次のGAFAを探しています

【次のGAFAを探しています】第6回:ユニティ・ソフトウエア(U)

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


創業者はアイスランド生まれ、デンマークで起業

ゲームエンジンの「ユニティ」を開発するユニティ・ソフトウエアの共同創業者、デイビッド・ヘルガソン氏はアイスランドのレイキャビクで生まれました。アイスランドは一部が北極圏に組み込まれ、レイキャビクは世界最北端に位置する首都です。外務省のホームページによると、アイスランドの人口は36万人あまりで、主要産業は観光、水産、水産加工など。一時はスイスやルクセンブルクをモデルとして金融立国を目指しましたが、リーマンショックで国家破綻の瀬戸際に追い込まれて断念しています。


アイスランドは1944年にデンマークから分離・独立したとあって、両国はいまも関係が深いようです。ヘルガソン氏は10歳のときにアイスランドからデンマークに移り住み、その後22年間を過ごしました。コペンハーゲン大学に進みますが、本人いわく「本当に怠惰な学生」だったようです。心理学、物理学、中東政治学など次々に専攻を変えますが、いずれも物にできず、学位は取得できませんでした。ただ、失意の大学生活を経た後には、積極的に起業に乗り出しており、そのひとつが2004年に20代半ばで立ち上げたユニティ・ソフトウエアの前身企業です。やはりデンマークの首都コペンハーゲンで創業しています。


ユニティ・ソフトウエアは当初、ゲーム開発会社としてスタートしますが、うまくゆきません。ゲームエンジンの開発に路線を変更したものの、数年にわたりほとんど収入がない産みの苦しみを味わいます。ヘルガソン氏はまかない料理を目当てにカフェで働き、苦難の時期を乗り越えたそうです。


05年にゲームエンジンの第1弾を開発

ユニティがゲームエンジンの第1弾を開発した2005年、ヘルガソン氏はすでに最高経営責任者(CEO)の役割をあてがわれていました。プログラマーとしての技能がほかの共同創業者に比べて劣り、わずかばかり社交的だった点がCEO就任の理由だそうです。当初は支払い処理、コピーの考案、カスタマーサポートといった雑務をこなしていれば良かったのですが、会社が大きくなるにつれ、戦略の立案、企業買収、資金調達など本物のCEOの役割を果たさざるを得なくなりました。



実際、ゲームエンジンの第1弾を開発した2005年からわずか4年後、資金調達ラウンドのシリーズAで550万ドルを調達します。世界最大級のベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルなどから出資を仰ぎました。ヘルガソン氏は2014年までCEOを務め、ゲーム開発の世界的大手エレクトロニック・アーツでCEOを務めたジョン・リッチティエロ氏にバトンを渡します。ただ、ヘルガソン氏はその後も取締役会にとどまり、今も取締役です。


ゲームエンジンではエピックと双璧

リッチティエロCEOが陣頭指揮をとる中、ユニティは順調に成長し、2020年にニューヨーク市場への上場を果たしました。ゲームエンジンの「ユニティ」は今や業界のスタンダードで、「ポケモンGO」「スパーマリオラン」など「ユニティ」を利用して開発されたゲームは枚挙にいとまがないほどです。パソコン、スマートフォン、タブレット、ゲーム機など多様なハードウエアで利用するゲームの開発に対応し、ゲーム業界ではエピック・ゲームズが開発する「アンリアルエンジン」と双璧をなすといわれています。


ゲームエンジンとはゲーム開発を支援するソフトウエアの総称です。グラフィックスやサウンドを制御する機能などゲーム開発の利便性や効率性に加え、ゲーム自体のクオリティを高めるツールと言えます。ユニティ・ソフトウエアへの注目度が高まっている理由のひとつがメタバース(インターネット上の仮想世界)の発展に伴う事業の成長期待です。


メタバースにはさまざまな定義があるようですが、「三次元の世界」もそのひとつです。インターネット上の三次元の世界をアバター(仮想世界の中の自分の分身)が動き回るとなれば、作成にしても操作にしてもメタバースに必要な技術の基盤はゲームエンジンと共通するとみられます。実際、ゲーム業界では3Dグラフィックスを利用して作る仮想空間などお手のもの。ユニティ・ソフトウエアもメタバース市場の急成長の波に乗り、業容の拡大を目指しているようです。


視覚効果技術を買収、メタバースに布石

メタバースを見据えた具体的な動きとして注目されたのが2021年12月に完了したニュージーランドに本拠を置くウェタ・デジタルの主力事業の買収です。ウェタ・デジタルは映画やテレビドラマの視覚効果(VFX)を手掛ける企業で、「アバター」や「ロード・オブ・ザ・リング」「ゲーム・オブ・スローンズ」などのVFXを担当した実績を持ちます。買収はウェタ・デジタルのツール、技術、受注案件、エンジニアの人員を16億2500万米ドルで譲り受けるという内容です。


ユニティ・ソフトウエアは買収計画に関するプレスリリースの中で、「ウェタのVFX技術をユニティのプラットフォームに統合することで、次世代のリアルタイム3Dを創造し、メタバースの未来を形づくることができる」と記しました。メタバース事業への強い意気込みを感じさせる内容でした。



業績は目論見書で開示した2018年12月期以降、売上高は4割超のペースで増えていますが、赤字も増え続け、2021年12月期の純損失は2018年12月期の約4倍に当たる5億3300万ドルにまで膨らみました。市場予想では2022年12月期に純損失が6億6200万ドルに達しますが、ここがピークで、翌年以降は段階的に減少する見通しです。EBIT(利払い・税引き前利益)は2024年12月期に黒字に転換するとみられています。

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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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