希望が叶えられるものではありません。いわゆる住宅購入の買い控えとは異なるため、妊婦さん間の不平等も是正できるでしょう。
妊娠直後に申請作業が大変ならば配偶者による申請を可能にしたり、新型コロナの給付金で対応したようなオンライン申請制度とすることで簡単に解決することが可能です。マイナンバーと住民票が連携しているならば、活用することも可能なはず。大切なのは制度設計上、2023年4月からの出産事例だけを対象とするではなく、出生率の向上は本当に喫緊の課題のため経過的措置を採用したという平等感では無いかと考えます。
医療費控除による優遇も可能か
実費支給が難しければ、本人または配偶者の所得税や住民税を軽減するという手段もあります。税徴収においては会社員・公務員の年末調整、または自営業の方に対する確定申告という制度が整っています。
住宅ローンの購入費用(住宅ローン控除)や生命保険料控除などがあるため、出産費用の取得控除が現実味の無い話ではありません。もちろん現行制度が一時金支給であるのに対し、所得控除はあくまで「控除額」であり税金軽減額では無いため調整が必要ですが、これから年末調整、確定申告と続くなかでタイミングの合っている施策ではあると思います。
子ども家庭庁の設立で具体策発表となるか
出産育児一時金の増額支給が開始する2023年4月には、子ども家庭庁が設立されます。内閣府の子ども・子育て本部と厚生労働省の子ども家庭局を移管する家庭庁は内閣府の外局として設立され、総理大臣直結の子ども政策担当大臣が統括します。
各省庁に対して勧告権を持つものの、具体的に子どもを持つ親などファミリー世代、学校など教育に関連する直接的な施策を出せるのか訝しむ意見もありますが、行政が子どもを産み、育てる環境づくりの優先度を上げているのは間違いありません。
4月の家庭庁スタートに前後して、今回の増額のように即興性のある施策が打ち出され、注目を集めることが期待されます。そのなかには今回提案したような所得控除のような話も出てくるのかもしれません。筆者は子どもがいませんが、社会全体で子どもを育てるための一助となることはできます。将来を担う子どもたちを、社会の一員としてともに育てていきたいものです。