次のGAFAを探しています

【次のGAFAを探しています】第18回:テラドック・ヘルス(TDOC)「遠隔医療界のアマゾン」

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


米国の医療難民、深刻な社会問題に

米国には日本のような医療分野の国民皆保険制度がなく、増え続ける医療難民が深刻な社会問題となっていました。こうした中で登場したオバマ大統領(在任期間:2009-17年)が推進したのが医療保険制度改革法(オバマケア)。すべての国民が十分な医療サービスを受けられることを目指し、2014年に運用が始まりました。


ただ、トランプ前大統領がオバマケアの廃止を掲げて支持を集めるなど米国でも賛否が割れているようです。トランプ大統領の任期中に廃止されることはなかったのですが、今後どのように制度が変わるのか予断を許さない状態が続くとみられます。


米国の医療費がとてつもなく高いのは有名で、旅行中に高額の診療代金を請求されたという話をときどき耳にします。医療訴訟のリスクを念頭にした過剰な検査などが医療費を押し上げるとされていますが、消費者としてはどうしようもなく、十分な医療サービスを受けるには民間の医療保険などに加入せざるを得ないようです。


ニューヨーク証券取引所に上場する遠隔医療サービス大手、テラドック・ヘルスは大企業や医療保険、病院、保険・金融会社などを主要顧客としており、契約企業の従業員や保険加入者といった有料会員を対象にサービスを提供しています。


遠隔のかかりつけ医、オンラインで初期の問診

有料会員は、テラドックのプラットフォームを通じ、登録した医師の診察をオンラインで受けることができます。電話やビデオチャットなどを通じ、かかりつけ医が手掛けるような初期の問診(プライマリーケア)をはじめ、メンタルのヘルスケアや慢性疾患の管理などのメニューがそろっています。



米国ではかかりつけ医にプライマリーケアを受けるという仕組みが定着していますが、テラドックが発表した2021年12月期の年次報告書によりますと、現役世代の4人に1人がかかりつけ医を持たず、5人に4人がかかりつけ医と緊密な関係を築けていないとのデータもあります。


こうした制度の穴を埋めるためにテラドックが提供しているのが「プライマリー360」というサービスです。オフラインの診療では、まずかかりつけ医が診察し、病状によって専門医の手に委ねるという流れですが、オンライン診療でも「プライマリー360」がゲートウェイとなり、病状などに合わせて次の段階のサービスを選択することができるのです。


テラドックのプラットフォームは着実に成長しています。2022年7-9月期の決算報告書によりますと、2022年9月末時点の米国での有料会員数は5780万人に上り、1年前に比べて530万人増えました。会員数増加の原動力になっているのがコスト競争力です。


会員数が着実に増加、大手500社の半数が加入

オンライン診療は対面に比べて医療費が安く、福利厚生の一環として従業員とその家族に医療補助を提供する大企業はテラドックとの契約でコストを抑制しているようです。特に全米各地そして世界各地に従業員のいるグローバル企業にとっては相性の良いサービスといえそうです。


実際、米フォーチューン誌が発表する売上高の上位500社(フォーチューン500)のほぼ半分がテラドックと契約しています。また、2021年末時点でテラドックと契約する医療保険は100を超え、病院は600超。コストが抑えられるだけに導入のハードルは低く、それが利用者数の伸びを後押しするという好循環が生まれているようです。


テラドックのビジネスモデルでは有料会員から毎月徴収するアクセス料金が最大の収入源で、売上高全体の88%を占めています(2022年7-9月期)。有料会員数は段階的に増えており、会員1人当たりのアクセス料金も上昇しているため、売上高が継続的に拡大しているのです。


会員数の着実な増加という自律的な事業成長に加え、テラドックは企業買収という飛び道具も有効に使っているようです。2020年にナスダックに上場していた遠隔医療サービス大手、リボンゴ・ヘルスを139億ドルで買収し、一気に業容を拡大しました。


「遠隔医療サービスのアマゾン」

リボンゴは糖尿病や高血圧といった慢性疾患の管理に強みを持ちます。遠隔医療の技術を使いつつ、アプリやハードウエアを組み合わせて生活習慣のマネジメントを手助けします。リボンゴの買収は事業領域が重ならない相互補完的な側面が強く、効果的だったようです。


2020年には遠隔医療用のハードウエアとソフトウエアを開発するインタッチ・テクノロジーズを11億ドルで買収しています。インタッチの主力製品には、ベッドサイドまで容易に運べる医療用モニターカートなどがあり、やはり遠隔医療サービスとのかみ合わせは良好なようです。


2015年にニューヨーク市場に上場したテラドックは上場後に規模を拡大させています。2015年12月期に7700万ドルだった売上高は2021年12月期には買収効果もあり、26倍超の20億3300万ドルに急増しました。もちろん新型コロナウイルス流行を背景とする遠隔医療サービス需要の急増も追い風になっています。



米国の遠隔医療サービスの分野では、アマゾンが「アマゾン・ケア」を2022年いっぱいで終了することを決めています。ただ、2020年には処方薬を取り扱うオンライン薬局を立ち上げ、2022年には対面やオンラインで医師の診療を受けられるワン・メディカルを買収するなどこの分野での覇権を諦めたとは受け止められていません。


アマゾンが「遠隔医療サービスのアマゾン」になるのを食い止め、テラドックが「アマゾン」になれるのか。今後もこの分野の動きを注視していく必要がありそうです。

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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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