GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
CEOはテスラ「モデルS」の開発責任者
ニューヨーク市場またはナスダック市場に上場する銘柄の時価総額ランキングで、GAFAはすべてベストテンに入っていますが、上位5社になるとメタ・プラットフォームズが外れます。アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾンの次、第5位に来るのはイーロン・マスク氏率いる電気自動車(EV)メーカーのテスラです。
自動車業界のゲームチェンジャーと呼ばれるテスラは、2008年に2人乗りの「ロードスター」を発売して人気を集め、2012年に発売したセダンタイプの「モデルS」で本格的な自動車メーカーとしての礎を築いたと言われています。その「モデルS」のチーフエンジニアとして開発の陣頭指揮をとったとされるのが英国出身のピーター・ローリンソン氏。現在のルーシッド・グループの最高経営責任者(CEO)です。
ルーシッド・グループは高級EVの開発、生産を手掛ける新興メーカーで、テスラの脅威になり得るライバルの有力候補。さらにマスク氏とローリンソン氏には確執があるようで、マスク氏はしばしば「ローリンソン氏はモデルSのチーフエンジニアではなかった」と主張し、ローリンソン氏は「自分がモデルSのチーフエンジニア」だったと反論しています。ローリンソン氏は「モデルS」が発売された2012年、英ウエールズに住む母親の介護を理由にテスラを去りました。
イーロン・マスク氏と確執、テスラに弓を引く
辞任理由について「私を必要とする母親がいて、私を不当に扱うボスがいた」と語っており、マスク氏と確執があった点を認めていますが、詳細については口を閉ざしています。テスラの発展に貢献したローリンソン氏がテスラに弓を引くという構図も世間の関心を集めやすく、相手がマスク氏だけにマスコミにとっても格好のネタになっているようです。ローリンソン氏は介護を理由に仕事を辞めたにもかかわらず、翌2013年には早くも最高技術責任者(CTO)としてルーシッドに加わり、2019年にはCEOに就任しています。
ルーシッド・グループは2021年7月、特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じてナスダック市場に上場しました。テスラの対抗馬として人気を集め、5カ月後の2021年12月にはナスダック100指数の構成銘柄に採用されました。GAFAをはじめ、マイクロソフトやテスラなどと並ぶとは言えませんが、ナスダックを代表する銘柄の一員になったのです。
EVの高級セダンを発売、最長航続距離は837キロ
もちろん話題性だけで市場価値が上がるわけもなく、2021年10月に納車を始めたEVの高級セダン「ルーシッド・エア」の特別仕様車「ドリーム・エディション」は高い評価を得ました。最高出力が1111馬力という高水準で、最長航続距離は520マイル(約837キロメートル)。1回の充電で800キロ以上の走行が可能なバッテリーを搭載し、テスラのモデルに大差をつけました。価格は16万9000ドルと高価ですが、航続距離にちなんで520台の限定販売にしたことですぐに予約が埋まり、すでに新車は手に入りません。
「ドリーム・エディション」で高い評価を得たルーシッド・グループは株式市場でも見直され、2021年11月半ばには上場来高値を更新しました。米国の利上げを背景に2022年に入って株価は急落しましたが、それでも時価総額は先週末時点で283億5300万ドル(約3兆8280億円)に上っています。ニューヨーク市場またはナスダック市場に上場する銘柄の中で、時価総額では現在、290位前後。富士通やオリンパス、ブリヂストン、JR東海などそうそうたる日本の大企業を上回る規模を持っています。
ルーシッド・グループはその後も手綱を緩めることなく、「ルーシッド・エア」シリーズの開発を進めています。すでにハイエンドモデルの「グランドツーリング」を発売し、納車が始まっています。価格は15万4000ドル以上と高価ですが、最高出力が1050馬力、最長航続距離は516マイルと「ドリーム・エディション」にもひけをとらないスペックです。
また、2022年第4四半期にはローエンドモデルの「ルーシッド・エア・ピュア」を発売する予定です。こちらは最高出力が480馬力、航続距離が406マイルとハイエンドモデルに比べて性能は劣りますが、価格は8万7400ドルからと初の5桁台の販売価格となります。さらに2024年には高級SUV(スポーツ多目的車)を発売する計画で、開発を進めているようです。
バッテリー技術に強み、量産体制の確立が課題
ルーシッド・グループは設計から開発、生産まで垂直統合型のビジネスモデルを持ち、車両デザインやバッテリー技術に強みがあります。逆に弱みは新興メーカーの宿命ともいえる生産技術。中国の新興EVメーカーのニオ(NIO)のようにデザインと開発に特化し、初期段階では生産を外部に丸投げするメーカーもありますが、ルーシッド・グループは自社生産にこだわっているようです。
アリゾナ州カサグランデにある工場は年産能力が3万4000台に上りますが、今年1年間の生産数の見込みは1万2000-1万4000台。サプライチェーンが機能していない点を理由に当初計画の2万台から下方修正しました。生産が注文に追いつかない現状を踏まえ、2023年末までに年産能力を9万台に引き上げる方向で増強を進めていますが、実際の生産数をどこまで引き上げられるかが課題になりそうです。
さらに開発するクルマのほとんどが日本円で1000万円を超える高級車という点も課題です。現状では富裕層というニッチ市場をターゲットにした新興メーカーという位置づけで、テスラ超えを目指すのであれば普及モデルの投入は避けて通れません。ルーシッド・グループのローリンソンCEOは、こうした声に応え、技術力でバッテリーのサイズとコストの圧縮に取り組む方針です。価格2万5000ドルのモデルを「ルーシッド」とは別のブランドで開発し、2024-25年末までに発売する考えを示しています。この取り組みが成功すればテスラの背中がみえてくるかもしれません。