次のGAFAを探しています

【次のGAFAを探しています】第17回:ギンコ・バイオワークス(DNA)「生きた化石」

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


創業者はマサチューセッツ工科大学で博士号

秋の深まりとともにイチョウが色づき、今年は神宮外苑でイチョウ並木のライトアップが行われるようです。イチョウは約2億年前のジュラ紀に繁栄し、その頃に生い茂っていた多くの植物が絶滅するのを横目に生き延びたそうです。恐竜が闊歩していた時代からほとんど姿を変えていないとも言われており、ダーウィンはイチョウを「生きた化石」と呼んでいます。


生きた化石のイチョウ(英語でGinkgo)から社名をとったギンコ・バイオワークスは人工細胞(スマートセル)の開発に必要な設備やソフトウエアなどで構成するプラットフォームを提供しています。顧客の企業などがスマートセルを低コストで開発するのを支援するのです。



創業は2008年。マサチューセッツ工科大学でこの年に博士号を取得したジェーソン・ケリー氏、レシュマ・シェティ氏、バリー・カントン氏、オースティン・チェ氏に教授のトム・ナイト氏が加わった5人が共同で立ち上げました。


4人のうち最高経営責任者(CEO)のケリー氏と社長兼最高執行責任者(CEO)のシェティ氏、技術戦略部門の責任者であるカントン氏が生物工学で博士号を取得し、チェ氏が電気工学とコンピューターサイエンスで博士号を取っています。


博士号を取得した4人が選んだのは研究を続ける道ではなく、合成生物学を商業利用する道でした。ギンコ・バイオワークスが掲げているミッションは「生物学のエンジニアリングを容易にする」です。共同創業者は研究者だったゆえに研究開発の難しさを熟知しており、開発の手助けがビジネスに結びつくことを確信していたのでしょう。


人工細胞開発に必要な技術・設備を提供

ギンコ・バイオワークスは、スマートセルを作る過程で必要になるソフトウエア、設備などのハードウエア、ロボティクス技術などを「ギンコ・ファウンドリー」と呼び、ワークフローの柱のひとつに位置づけています。


ファウンドリーでは遺伝情報を構成するDNA(デオキシリボ核酸)の設計などに加え、こうしたDNAの細胞への組み込み、スマートセルのパフォーマンス検査、データ分析といった機能を提供し、顧客を支援します。


ソフトウエアやオートメーション技術、データ分析はスケールメリットが効く分野のようです。同社によると、ファウンドリーの実積は2015年以来、毎年約3倍の規模に拡大(新型コロナウイルスが流行した2020年を除きます)し、オペレーション当たりのコストは毎年、約50%減少しているそうです。


コスト圧縮を顧客に還元することで、価格競争力が高まります。既存の顧客だけでなく新規顧客もギンコ・バイオワークスを選び、新たな需要も創出する流れの中でさらに事業規模が拡大するという好循環を生み出そうとしているのです。


失敗しても価値あるコードベースに

プラットフォームのもうひとつの柱が「ギンコ・コードベース」と呼ぶ機能で、プログラミングされた細胞など実体のある生物資産に加え、遺伝子配列やスマートセルのパフォーマンのデータなどで構成されています。


プログラムの過程で成功しても失敗しても価値のあるコードベースとなります。蓄積が極めて重要で、ファウンドリーと同様に稼働すればするほど機能が高まり、コードベースが一段と改善するという好循環が生まれるようです。


合成生物学の商業利用は広範な分野に波及し、ギンコ・バイオワークスの活動領域も年を追うごとに広がっているようです。食品、農業、医療・医薬品は代表的なセクターで、バイオセキュリティーや廃棄物浄化といった分野でも実績を挙げています。


顧客企業には穀物メジャーのカーギル、同じく穀物メジャーのアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、農産物の種子や農薬を開発・生産するコルテバ、医薬品のロシュ、測定機器のサーモ・フィッシャー・サイエンティフィック、ワクチンのモデルナなどそうそうたる顔ぶれが並びます。


味の素や住友化学がギンコと提携

日本企業では味の素が2015年にギンコ・バイオワークスとの提携に乗り出しています。まずは微生物の育種開発技術を持つギンコのファンドリーを通じ、発酵生産菌の育種改良に取り組みました。


また、2021年には住友化学とバイオケミカル分野の開発で包括的に提携。2022年7月には化粧品やパーソナルケア製品などの美容分野で協力すると発表しています。


一方、ギンコ・バイオワークスはさまざまな分野で共同出資事業に取り組んでいます。代表格が独バイエルとの合弁会社、ジョイン・バイオです。合成生物学の技術を駆使し、空気中の窒素を取り込む細菌を開発するプロジェクトを進めています。窒素は化学肥料の主要成分であり、窒素を供給できる細菌が開発されて実用化されれば大きな需要が期待できそうです。


ギンコから分離したモチーフ・フードワークスは植物由来の代替肉や代替乳製品を開発しています。ギンコが知的財産権を提供し、プラットフォームへのアクセスを認める見返りにモチーフの株式を受け取っています。さらに2021年には研究開発サービスを提供する技術開発契約を結んでいます。


スタートアップ企業にも積極投資

スタートアップ企業への投資にも積極的で、合成生物学の技術で製品を開発する企業を対象にしています。すべてを現金で投資するわけではなく、細胞プログラミングのプラットフォームとしてギンコのファウンドリーを使う際、利用料としてスタートアップ企業の株式を受け取る仕組みも活用しています。


さらにマサチューセッツ工科大学の教授らが立ち上げたシンロジックにも出資しています。シンロジックは合成生物学の技術を使い、新薬の発見・開発を目指す企業です。



ギンコはとにかく業務提携や資本提携に積極的です。ジェーソン・ケリーCEOはスマートセルをスマートフォンのアプリに例え、「ビジネスモデルはアプリ・ストアのようなもの」と発言しています。独自の生態系を構築し、この分野のプラットフォーマーを目指していると言えそうです。

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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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