GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
共同創業者はイランにルーツ
このシリーズでご紹介した企業の創業者のルーツはさまざまです。これまでにドイツ、アイスランド、ルーマニア、イスラエル、カナダ、メキシコなどにルーツを持つ人が立ち上げた企業をご紹介してきましたが、今回は日本にルーツを持つ起業家の登場です。
ソフトウエア開発のハシコープを2012年に創業したのは、ミッチェル・ハシモト氏です。ハシコープはマルチクラウド環境などにおけるITシステムの管理や運用を自動化するソフトウエアを開発しています。
ハシモト氏は祖父が日本出身といういわゆる日系三世で、社名は名字のハシモトから取ったそうです。翌年にはワシントン大学の同級生だったアーモン・ダドガー氏が共同創業者としてハシコープに加わります。
ダドガー氏はイランにルーツを持つ人物で、両親は難民として米国に渡ってきたそうです。共同創業者は日系三世とイラン系二世という異なる根っこを持っていますが、それも強みなのかもしれません。異なる文化や習慣、思考、宗教などをろ過すれば、普遍的な価値だけが残り、それは幅広い分野で通用すると言えそうです。
ワシントン大学でコンピューターサイエンスを学んだ共同創業者は当初、2人だけで会社を運営し、初めての従業員を雇ったのは創業から1年以上が経過した2014年1月です。ただ、成長のスピードは速く、それからわずか11カ月後の2014年12月には資金調達ラウンドの「シリーズA」で1020万ドルを調達しています。
ハシモト氏がCTO退任、ひとりの従業員に
資金調達は順調で、2016年にシリーズBで2400万ドル、2017年にシリーズCで4000万ドル、2018年にシリーズDで1億ドルを調達しました。そして2021年12月にはナスダック市場での新規株式公開(IPO)にこぎ着けています。
共同創業者のハシモト氏が最高経営責任者(CEO)だったのは、シリーズBの資金調達の前まででした。2016年7月にはIT業界でキャリアを積んできたデイビッド・マクジャネット氏をCEOに招き、経営を委ねます。ハシモト氏とダドガー氏は共同最高技術責任者(CTO)となり、開発チームを率いました。
ただ、ハシモト氏は技術畑のトップの地位にも満足できなかったようです。ナスダックに上場する数カ月前の2021年8月にはCTOを退任すると発表しました。そして自ら選んだ道はハシコープを離れることではなく、ハシコープの一介の従業員になることでした。
プレーイングマネジャーではなく、純粋なプレーヤーとして「監督」の役回りを離れ、現役選手に復帰したのです。自らの志向や特性がマネジメントにはなく、開発にあると判断したのでしょうか。
ハシモト氏は1989年生まれで、まだ33歳。純粋にエンジニアの仕事がしたくて自ら会社を起こしたとすれば、経営を離れて開発の仕事に特化するのは自然な決断なのかもしれません。
起業のDXを支援、時短やコスト削減を実現
ハシコープは、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するツールを提供しています。同社によると、企業のDXの根底にあるのは、自社内に置いたサーバーなどのIT設備でシステム運用するオンプレミス型からクラウド上にITインフラを移す取り組みであり、ハシコープは自動化を通じて時間短縮、コスト削減、セキュリティーの強化、管理機能の向上などでこうした取り組みを支援できると説明しています。
主要なプロダクトは「Terraform」「Vault」「Consul」「Nomad」などです。TerraformはITインフラの設定や管理のプロビジョニング製品で、新たなITインフラの利用などに備え、実際に対応するプロセスを自動化します。ITインフラの構成をコード化し、構築や管理を自動化する「Infrastructure as Code(IaC)」という手法を使っています。
Vaultは機密管理とデータ保護のツールです。アクセスを管理し、機密データを保護することができます。ネットワークの内外ともに「信頼できない」と仮定して対策を講じるゼロトラスト(何も信頼しない)の考え方に基づき、データの暗号化なども可能で、複雑なワークフローを自動化できるという利点があります。
Consulはクラウドネットワークの自動化、Nomadはクラウドアプリケーションの自動化に利用するツールです。いずれも企業のシステム部門の負担軽減につながるようで、高く評価されています。
使い勝手のいいツール提供で成長
ハシコープは、物理サーバーを使うオンプレミス型と仮想サーバーを置くクラウド型のどちらでも使えるツールを提供しています。特に大企業などでは一気にクラウドに移行するのが困難なケースもあり、併用も多いそうですが、ハシコープのツールは併用を前提にしているため使い勝手が良いようです。
ハシコープは海外展開にも積極的で、2017年には欧州に進出しています。2018年には日本法人を設立し、アジア事業に乗り出しました。2014年1月に初めて従業員を採用してから約8年半が経過し、海外事業を含めた従業員数は2000人を超えています。
ハシコープの業績は売上高が大きく伸びており、市場コンセンサス予想では今後も加速度的に増えると見込まれています。一方、純損失も当面は増える見通しで、中長期的な業績改善の転換点が今後の焦点になりそうです。